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繊細と繊細


1ヶ月ぶりのデート。
初夏のじめじめとした空気と、刺さるような熱い日差しの中で君を待つのは幸せだ。どうかしている。

待ち遠しい待ち遠しい、夏が待ち遠しいと風が鳴るのを聞いていると、君は少し小さくなりながら「お待たせ」と言い、やってきた。
「そんなに待ってないよ」とは言うものの、かなりの時間突っ立っていたこと、君にはお見通しだろう。
ということを、僕はお見通しだ、というか、まあ、そんなことはどうでもいいのだ。


普段はパンツスタイルの多い君だが、今日は珍しくレース地のワンピースを着て来た。
黒くて甘い生地は、小悪魔的な甘味の蜜のようでもあり、魔女的な神秘と魅惑さえも感じた。
初夏の空気の中で、それはあまりに幻想的であった。



「気分的に着てみたくなってさ、……でもあんまり似合わないっしょ」


「ほんと笑える!」と言う君を抱きしめたくなる衝動を抑え、僕はただ黙っていた。


僕は、前からこんな感じの服を着た君が見たいと思ってて、それで…
でも、そんなの照れくさくて言えなかった。
嫌われるんじゃないかとか、気持ち悪いと思われるんじゃないかなとか、癪に障るかなとか、そんなごちゃごちゃとしたことをいつも僕は抱えていた。

君が自分に対しては細やかで、僕に対してはおおらかなこと。
僕にはわかっているのに。


「ほら、このレース可愛いでしょ?この繊細な感じ、すごく私みたいじゃない?」



血の巡りと高鳴りを感じながら、僕はただ「やかましいわ…」と静かに冗談めかす他なかった。
目を合わせることが出来なかった。


僕にはわかる。
僕が黙っていたから笑って冗談を言ってくれたこと、傷つきたくなくて、先回りして自分を傷つけてしまうところ。


「よし、じゃあ行こっか!」


すぐ切り替えて、笑顔になっているけど、本当は照れ屋でシャイな君。
明るく見えて、本当は暗いところに居たい君。
僕によく似ている君。

僕にはわかる。
君の、そんな繊細さが好きだ。

「あのさ」
僕だって照れ屋でダメダメだけど、言わなきゃ。

僕にはわかる。
もしかしたら、たった今、僕が黙っていたことに傷ついたかもしれない、彼女はまだ僕の反応を伺ってるかもしれない、そう思うとより一層「言わなきゃいけない」という気持ちが勝る。


言わなきゃ。
言いたい。


「何?どうしたの?」
「その服、…レースがさ、」


「繊細で、儚くて、魅力的で、その…」



「………ちゃんみたいで、すごく似合ってるよ」



初めて下の名前を呼んだ。
君の心に「ストン」と片足を1歩踏み込ませた感覚。

足がぐらつくような、空中に放り出されたような恐怖。

怖いけど、照れるけど、ぐちゃぐちゃでどうしよう。
着地できるだろうか。


でも、僕にはわかる。

君はきっとこう言うのだ…。



僕は熱い顔を俯かせたまま、君の次の言葉を待った。

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