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大学生への一人旅のススメ:社会心理学の観点から

大学生になったら旅に出よう。どうせならば一人で長い旅をしてみよう。少しのお金と時間さえあれば、旅は誰にでも出来ることです。たとえ、運動神経が悪くても、勉強が苦手でも、語学に堪能である必要もありません。一人旅には憧れるけれど、一歩を踏み出す勇気が出ないというあなた。実は、そんな人にこそ一人旅は向いています。

私が大学生のみなさんに一人旅をすすめる理由は、旅先の環境やそこでの出会いを通して、もう一人の「自分」を知ることができるからです。旅で「自分」を知ることは、自身の成長につながるきっかけや気づきの機会となるのです。周囲の人々との相互作用によって形成される「自己」(社会的自己)を軸に、一人旅が自分を変えるきっかけになることを説明したいと思います。

普段の「自分」を知る

旅先で出会う他者は、あなたの今の心を映し出す鏡のような存在です。旅先で誰かと出会い話をすることは、自分とは違う考え方や価値観があることを知ることができるので、自分自身の考え方や価値観についての理解を深めることができるのです。さらには、自分がこれまで当たり前であるとか、常識だと思っていたことが、思い込みに過ぎなかったり、誰かの言葉に縛られていただけだったりすることに気づく機会になるかも知れません。たとえば、大学に在籍していると、卒業後は就職することが当たり前に感じられることでしょう。しかし、旅に出てみると、大学を卒業し、企業に就職する以外にも、いろいろな生き方があることを知ることができます。また、自宅と大学とで結ばれた日常生活圏から物理的に離れることは、普段の自分を客観視することにもつながります。

臆病で情けない「自分」を知る

普段は家族や友人に囲まれながら生活を送る私たちは、孤独感に対する免疫がありません。「ひとりぼっち」になったらあなたは何を感じるでしょう。1泊や2泊の旅行であっても、とても寂しく感じられたり、ホームシックにかかったりすることもあるかも知れません。とりわけ外国旅行では、何かにつけて違和感をおぼえたり、戸惑いを感じたりすることも多いものです。それらがストレスとなり、精神的にふさぎこんでしまうこともあるでしょう。そんな時は、自分がいかに打たれ弱い人間であるのかを痛感させられます。一人で旅に出ると、そんな臆病で情けない自分にも出会うことができるので、日頃の自分がいかに思い上がった存在であったのかを気づくきっかけになるでしょう。

未知なる「自分」を知る

自己紹介をするとき、あなたは自分をどのような人間であると説明するでしょうか。おそらく、自分自身の性格、能力、趣味などから自分について説明するでしょう。あなたは、そのような自分がどのように形成されたのかについて考えたことがあるでしょうか。実は、私たちの自己イメージというのは、社会での役割や他者との関係性によって形成されるものなのです。たとえば、家庭では子として、大学では学生として、部活動では後輩として、意識するかしないかにかかわらず、私たちは役割を演じ分けています。そして、その役割や関係性をもとにした相互作用(やりとり)から「自分」というものを具体的にイメージしているのです。旅に出ることは、社会的、文化的な環境を変えることでもあります。普段の役割や責任から解放されることで、素の自分や裏に隠れていた自分の本性が表に出てくることがあるかも知れません。あなたが知っている自分は、普段の社会的役割や他者との関係性によって作られたもの、思い込まされたものであるのかも知れません。慣れ親しんだ社会的環境から離れることで、普段は意識しない素の自分に気づくこともあるのです。

行動の結果、新しい「自分」が生まれる

一人旅から帰ってくると、周りの人たちのあなたを見る目が少し変わります。あなたは「一人旅をする人」をどんな人だと思いますか? 好奇心が旺盛で、行動力があって、勇気があって、自由で、という感じでしょうか。あなたが一人旅をすると、周りの人はあなたのことをそのようなイメージでもって見るようになるでしょう。「自己」というものは、私という存在に対する周囲の人々の認識や評価、期待を想像することによって形成されている部分もあるのです。あるいは自分自身も、旅をした自分にだまされるかも知れません。私たちは、自分の行動を観察者の視点で眺めることで、自分自身を理解しているからです。このように考えると、「自己」は自分の中にあるものだけではなく、自分自身で作り上げるものだとも言えるでしょう。

その一歩があなたの人生を変えていく

これからの人生において、新しいことに挑戦するか否かを選択する機会は数多くやってきます。人間は、そもそも面倒くさがりで怠けがちな生き物です。挑戦を選択することが正しいと心のどこかでは思っていても、何だかんだ言い訳をさがして、挑戦しないことを正当化してしまいます。だから、言い訳癖が身に染みついてしまわないうちに、新しいことに挑戦する経験が必要なのです。実際、新しい世界に飛び込んでみれば、その選択が間違いではなかったことを必ず実感できるからです。そのような経験がある人と無い人とでは、その後の人生が大きく違ったものになるでしょう。新しい世界に足を踏み入れることで、自分の世界が広がることを身をもって知っていると、その後の選択の機会でも挑戦すること、やってみることを選択できるようになります。新しい世界や新しいことへの挑戦というのには、どのような場所であれ、何であれ、たとえ何歳になっても、不安はつきまといます。その不安におびえてことを終わらせることは簡単です。でも、大学生のみなさんには、その不安を味わいながら、不安の先にあるだろう何かを見据えながら人生を歩んで欲しいと思います。