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SaaSの販売代理店のビジネスモデル

今回は、最近増えているSaaSの販売代理、パートナーサクセスにおけるビジネスモデルの概略について解説をしてみます。


本記事で伝えたいこと


  • SaaSの販売代理のビジネスモデルと損益構造について理解する

  • デファクト化しているSaaSにとって販売代理モデル(パートナーサクセスモデル)がなぜ重要か、を理解する


SaaS販売の全体像とPLG/SLG

SaaSの販売モデルの変遷として

  • 初期の販売において、PLG(Product Led Growth、テックタッチ)で販売を拡大し

  • その後、SLG(Sales Led Growth、ハイタッチ)でさらに顧客層を広げる

が一般的と考えられる。

特にSaaSの拡大フェーズにおいては

プロダクトが顧客の課題を解決する唯一のソリューションであった(もしくはデファクト化している)場合、PLGからSLGへの転換で販売を拡大する

このようなSLGによって、自社ではリーチできていない顧客層(主にハイタッチ)へ進出する会社が多く存在するようである。

一方、類似のソリューションが世に溢れている場合、プロダクトの磨き込みやポジショニングが必要。営業だけでは差別化しづらくプロダクトの磨き込みが必要。SLGで勝ち続けることが難しい。

特に市場の変化と競合の予期せぬ進出でPLGに戻る事例もありそうです。


国内ではどんなSaaSがSLG、販売代理を推進すべきか?


例えば国内のSaaS企業でデファクト化しているものはSLG(特にハイタッチ)での販売を拡大を進めているところが多い

各社様々な展開をしているが、freee社の事例を取り上げておく。

その際、自社の力だけでなく、アウトソーシングの意味も含め販売代理店を活用することが考えられる。(変動費化できる)

最近は日本でも代理店販売を強化する意味でパートナーサクセスの概念が広がっており、各社がそのような組織を構築している。


参考:代理店の販売方法とマージン

代理店の販売方法としては、

・紹介:情報取次、受注取次
・販売代理・再販
・OEM・卸

などの方法がある。それぞれ役割と得られる代理店マージン(お客様が支払う金額から代理店が得る売上の割合)は異なり、また、業種・サービス特性に応じてマージンも異なる

一般的にSaaS代理店マージン率は、販売代理で20%程度と仮定してこのあとの話を進める。


SaaS事業者と販売代理店のLTV

販売代理で20%程度の代理店マージンを顧客の契約期間中、ずっと得られる場合の損益計算書を考える。

まず、LTVで考えれば

  • ARPU(月次)

  • 解約率(月次)

  • 粗利率 r% 

  • 代理店マージン a%

とした場合、

SaaS事業者が得られるLTVは

LTV = r * ARPU / 解約率

で計算される

販売代理の代理店が得られるマージンは

LTV_代理店 = a * ARPU / 解約率

と考えられる。以下を仮定している。


  • 代理店を介してもARPUは変わらない(価格を変えない:SaaSなので市場価格がwebサイトなどで公開されている)

  • 販売代理店を介しても解約率は変わらない(SaaS事業者のカスタマーサクセスが対応する)

となる。

一般的に 

  • r = 70%(SaaS粗利率)

  • a = 20%(販売代理店のマージン)

であるから、およそ1/3~1/4程度のLTVを代理店が得ることになる。

例えば、ARPU=10,000円、解約率1%の製品を販売代理した場合、

LTV_代理店 = 0.2  * 10,000 / 0.01 = 20万円

となる。解約率が低いSaaS商品を効率的に販売することでLTVを稼いでいくモデルとなる  


SaaS事業者と販売代理店の損益モデル

LTVでの計算をした上で、次は損益計算書のイメージを議論しておきたいと思います。

以前の議論を踏まえると標準的なSaaSにおいては売上に対する比率として


  • 粗利率 r = 70%

  • G&A比率(一般管理費)15~20% ー> 20%と課程

  • R&D比率(研究開発費:いわゆる開発費が含まれる):25~30% ー> 30%と仮定

  • S&M比率(販売/マーケティング):50~80%(特に成長期) ー> 60%と仮定

となっている。つまり損益構造としては以下のものになる。


SaaS事業者の損益モデル

ここに販売代理店のモデルを合算すると、大胆なシミュレーションとしてS&Mをすべて代理店マージンとした場合には以下のものになる。(ただしこのモデルでは、代理店が販売するための販売施策を、全て代理店が準備しなければならないので代理店の負荷が高くなる)


SaaS販売代理店も含めた損益モデル

このように、20%のマージンの中で販売代理店がマネジメントでき、販売を加速することができれば代理店もLTVを獲得できる。いわゆるフロー型の商材ではなく、解約率が低いストック型のSaaSであればトライする価値は十分あるのではと推察される。


SaaS事業者、販売代理店の狙い

ここまで見てきた損益・LTVの構造を踏まえ、そもそも代理店がどのような狙いでこのSaaS販売に参入するかをまとめておきたい。

ポジティブな狙い
・自社商流を活用しマージンを得ながら、自社のサービス提供ラインナップを拡充することで顧客の課題に広くアプローチする
・SaaSに追加できる、組み合わせられる追加のサービスでの付加価値提供し、収益を拡大しながら、SaaSをフック商材・離脱防止のための商材として活用する

別軸の狙い
・自社プロダクト開発をするのではなく、仕入れて売るモデルをメインに事業運営を行う(これはSaaS事業者側も販売は代理店に任せ、プロダクト開発に主軸を置く会社の場合相性が良い)

これらの利害が一致し、全体のモデルが構築できればSaaS販売代理のモデルがなりたつかもしれません。ぜひご参考にされてみてください