関連記事はこちらでご覧ください。
前の記事でデータセンター事業において自治体が収益を上げる主な項目が固定資産税であるということをお伝えしました。
おおよそ全体の歳入の10%強、市町村税の40%が固定資産税になっています。
今回は、実際に千葉県印西市の事例を紹介して、どんなデータセンターがどんな理由で建てられ、どんな効果が自治体に波及しているかを紹介したいと思います。
簡単なまとめ
千葉県印西市には多数のデータセンターが招致され1,000億円以上の投資がなされている
選定のポイントは、強固な地盤、成田・都市圏近くのアクセスの良さ、電力インフラ、海底ケーブル
印西市の固定資産税もどんどん増加しており、歳入比率は25%程度まで増加
印西市では固定資産税が40億円ほどアップしている(データセンターによる直接的な影響度合いは不明)
データセンターはライフサイクルを勘案しても数十年投資が続くため安定的なストック収入になり得る可能性がある
内容を解説していきますね、少し長くなりますがお付き合いください。
印西市(INZAI)とデータセンター
印西市は千葉県にあり千葉ニュータウンで栄えた街です。最近は多数のデータセンターが軒を連ねるデータセンター銀座と呼ばれているようです。
県議会議員の岩井やすのりさんの解説がわかりやすいです。
様々なニュースが日々出ておりますのでいくつかピックアップしておきます。
動画で見る時はこちらの解説がわかりやすいです。
データセンターが生み出すものと地元への還元
データセンターはサーバーの集まりですので、基本的にはサーバーラックを置いておくだけです。それを監視・管理する仕事は多少増えますが、あまり雇用を生み出すものではないです。
実際にインタビューで印西市長も固定資産増への言及をしています。具体的な税収影響は後で推察をしております。
岩井議員のブログでも言及されています。
なぜ印西市が選ばれたのか?
データセンターは極論サーバーを置くだけですので、どこでも作れそうに感じてしまいます。ただ、印西にここまで設備が集中しているのはいくつかのポイントが組み合わさっているようです。
印西市の「千葉県印西市基本計画」を見てみます。こちらから引用させていただきます。
https://www.city.inzai.lg.jp/cmsfiles/contents/0000017/17147/kihon.pdf
印西市が目指す将来像と地理的メリット
将来像の概略の中に、印西市自身が認識しているメリットの記載があります。
加えて、海底ケーブル関連のメリットもあるようです。
将来構想としてのデータセンター事業の選定理由
具体的にデータセンター事業を拡大していく中で、市場も踏まえて以下の理由が記載されています。
実際に印西市の情報通信業はかなりの成長をしているようです。
データセンター事業は、生成AIの波に乗ってまだまだ伸び代はあると思いますので、自治体としてここに注力していくというのはすごいなぁと感じます。
電力もポイント
印西市の協力だけではなく、東京電力も後押しをしてくれているようです。電力もデータセンターにとっては非常に重要です。
市長の支援も重要
電力会社への支援要請は市長自ら動いたようで、こちらもとても大切な活動だったようですね。
住民との軋轢
データセンターの事業は既存の住民のケアも大切です。空調などが24時間回りますので、住宅街では難しそうです。
データセンター投資の減価償却とストック性
ここまでで、データセンターが地元へ生み出すものや、印西市が選ばれた理由を説明してきました。
次に、このようなデータセンターができた時にどのようなお金が自治体に入ってくるか、またそれはどれくらいのスパンで想定されるかを考えてみましょう。
サーバーの減価償却期間:5年間
まず、固定資産として導入したサーバーの減価償却期間は国税庁の記載にあるように5年です。(電子計算機のその他のもの)
少し紛らわしいのですが、以下の記載にあるように一括で償却費を計上できなくなっています。
ですので、新設したサーバーは5年間は減価償却費を支払う必要があります。(固定資産税は簿価一円になってもかかります)
データセンターのライフサイクルは5年か?
サーバーの耐用年数は5年です。ただ、もちろん6〜7年使うこともあります。要は初期投資した製品を長く使うことで利益率の改善を狙うことができます。
さらにデータセンターはサーバーだけでなく、さまざまな施設のライフサイクルとも関係してきます。サーバーは5年で変えたとしても、空調・設備などさまざまなもののライフサイクルを考える必要があります。
少し古い資料ですが、以下にはデータセンターに関わる様々な物品のライフサイクルが記載してあります。
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/publication/it_solution/2011/09/ITSF1109.pdf
結果として以下のように、データセンター全体のライフサイクルは、理論的にはすべての設備の減価償却・耐用年数のタイミングが合致した時(最小公倍数)、となるため、5年よりも長くなることが想定されます。
結果として、データセンターは数十年に渡って新規の投資・改修をしながら運営されると想定され、固定資産税を得る自治体側としては、長期間にわたるストック型の収益と捉えられると思います。
もちろん他のビジネスで税収を増やすことは可能ですが、ある程度高額な固定資産税を継続的に得られるという意味では、データセンターの招聘はある程度、コストメリットがある方法ではないかと感じます。
データセンター投資による税収インパクトはいくらくらい?
まず、データセンターを新設した場合でも、多くの雇用は生まれません。少し古いですが以下のような記載もあります。
データセンターのマネジメントとしては、サーバーのソフトウェアなどの運用管理もありますので、多くの人員が必要ですが、全員がオンサイトの現場で働く必要はありません。
一方、オンサイトで働くメンバは、非常に寒く、うるさく、24時間365日の対応が必要となり、どちらかというと体力勝負のメンバが重宝されるようです。
ですので、まずは、税収インパクトとして固定資産税にフォーカスを当てて、印西市の事例を見てみたいと思います。
印西市の固定資産税がどれくらい増えたのか?
まず、先ほども紹介した岩井議員のブログを見てみましょう。
実際に固定資産税の増加をこの後、見ていきますが固定資産税の増収の要因までは細かく分かりませんでしたので、おそらくデータセンターの影響だろうという推測になります。
まず、H23年のデータを見てみます。以下から引用させていただきます。
歳入に対してのコメントでは、千葉ニュータウン事業が記載されています。
実際に前回も紹介した市町村税に着目すると、固定資産税は76億、固定資産税率は市町村税の47.7%であり、歳入総額33,305,987千円における割合も、23%と高めの自治体になります。(通常は40%,10%強)
税金についての前回の記事はこちらです。
次にR4(令和4年)のデータを見てみます。以下から引用させていただきます。
歳入については、家屋の償却資産についてコメントされています。
市町村税に着目すると、確かに固定資産税は126億まで増加し、構成費は54%、歳入500億円に対する比率は、25%まで増加しています。
ここまで増加してくると地方交付税も減ってきそうです。
yahooニュースのコメントで以下のようなコメントがあったように、データセンターの招聘は大きな固定資産税のインパクトがあり、半導体工場のような招致合戦が始まりそうです。
印西市と三原市の比較
印西市は数年前からデータセンターが増えており、固定資産税も増加しています。今回、Google関係のデータセンターが招聘される広島県三原市も1,000億円規模の投資がされるようですが、その二つの自治体を比較してみたいと思います。
印西市の人口と一人当たり固定資産税
RESASのデータで上記二つを比較しましょう。
まず人口推移です(右側は推計値ですので注意してください)
人口増加しているというのは素晴らしいですね。
次に一人当たり固定資産税の推移です。
順調に増えています。こちらも素晴らしいですね。先ほどのデータとも一致します。
三原市の人口と一人当たり固定資産税
人口減少していっています。
一人当たり固定資産税はほぼ横ばいです。さらに人口減少していることを考えると、実質減少していると考えて良さそうです。
このように同じデータセンターを招聘している印西市と三原市は少し傾向が違うようです。
まとめと固定資産税増加による自治体の正のスパイラル
今回はデータセンター投資の影響について、千葉県印西市の事例を紹介してみました。なぜ選ばれたのか?そしてストック型の収益が固定資産税から得られることを示しています。
このような投資が進むと自治体にどのような影響があるのでしょうか?
このように財政力が非常につくことで、次のアクションに投資もできます。
印西市はデータセンターで得た収益を子育てに積極投資し、見事に市を成長させています。
このように
ストック収入増加 → 債務の返済・積極投資の実現 → 市の人口増加 → 税収増 → 持続可能な市の運営とストック収入の増加
という正のスパイラルに入っているようです。
ぜひ参考にして他の自治体でも活用してみたい事例です。