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アンフォールドザワールド・アンリミテッド 16

16

 高台の方から、イチゴとフータがひょうひょうと歩いてくる。
「あっ、ミッチがいる。おかえりーミッチ。なんかお取り込み中?」
「生き返ったか、しぶといなミッチ」
「おまえたちどこにいたんだ。ナニガシを取り逃がしてしまったではないか」
 芝生の上に仰向けになったミッチは、自分に覆いかぶさっているちかこをどうしたものか少し迷って、彼女の背中にそっと手を回しそのまま座り直す。
「ここにナニガシいたの? あっちだと思ってフータと追ってたんだけど」
「やっぱりー、俺もこっちだと思ったけど、イチゴがついてこいってゆうから。てゆうか、イチゴ大丈夫なの? ちゃんとセンサー働いてる?」
「うーん、どうも調子が」
 イチゴは眉間に皺を寄せて、なぜだか私のことを見た。それからすぐに気まずそうに目をそらす。
 ちかこはミッチの膝の上から降りて芝生に座り直し、眼鏡を外してフレームの歪みを直している。ミッチの胸に顔を押し付けすぎたせいで眼鏡が歪んだのだろう。目の周りと鼻の頭が赤くなっていた。

 六人で野外音楽堂に戻ると、観客席に安藤さんが所在なげに座っていた。
「くくる、こんなところに一人でいたら危ないよ?」
「イチゴ……先輩。すみませんでござる。皆、リハが終わって帰ってしまったので」
「マネージャーもかよ、ひどいな。まあ、くくるは俺が守るけどね」
「きずなちゃーん、いいの? イチゴくんが安藤さんとなんかいい感じだけど」
「なにがだよ。いいも悪いもねーよ」
 安藤さんが安西くくるだと知った途端に態度がひょう変するイチゴもイチゴだが、それをわざわざ報告してくるほのかも鬱陶しい。
「安藤さん、ナニガシ逃げちゃったみたいだし、明日のライブ、お休みしたほうがいいかもー」
「ほのか先輩、さ、さすがにお休みするわけには。チケットもほぼ完売してますし」
「きみが憑胎となった女子か。なるほど、好餌を浴びたきずなたち三人と、憑胎のきみがこの公園に集まっていたせいで、ナニガシをおびき寄せたのだな」
「ミッチがちかこちゃんみたいなことゆってるー」
「そもそもさあ、ナニガシはなにが目的で出てくるんだ?」
「どういう意味だ、きずな」
「最初の三体もそうだけど、ナニガシがなんとかユニバースの壁から出てきて暴れたりするの、なんでなのかなーって」
 少し前から気になっていた。クラウドイーターたちは「ナニガシはできるだけ殺さない」という指示を出されているようだし、猫型ナニガシのキズナニを見ていても、どうやら完全な悪というわけでもなさそうだ。
「なんでって、そんなの考えたことなかった。好餌はナニガシの出現ポイントを確定させるためのアイテムだし、好餌を撒かなくても結局はどこかしらに出てくるしな」
「イチゴたちにもわからないのか」
「俺ら、マスタのゆうとおりに動いてるだけだしねえ。ナニガシもたまには外の世界を見てみたくなるんじゃないのー? 俺らみたいに。ねえ、ミッチ」
「人が争うのに理由がないように、ナニガシも無意味に壁を破っているだけだろう」
「人が争うのには、それなりの理由があるでしょう」
「ほう、争うことが無意味でないのなら……」
 ちかこの言葉に不機嫌そうに振り返ったミッチは、眼鏡を外したままの彼女の顔を見てそのまま黙ってしまう。
「無意味でないのなら?」
「ん、いや、今はその話はいい。それよりナニガシを捕獲することを考えよう。おそらく全長は三メートル以上はある。攻撃能力が未知数ではあるが」
 目の周りが泣きはらしたように赤くなっているが、ちかこは冷静そのものだった。ミッチの方が調子を狂わされているみたいだ。
「学校に弾痕みたいなのあったから、なんらかのパワーを凝縮させるタイプかなー」
「明日のライブ、またナニガシが出るだろうな」
「目に見えないのが一番の問題だ。先程は、きずなが投げた砂がナニガシに付着していたから、多少的は絞れたものの、やつからの攻撃が全く読めない」
「あっ、俺、いいこと考えちゃった!」
「またどうせ、ろくでもないことだろ、フータ」
 昨日までミッチがいなかったとは思えないほど、イチゴとフータはいつもどおりだった。
「あんたら、感動の再会みたいなのはないのかよ」
「なにが?」
 イチゴとフータが不思議そうな顔をする。二人があんなに険悪だったのが嘘みたいだ。

17につづく

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