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アンフォールドザワールド・アンリミテッド 7

 なんとなく憂鬱な気分のまま家に帰り、ベッドの上に学生カバンを放り投げる。
「ニャッ!」
 叫ぶような鳴き声がして、掛け布団の下から黒猫が飛び出してくる。
「おまえ、猫型ナニガシじゃないか。なんでうちにいるんだ」
「ニャーン」
 赤い瞳とぎざぎざしたしっぽの黒猫は、以前私のノートから出てきたナニガシだった。私の最高傑作になるはずだった、処女作品の構想が書かれたノート。そこから出現した猫型ナニガシは、私のノートがなくなってしまったために、元に戻すことができない。クラウドイーターたちには『ナニガシはできるだけ殺さない』という決まりがあるらしい。ノートが見つかるまで猫型ナニガシは、彼らの監視下にあったはずだ。
「おなかすいてるの? もしかしたら昨日からなにも食べてないとか」
「ニャーンニャーン!」
 イチゴたちが不在のあいだ、だれも世話をしていなかったのだろう。私は台所の冷蔵庫の中からこっそり、五本入りの魚肉ソーセージを取り出し、自分の部屋に持っていく。
「猫に人間の食べ物をあげちゃいけないとかきくけど、猫用のフードなんてうちにはないし」
「ニャー!」
 魚肉ソーセージを一本むいてあげると、黒猫は大喜びでそれに食いついた。そもそも猫ですらないはずだからまあいいか、などと思う。だけどこうして見ていると、ごく普通の猫に見える。かわいい。うちで飼いたいくらいだ。私は制服を脱ぎながら、彼の食事する姿を眺める。
「おまえは私の処女作のエネルギーだったんだぞ」
 痩せた背中をそっと撫でる。食事中の猫は少し迷惑そうに、だけど餌をもらったから我慢する、といった風情でおとなしくしている。思ったよりも毛が硬く、思ったよりも温かい。小さな体はエネルギーに満ちて脈動するようで、そのはかなさと強さを愛おしく思う。

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1,508字
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2016年から活動しているセルパブSF雑誌『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE』のnote版です。

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