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マイクロキャダム vs AutoCAD (2)

マイクロキャダム vs AutoCAD に関して、もう少し掘り下げてみます。マイクロキャダムに限らず、多くの2次元CADがそのシェアをAutoCADに奪われました。技術的な理由は、マイクロキャダム vs AutoCAD (1) で説明したので、今度は視点を高くして、戦略的な観点から比較してみました。

相互運用性 ( Interoperability )

現在もそうですが、AutoCADの特長は、相互運用性に優れていることにあると思います。相互運用性とは、「さまざまなシステムや組織が連携できる(相互運用できる)能力に関する特性」です。

精度

CADに関しては、CADをつかっておこなわれる様々な業務(設計に限らない!)との連携で、例えば、測量の結果から図面を起こす。CADの形状モデルを使って、解析をする(CAE)・NCプログラムを作成する(CAM)。と言ったことです。

多くの2次元CADが、機械製図、建築製図用として、CADの利用範囲を特定した結果、ある閉じた領域では有効だが、それを拡張しようとすると限界が生じてしまう。という事が起きました。

例えば、CADの有効桁数です。マイクロキャダムやJWCADが、応答速度を優先して単精度実数(有効桁数が6桁)にした結果です。

3DCADが使われるようになった頃、3Dモデルを作成するのに、既存の2DCADのモデルデータを利用すると便利です。閉じた領域を選択し、押出をする・回転をすると立体が出来上がります。ところが、その2Dモデルが単精度だと立体にできません。領域が認識されないからです。なぜ領域が認識されないかというと、有効桁数が足りないので、線と線が実際にはつながっていない(隙間がある)からです。

ある大きな建設プロジェクト(大きなビルやマンション)でCADを利用しています。そこに、外注設計から入手した単精度のCADモデルを取り込むと、寸法が合いません。有効桁数が6桁しかないから、100メートル以上のサイズになると一桁目が怪しくなってしまいます。

ファイルフォーマット

外部とデータのやり取りをするためには、お互いが理解できる形式で表現しなければいけません。多くの場合、やり取りはファイル経由になるので、ファイルフォーマットが重要になります。

2D図面の場合、DXF形式というファイルフォーマットが、事実上の業界標準です。(余談ですが、DXFのDXは、Data Transformation としていたので、何故DX なんだ のツッコミが良くありました。いま、DX はDigital Transformation としてよく使われる言葉になりましたね)

DXF形式は、AutoCADの DWG形式のテキスト表現です。オートデスクが仕様を決めているので、AutoCADを介する限り問題は起きません。その点、他社はDXFを使うためには、INとOUTを自社で開発する必要があります。そのため、DXFの解釈の間違い、バージョン非対応などの問題が起きてしまいます。

AutoCADの最新バージョンは 2014 ですが、R12形式のDXFというのにいまだに対応しています。これは、R12形式のDXFにしか対応していないアプリが存在しているためです。(12は西暦ではなく12番目を意味しています。リリースは1992年ごろです。)

様々なオブジェクトに対応

マイクロキャダムが2Dの機械設計に特化していたのに対し、AutoCADは汎用CADとして、様々な業務に対応できることを目指していました。機械、電気、建築、土木などです。

それぞれの業務では、特有のオブジェクトが必要になります。ここでオブジェクトとは、直線、円、円弧、楕円、スプラインなどのジオメトリの他、寸法、風船のような図面作成に必要なものなど、CADの中で使われる全てを含みます。

特有のオブジェのニーズに対応するために、AutoCADは、CADのデータ構造を根本的に見直して、オブジェクト指向にしました。線や円などの基本的なクラスとして定義しなおし、それらのクラスを使って、新しいクラス(オブジェクト)の作成が容易にできる様にしたのです。

これにより、AutoCADは、Dwgという形式は変えずに、様々なオブジェクトを持つことが可能になりました。

一番わかりやすいのは3Dへの対応です。サーフェス、ソリッドなどの3Dモデルへの対応です。AutoCADは、製品の機能拡張で対応できました。マイクロキャダムなど他社の2DCADで、それが出来た製品は、知る限りありません。どこも新しく3DCADを開発し、その3DCADと既存の2D製品との連携という形態です。

特有のオブジェクトは3Dモデルに限りません。例えば、建築設計用のAutoCADには、窓、ドア、壁、屋根というオブジェクトが用意されています。

まとめ

AutoCADが生まれて40年以上たつのに、まだ、現役で使われているのは、使用する範囲を限定せず、汎用に利用できることを目指して開発した結果であると言えます。

ここで教訓と言えるのは、「今は最適でも、ずっと最適ではない」という事です。マイクロキャダムがその典型的な例です。

今は3DCADの時代ですが、考え方がマイクロキャダムと同じ、というCADがあります。今の時代にマッチしている、使い勝手が良い、ユーザ数が多い、というのもマイクロキャダムと同じです。とすれば、「今は最適でも、ずっと最適ではない」という教訓も当てはまると思います。

AutoCADについても、この教訓は当てはまると思います。例えば、扱えるデータ量です。数十MB以上のサイズが扱えて、フロッピーディスクで保存していた時代に生まれたCADとは思えないくらいですが、と言って、この先ギガバイト、テラバイトに対応できるとは思えません。

これは、「データをファイルで保存する。」というのを前提としているからです。当時は、クラウドという概念などどこにもない時代でした。

最近、オートデスクが提唱しているのは、「デザインと創造(Design & Make)のプラットフォーム」です。クラウド上に構築されたプラットフォームに直接アクセスするという考え方です。ファイルというものは存在せず、粒状化されたデータに直接アクセスします。

具体的には、Fusion360 はこの考えに則った製品です。Fusion360にはファイルを使わず、直接クラウド上のプロジェクトに保存されます。(クラウド上にファイルとして保存のではありません。これが他社CADのクラウド対応との違いです。)

こういったしたたかな戦略をもつオートデスクですから、ひょっとすると新しい進化系のAutoCADが出てくるかもしれません。

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