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<映画感想>「竜とそばかすの姫」めちゃくちゃ良かった

細田守監督の最新作、「竜とそばかすの姫」を観てきました。
ここでは観てない人向けの本作の魅力の紹介と、観た人向けのネタバレ激推しポイント紹介を併せてやっちゃおうと思います。

個人的にはすごく好きでめちゃくちゃ面白かったので、
・まだ観てない方は4まで読んで映画館へ行きましょう
・もう観た方は5以降も読んで語り合いましょう

1.作品概要

基本的な作品概要は公式HPをご覧いただければと思います。

イントロダクションで紹介されている通り、「竜とそばかすの姫」はまさしく

心に大きな傷を抱えた主人公が、(中略)悩み葛藤しながらも懸命に未来へ歩いていこうとする勇気と希望の物語
               (「竜とそばかすの姫」公式サイトより)

になっていると思います。

2.本作の魅力①<人の傷に寄り添うストーリー>

まず、本作の魅力の1つ目は何よりストーリーにあります。
いや、まあ私が個人的に好きなテーマだったというだけではありますが。

本作の主人公鈴は、幼少期に大好きだった母親を亡くしています。亡くし方もなかなか厳しいものです。鈴はそのショックからなかなか立ち直れず、暗く、消極的な、自信もない性格になってしまいます。

そんな鈴に、「もう一つの現実」としての仮想現実型ゲーム「U」を勧める親友のヒロちゃん、時々鈴の前に現れては声をかけるしのぶくん、他にも鈴の父や<すずを見守る合唱隊(公式HPの表現です笑)>のおばちゃんズ、Uの内部のプレイヤーなど、多くの人が鈴を見守り、手を差し伸べたり、寄り添ったりしてくれます。

こうした環境下で鈴が少しずつ自信を取り戻し、周囲にも良い影響を及ぼしていく様がすごく暖かく、前向きなストーリーになっていると思います。

・鈴が自分への自信まで無くしている理由
・周囲の人々の鈴への寄り添い方
・自信を取り戻した鈴の晴れやかな笑顔

このあたりは、ぜひ映画を観てみて欲しいところです。

3.本作の魅力②<心に染み入る歌>

予告1で流れる挿入歌「歌よ」を聴いただけでもお分かりいただけるかもしれませんが、本作は「歌」がとても効果的に使われています。

自信がなく内気な少女が、仮想現実の中でだけはきれいな歌声を発することができる。そうした設定にも非常にマッチした歌声と、少々独特ながら言葉がスッと心に染みわたるような歌が、他にもたくさん登場します。

一般的に、楽曲一つひとつに対しては、「あの曲が良い」といった形で「曲」という表現を使うことが多いかと思うのですが、個人的には敢えて「歌」と表現したいなと感じました。編曲も大変すばらしいのですが、それくらい歌声と言葉が魅力的だったなあと思います。

今回主人公の鈴役で出ているのが中村佳穂さんというアーティストなのですが、恥ずかしながら私は初めて知りました。
ですが、鈴のキャラクターとぴったり合った声質や、鈴が鳴るような細かいビブラート等、本当に聴いていて心地よい歌声でした。

予告1で使われている挿入歌『歌よ』は東宝のYoutubeにもMVが公開されています。

本作のメインテーマ『U』は、King Gnuの常田大希率いるMillenium Paradeが楽曲を提供しています。

・歌そのものを聴きに行く
くらいの気持ちでもかなり楽しめる映画になっているのではないかと思います。

4.小結(ネタバレなしはここまで)

まだ観てない方向けの紹介は以上になります。

ここまで読んで面白そうだなと思った方はぜひ観に行ってみてください。
そしてこの後に載せるネタバレまで読んでぜひ語りあいましょう。

予告2も貼っておきますので、ぜひご覧ください。

5.ネタバレあり魅力語り①<鈴の抱える傷>

よし、ここからはネタバレ全開で話していきます。もう私が好きだったところを語り散らしていきます。

まずは鈴の抱える傷について。

上で「鈴が自信まで無くしている理由」と書きましたが、こう言ってはあれかもしれませんが、母を亡くしたという事件は、悲しみに暮れ、ふさぎ込むことはあっても、自分に対する自信まで失う理由になるかは少し疑問が残るように思います。
じゃあ、ふさぎ込んだ後の自分の消極的で暗い性格故に友達がうまくできないことが自信喪失につながっていると考えるべきでしょうか。

そういう側面もあると思いますが、私は「母の死に方」にこそ鈴が自信を無くした理由があると感じました。
お母さんは、豪雨で水位が上がった川の中州に取り残された少女を助けるために川に飛び込み、少女を助け、そして自分は亡くなってしまいました。

この時鈴はお母さんに「いやだ、いかないで」とせがむものの、拒まれてしまいます。

「なぜ、私との楽しい暮らしよりも見知らぬ子の安全を選んだの?」

これが鈴にとっての大きな傷なのだと思います。劇中でもその旨の発言があります。
鈴にとっては、お母さんが自分と知らない子を天秤にかけて、後者を選択した(自分は選ばれなかった)と感じたのでしょう。これこそが鈴が自信を失った理由になると思います。

この構図が、物語のクライマックスにも響いてきます。

竜が自警団・ジャスティスに追われ、竜のオリジンも父に抑圧されて大変危険な目に遭いかねないようなギリギリの状況で、鈴は竜のオリジンに自分が竜と寄り添えるあのBelleであることを証明し、彼の居場所を特定し助けに行かなければならない状況に追い込まれましたね。

この時、鈴の心の中では「目の前で危険な目に遭っている竜のオリジンを助けなきゃいけない」ことと、「そのためには大人気なBelleの皮を剥ぎ、素顔を晒さなければならない」ことの間で葛藤があります。
素顔を晒してしまえば、もう「現実とは違うもう一人の自分」としてのBelleは死んでしまうかもしれない。実際、ヒロちゃんはそれを心配して鈴のアンベイルを止めようとします。

これは、まさしくお母さんが亡くなった時のお母さんの立場を鈴が体験していることになります。

・見知らぬ子⇒竜
・鈴(幼少期)⇒Belle、それを守ろうとしてくれるヒロちゃん
・お母さん⇒鈴

こうした同じ構図で、お母さんの立場を追体験し、鈴は結局お母さんと同じ決断をします。

これは、単にBelleとして歌うことで周囲から承認を得ることで自信を取り戻すだけではなく、お母さんと同じ決断が下せたことで、お母さんが自分を捨てたわけじゃないことを理解したことで自信を取り戻すことができたのだろうと思います。

そんなことを思いながら鈴の笑顔。
本当に最高でした。

6.ネタバレあり魅力語り②<鈴を見守る周囲のやさしさ>

上でも少し書きましたが、鈴を取り巻く周囲の人たちのやさしさがまた大変良いなとも思いました。

○ 鈴を逃がそうとしてくれるヒロちゃん

鈴の親友(「付き合ってる」という発言が1回だけ出ていたので、親友なのかどうかは意外と解釈の余地があるのかもしれないなと思っています)であるヒロちゃんは、鈴の傷をよく理解し、鈴を逃がしてくれようとします。

仮想現実で「もう一人の自分」を作り、そこで本人の潜在能力を引き出すことで、鈴を現実逃避させ、かつ歌う楽しさを感じさせるという。親友として最高のアシストだと思います。

○ 鈴が一歩前に踏み出すきっかけを与えてくれるしのぶくん

ヒロちゃんとは対照的に、しのぶくんは鈴の傷を吐き出させようと声をかけたり、いざ竜を助ける際には鈴がお母さんと同じ決断を下せるような提案を投げかけてくれました。

Uの中では生き生きしていても、結局現実で生き生きできなければ、本人のためにはならない。ここを乗り越えさせようとずっと鈴を見守っているしのぶくんも、ヒロちゃんとは真逆ながらこれも最高のアプローチだと思います。

○ 敢えて行動しないものの、暖かく見守り続けるおばちゃんズと父

公式で「すずを見守る合唱隊」と書かれている5人のおばちゃんズもとてもよかったですね。鈴をかわいそうな子扱いせず、フラットに「一緒に歌おう」と声をかけたり、実はBelleの正体が鈴だと知っていたらしいのにずっと黙っていてあげたり。鈴は直接は気づかないかもしれませんが、「自分たちの出る幕」をわきまえたすばらしい見守り隊だと思います。

実際、鈴が東京に行く際には瞬時に車を飛ばし、おそらく旅費を与え東京までの行き方も指南し、そして父にその旨の連絡を入れてフォローしています。鈴が進む道の、躓かなくて良い障害をきれいに掃除した大人ならではのフォローですね。

お父さんも、鈴とのコミュニケーションはあまりうまく行っていなかったようですが、東京へ行く鈴に効果的に言葉をかけます。

鈴自身、いきなり東京へ行って、竜のオリジンを助けられるかもわからない不安がある中で、

「鈴は優しい子に育ったんだよ」
「何か事情があるんだね」
「その子にもやさしくしてあげなさい」

等、簡潔かつ的確に鈴の不安を和らげてあげています。
普段からうまくコミュニケーションが取れていなくても、見守り続け、理解し、承認することはできる。とても良いお父さんですね。

7.ネタバレあり魅力語り③<その他のきゅん!>

歌の魅力はネタバレなしのところでも語ったので、最後はその他の小さいポイントについて。

○ 好きな人の前ではキモくなるルカちゃん

才色兼備で明るく人気者のルカちゃんにもちゃんと悩みはありました。好きな人の前では固まってしまう、しかも勇気を出して告白に行ったら、うまく伝わらなかったうえに「動きがキモい」と言われてしまうとは…。

ブラスバンドでのあの軽快な動きはどこへ行ってしまったのでしょう。駅でカシミンと遭ってしまったルカちゃんの声が裏返り、顔を赤くして硬直している様は本当にかわいかったです。

本当にずっと固まってるんだもん。あんなんかわいいofかわいいじゃん。

○ 好意を向けられることを知らないカシミン

まさかルカちゃんに好かれているなどとはつゆ知らず、誰にも応援されていないカシミンも良かったですね。基本的に明るく振舞っているものの、それも自分の悩みに向き合わないように我慢しているように見えました。

それがルカちゃんに好意を伝えられたことでこちらも硬直し、後ずさり、逃げようとするカシミン、かわいいの権化すぎる…。

○ 鈴との接し方を変えたいしのぶくん

そしてしのぶくんです。最後河川敷をみんなで歩いているときの「ん~~!」で本当に肩の荷が下りたんだなと感じました。

「本当は心配して見守るんじゃなくて、もっと普通に接していたい」

言葉はちょっと忘れましたが、こんなことを言っていましたね。

上で鈴が傷を乗り越えられるようなアプローチをとっていて良い、と書きましたが、本当は自分が鈴ともっと仲良く幼馴染として接していたいというエゴゆえの行動かもしれませんね。そう思うとなおかわいさが増してしまう…。

8.最後のまとめ

以上、良かったなあと思う部分を抜粋してみました。かなりネタバレ入っていますが、5以降は観た人しか読んでないですよね?笑

あと、そういえば竜の話やジャスティスの話を全然していないなあ。

もちろん、ジャスティスや竜の父のような敵役もすごくよかったのですが、個人的にはそれは鈴の周囲のやさしさが際立つための素材、程度に感じてしまっているので、ここではあまり触れませんでした。

最後に、この話全体を通じて、本作の魅力を私なりにまとめると、こうなるかなと思います。

・傷そのものを治すのではなく、仲間として傍にいて寄り添い、承認することで癒すという解決

これが個人的にはすごく好きだなと感じました。

観た方はみなさんどう思うでしょうか。よかったらコメントください。

それでは!

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