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夜のお話です。 闇の中、布団の中、月に照らされた中で、昼とは違う一面を見せて大胆になったり、記憶を呼び起こして懐かしんだりするようです。
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2021年3月の記事一覧

月夜の口紅 3/4

月夜の口紅 3/4

月夜の口紅 2/4

月夜の口紅 1/4

 真っ暗な夜。風もなくて、雲が分厚くて、月は隠れて、じめじめした夜。汗が滲んでいく。

 川へ行く道は足が覚えている。風が湿ってきた。セーラー服の襟は風になびいて、リボンがめくれ返って首をなぞる。

 あれ、私、鞄はどうしたかな。授業のノートが詰まった学生鞄。今日習ったところを復習しなくちゃいけないのに。玄関に置いてきたんだっけ、それとも、走っている途中

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ホワイトバニラクッキー 2/2

ホワイトバニラクッキー 2/2

 スマホの画面を落として、映った自分の前髪を整える。変じゃないよね。渡したいものがある、と言われただけだから、たぶんあのチロルのお返しを渡されるだけだろうけれど、日曜日に男の子と約束なんて初めてだから緊張していた。

「チョコ、嬉しかった! ほんとありがとう」

から始まったラインは、なんと一ヶ月毎日続いていた。ほんの少しの返事に大げさに反応して返してくれる彼とのやりとりは、ちょっぴり愉快で、日々

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ホワイトバニラクッキー 1/2

ホワイトバニラクッキー 1/2

以前投稿した バレンタインチロル の続編です。これだけでも読めます。

 電車の時刻を何度も確認して頭を掻く。ああ、やっぱり間に合わない。次に停まる駅を知らせるアナウンスにすら焦って、眉をしかめてしまう。

「ごめん、遅れる」

 スタンプとともに送ったラインは、すぐに既読がついた。まだコートを羽織らないと寒いくらいの気温なのに、頬を汗が伝う。落ち着け、俺、落ち着け。

 どうして日曜日に部活なん

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