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昼のお話です。 学校へ行ったり、お散歩をしたり、家でごろごろしてみたり、それぞれの過ごし方をして、それぞれに感じることがあるようです。
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#あめだま

白い手紙

白い手紙

 カランカラン。扉が閉まった瞬間、男の眼鏡は真っ白に曇る。薄い金色の、少し長めの髪の毛をもつ男だった。細身のグレーのスーツに、縞柄のネクタイを締めている。ソファに腰掛けた女の子が、あら、と声を出す。

「ちょっと暖かすぎるな」

と、男は銀縁の眼鏡を外した。男の目は透き通る深い青をしている。

「ごめんなさい」

女の子は軽く頭を下げた。女の子の髪や目は、目の前に立つ男のそれとよく似ている。

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ダンスホール

ダンスホール

 女の子は臙脂色の立派なソファに腰掛けていた。ベルベットの深緑色のワンピースを着て、お行儀良く背筋を伸ばしている。この部屋は深い色が多い。壁は深い青、机は焦げ茶色。でも床だけは眩しいくらい磨かれたぴかぴかの白。

 アンティークな机には白いキャンディとティーカップが置かれている。すっと透明のような、それでいて奥の方は濁っているような、不思議な白。ティーカップには赤い木の実が描かれ、中にはとろんとし

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木枯らし

木枯らし

 大きな影が、林の中を抜けていく。のそり、のそりと、歩く。小さな道を、時折周りの木々にぶつかりながら、進んでいく。そのたびに色づいたもみじがさわさわと揺れる。肌寒い風が湯気をなびかせる。大きな影は小川をゆっくりと渡り、小屋の前で止まった。

 持っていた大鍋をそっと玄関の前に置いてからコンコンと二回ノックをして、またのそりのそりと帰っていく。黄色い屋根を超えるほどの、大きな影だった。

 茶色い蓋

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なないろ

なないろ

 透き通る緑色の小さな川に三つほど岩が浮いていて、水がぴちゃぴちゃと跳ねている。岩の上面はどれも平らで、大きなお鍋を持ったままでもうまく通れるようになっている。町を出てちょっとした林を抜け、その川を渡ると突然開けた場所に出る。若い緑とところどころに咲いた可愛らしい白いお花たち。草原の真ん中には、黄色い屋根の小さな小屋。やまぶき相談所である。

 中に入れば、あらゆる光を吸収して輝く金色のふわふわな

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あしあと

あしあと

 その日は朝からしとしとと雨が降っていて、扉の向こうは悲しい灰色に染まっていた。女の子は戸棚からグレーの箱を取り出して、中に入っているダージリンのティーパックをカップにそろりと落とした。すっと鼻を抜ける爽やかさと喉の奥にひりつく渋み。このシンプルなファーストフラッシュがお気に入りだ。

 部屋はどんよりと暗くて、真っ白い床が先ほどの客の靴跡で汚れている。部屋の中央に横たわる大きな机と同じ焦げ茶色の

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