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昼のお話です。 学校へ行ったり、お散歩をしたり、家でごろごろしてみたり、それぞれの過ごし方をして、それぞれに感じることがあるようです。
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2020年9月の記事一覧

なないろ

なないろ

 透き通る緑色の小さな川に三つほど岩が浮いていて、水がぴちゃぴちゃと跳ねている。岩の上面はどれも平らで、大きなお鍋を持ったままでもうまく通れるようになっている。町を出てちょっとした林を抜け、その川を渡ると突然開けた場所に出る。若い緑とところどころに咲いた可愛らしい白いお花たち。草原の真ん中には、黄色い屋根の小さな小屋。やまぶき相談所である。

 中に入れば、あらゆる光を吸収して輝く金色のふわふわな

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猫じゃらし

猫じゃらし

 世の中には「当たり前」が多くて、ちょっと疲れてしまう。

 例えば、好き嫌いはしないほうがいい、とか。なんで?僕はグリーンピースが苦手だけれど、頑なに食べなくてもこれまでなんの支障もなかった。恥ずかしいから食べなさいと言われたこともあった。どうして恥ずかしいのか、僕にはわからない。

 他には例えば、料理のできる女の子は家庭的だ、とか。料理はとっても上手だけれど、掃除も洗濯も何もできない女の子を

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ペアルック

ペアルック

 まず最初に、郵便局へ向かう。比較的新しくできた郵便局で、若いお姉さんと眼鏡のおじさんがにこにこ立っている。私も愛想良くそこを通って、奥のATMで十万円下ろす。直接に財布に詰めて、長財布を膨らませる。また愛想良く受付を通り過ぎて自転車に跨る。それから、自転車を飛ばして隣駅のショッピングモールに入る。

 三階から回るのが私流だ。四階はフードコートだから行かない。最初に行くのは紀伊國屋書店。ここは店

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あしあと

あしあと

 その日は朝からしとしとと雨が降っていて、扉の向こうは悲しい灰色に染まっていた。女の子は戸棚からグレーの箱を取り出して、中に入っているダージリンのティーパックをカップにそろりと落とした。すっと鼻を抜ける爽やかさと喉の奥にひりつく渋み。このシンプルなファーストフラッシュがお気に入りだ。

 部屋はどんよりと暗くて、真っ白い床が先ほどの客の靴跡で汚れている。部屋の中央に横たわる大きな机と同じ焦げ茶色の

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