弁当の写真を撮る理由

教師控え室にはどうしてクーラーがついていないのでしょうか、と毎日心の中で文句を言いながら、その控え室でお弁当を食べる。

いつもは1人だけど、今日は2年上の先輩も目の前でお弁当を広げようとしている。
先輩は結婚生活3年目の新婚さんである。
愛妻家で有名な5年上の先輩から「妻のトリセツ」という新書を借りて、せっせと読んでは、必要だと思った箇所に付箋をつけている。変な人だ。とにかく、毎日、我が妻の地雷を踏まないように気をつけているらしい。

カシャッという音が2回聞こえた。
織り目正しく畳んだランチョンマットの上にある、弁当の写真を撮っている先輩がいた。

(なんとも、まあラブラブだなあ)と微笑ましく思った私は聞いてみた。
「いつもそうやって写真撮ってるんですか?」

先輩はこう答えてくれた。
「そうやねん。だってさ、もし何かあってスマホを見られたときに、カメラフォルダに自分が作った弁当の写真があったら、嬉しいやん??何かあったときの緩和剤になると思って。ああ撮ってくれてるんや、ってなるからさ、何かあっても、まあいいやってなるやん、多分。」


は?絶対に、こいつ、浮気してるやん。
「何かある」やん。一台詞に三回も「何かある」が出てきたら、それは「何かある」ねん。

百歩譲ろう。そんな理由で写真を撮ることに。
だけど、それを悪びれもなく最もなことという感じに口に出すところに先輩の本性をみた気がした。

最低すぎて、返事するタイミングを見失い、やっとの思いで口をついた言葉が「頑張ってますね。」だった。

そのあと、沈黙が続いた。
(やば、変なこと言ってしまった)感は先輩からは全く感じない。スマホをいじりながら、お弁当の具になんか見向きもせずに、ただ食べ物を箸で掴んで口内に入れるという作業を繰り返しているように見えた。

他の先輩方が控え室に戻ってきた。
「おー、めっちゃ美味しそうな匂いしてるやん、中華丼か?」と意気揚々と変人浮気男(疑惑)に話しかける。
変人浮気男(疑惑)は
「あ、これ。レトルトです。うちの嫁、朝から中華丼とか作れないんで。手作りだったら嬉しいんですけどね。」と吐き捨てた。


暴言:奥さんに捨てられてしまえ。地獄に堕ちろ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?