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私がコロンビア教育大学院に合格するまで。(後編)

前回までの記事は、こちらから。

後編では、職務経験を経て、なぜ今アメリカで組織心理学を学びたいと思ったかについて書きます。

大学院を卒業したあと、いつか叶えたい夢の一つだった「映画や海外ドラマに関わる仕事」に就くことができました。洋画が好きなら誰もが憧れるスタジオの一つで、とても楽しかったです。
憧れを叶えた一方で、会社には意外と映画やドラマには興味がない人が多いことに気づきました。
このような会社で得られる特権の一つに、まだ放送前のドラマをいち早く見ることができるというのがあります。当然字幕はまだついていません。私のいたマーケティング部では特に、字幕のない状態で放送前に作品を見てキャッチコピーや邦題を決めたり、売りどころを話し合わなければいけません。しかし実際は、英語が苦手な社員も多く、私は自分が映画やドラマに持っている情熱に対して肩透かしを喰らったような気分になりました。
今となっては、商品のファンであることが必ずしも良い仕事に繋がるわけではないのはわかっています。でも、英語や映画に救われてきた私にとっては、このような海外のコンテンツをもっと日本の人に知ってほしい、それを通じて世界に目を向けるきっかけとなってほしいと思っていました。
現実は、いかに「日本人受けするか」を考えたり、時には作品の本質はそこではないのではというところがセールスポイントとして取り上げられたりしました。目先の売り上げや視聴率のためには大事な視点だと頭ではわかっているのですが、どうしても「日本に合うように作り替える」ような作業に抵抗感を感じていたのです。なんとなく日本人が外国に対して、差別という明らかな態度でなくても、壁を作っている感覚を覚えました。

その後、転職という形で父の設計事務所に8ヶ月ほど在籍し、ミャンマーでの都市開発プロジェクトにおける翻訳&通訳として、月に1度ヤンゴン を訪れていました。東南アジア出身の知り合いがいなかった私は、ミャンマー人社員がどれだけの覚悟をもって日本に働きにきているか、ということをそこで初めて知ることができました。現在軍事クーデターにより、ミャンマーは大きな傷を負っています。その前から彼らは国を支えるために必死で勉強し、重い責任を背負って来日していました。しかし、誰が悪いというわけではないのですが、やはり日本の伝統的な組織文化というのは外国人にとっては居心地が悪いのかもしれません。
私は当時ミャンマー人やブラジル人など外国人社員のコミュニケーションサポートもしていたのですが、会社のやり方と合わなかったり、会社に急にこなかったりということに父も頭を悩ませているのを見ていました。
日本人はまだまだ英語を「話す」ことができる人は多くありませんので、外国人社員が孤独感や疎外感を感じる場面もあります。
ここで初めて、このような多国籍なチームを円滑にマネジメントするための技術があれば、日本企業にとっても素晴らしい成長が望めるのではないか、と思うようになりました。これが「組織心理学」を志した原点です。

その後、ニュージーランドの環境にやさしい洗剤メーカーのマーケティングに転職しました。やはりここでも同じように文化の壁による仕事への悪影響を見ることになりました。
日本人はとにかく几帳面です。「なるべく」や「だいたい」を許容することができません。
典型的なのは、ニュージーランドでは洗剤の1回の使用量表示が「洗濯物の量が普通ならキャップ1杯、量が多ければキャップ1杯半」と曖昧です。
standard load(普通の量)は人によって違うやろ、と。
日本ではよく見ると思いますが「水30Lに対し、キャップ1杯(35ml)」などと表記しなければなりません。
これを製造元であるニュージーランドに「何mlなの?」と確認しても日本人からすると「適当」とも取れる曖昧な回答しか得られないことはよくあります。なぜならそんな風に表記する文化がないから、何が正解かわからないのです。
私が入社した時、このような小さな衝突を頻繁に繰り返しており、進むべき仕事が進まないという状況にありました。
マーケティングだけではなく社内通訳も任されて衝突の板挟みになっていた私は、まずニュージーランドの考え方をよく理解することに努めました。こういう場合は、これ以上言っても仕方がないという妥協ラインを見極めることに尽力しました。逆に日本側の譲れないところはどこか、それはなぜ譲れないのかを客観的に話し合うようにしました。
そうすると、お互いが納得の上で一緒に前に進むということが少しずつできるようになってきました。私はこの役割にとてもやりがいを感じました。
幼少期のトラウマから人が言い争ったりするのを見るのが苦痛だったので、より気持ちも安定して仕事に取り組むことができるようになりました。

その結果、このように文化が違う人々が一緒に仕事をするときに起こる衝突を緩衝させ、お互いを尊重・理解しながら、平和で生産性の高い組織を作るためのアドバイザーになりたいと思いました。
その中で見つけたのが、このTeachers Collegeのプログラムだったのです。

ずっと前からちゃんと留学したいという気持ちがありました。
しかしなぜ今まで動けなかったかと言うと、英語を勉強したい、海外に住んでみたい以外の動機が見当たらなかったからです。
30歳で2つ目の修士号。今更大金と時間をかけてやるべきなのかと何度も悩みました。しかし、これらの職務経験を経たからこそ本当に異国の地で「自分が持つスキルを生かす」方向性を見つけることができ、留学に向けて行動を起こすエネルギーになったと思うので、このタイミングは必然だったと思います。
また、留学先のプログラムでは2年以上の職務経験がほぼ必須となっています。つまり、アカデミックというより、ビジネス寄りの学位になります。
なので、色々仕事してきたけどやっぱり私にはこれが必要!という理由が、プログラムとフィットしていたことが合格を引き寄せた要因ではないかなと思っています。

Teachers CollegeのSocial-Organizational Psychologyでは、Group DynamicsやConflict Resolutionなど、組織の多様性とそこで起きうる問題にどう対処していくかということを学びます。
Scientist-Practitioner Modelと呼ばれる、理論と実践のバランスの取れたカリキュラムが持ち味です。
私は、今回はじめて学ぶ組織心理学という分野で、理論だけでなく、ファシリテーションスキルなど実践的な技術も体系的に修得して、日本で多国籍な組織運営のサポートができるような存在になりたいと考えています。

これから少子高齢化で外国人労働者は増えていくと考えられます。
また、コロナ禍が一段落したらまた日本にはたくさんの外国人が来てくれるでしょう。
その時に、日本人の心の扉が少しでも大きく開きますように。
違いを許容し、尊重し合う世界をつくれますように。

世界中からたくさんの優秀な方が集まるニューヨークのコロンビア大学で、そのような夢に向かって勉強していきたいと思います。


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