ファイナンスPhDの出願・選考について

トロント大学ロトマン経営大学院のファイナンスPhDプログラムの応募者選考に関わっていて気づいたことを書いておくことにする。

ファイナンスPhDは大体において規模が小さく、今年の本校の募集人数は2人であった。予算があるときは4人くらいとったりもするけど、最低で一年に2人ということ。これに対して応募は180人ほどなので、倍率からすると結構な率である。もちろん、応募する側もそれを見越して10校以上応募しているのだろうから、ちゃんとした準備ができていればどこかの大学院には入れるようになっているはず。

ファイナンスPhDの選考基準は、基本的には経済学PhDに似ている面が多く、1)数学力、2)学部のGPA、3)推薦状などが重要になってくる。ただ、昨今の競争の激化によって1)~3)では候補者をとても絞り切れないので、最後に数人に絞る際には実際にどれだけファイナンスの研究に携わったことがあるかどうかがカギになってくる。この点、「頭がものすごくよければ受かる」という経済学PhDとは若干異なってくるかもしれない。数学とか物理学とかですごくよくできる研究の素質のある学生であっても、ファイナンスの研究に一切触れたことがない場合はまず合格とはならないのが現実である。

この点、某国出身の学生の出願はとてもシステマチックで、日本の大学(あるいは中学)受験並みに丹念に履歴を「作ってくる」応募者が多い。作る、といっても経歴を詐称するとかそういうことではなく、PhD出願に向けて数年単位で準備を重ねたうえで「完璧なパッケージ」を作ってくるということである。具体的には出身国のトップ校で首席かそれに近い成績をとった後、アメリカのトップ校でプレドクと呼ばれる、PhD出願前の学生に研究経験をさせるためのプログラム(たとえばhttps://predoc.org/などを通じて応募できる)に参加し、有名な教授のリサーチアシスタントとして研究プロジェクトに携わり、その経験を出願書類に書くのである。PhD開始前にすでに研究論文ができあがっているというケースだってある。

有名な林文夫先生の推薦状と違い、最近の推薦状は内容もインフレ気味で「数年に一度の逸材」とか、「昨年スタンフォードのPhDに行った学生よりもさらに優秀」とか、ほめ放題のものも多い。とくに、アメリカ以外の推薦者はそこまで自分の推薦状の価値を重視しない人もいるため、ものすごくよい内容の推薦状を書いてしまう。その上で、パッケージを「準備してきた」応募者ならアメリカの超大物教授に推薦状をもらっていることも往々に見られる。そうなると、推薦状でもなかなか最後の数人に絞り込むには情報として不十分ということになってくる。

そこで、最後の絞り込みに使うのが面接である。教授陣も忙しいので、応募者一人当たりの時間は15分程度に限られる。その中で応募してきた学生に以下のような質問をするのである。
• これまでの経歴及びなぜファイナンスPhDをやりたいのか。なぜ民間就職ではなく研究者になりたいのか。
• これまで関わってきたプロジェクトの要旨。あなたの貢献は何か。具体的にどのような仮説を立ててどのように分析してきたのか。(ここでいう「プロジェクト」とは、当然ファイナンスの研究プロジェクトのみを意味する)
• これまで読んできたファイナンスの論文の中で最も印象に残るものは何か。その理由は。
• ロトマン経営大学院でPhDをやるとなった場合、師事したい教官は誰か。その理由は何か。
このような面接を英語でスムーズにこなすため、英語力がかなりないと厳しい。英語でつっかえてしまうといい内容でも話がこちらには伝わらないため、結局合格にはつながらないのである。東大で成績が良かったというだけではまず間違いなく落とされてしまう、なんとも狭き門になっているのが現状である。

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