ミシュランへの道 やきとりや人生 6

Oさんは一種の変わった人?だった。私の普通の男子のように、女性は大好き、㊙ビデオ大好きという正常な?感覚の男ではなかった。その辺を理解するのはうまく言葉が思いつかない。


しかし彼の部屋で㊙ビデオを鑑賞するわけでもなく、ただただつまらない話をぐだぐだ長話をしていただけ。それしか記憶にない。まるで学生時代のノリだった。


またOさんは大のコーヒー通で、その影響で自分もコーヒーを飲むようになった。もちろん砂糖やミルクの入れないブラック。几帳面な◯さんは、生活にもこだわっていた、家具や調度品にもこだわり、部屋は無駄のないシンプルでキレイなまるでホテルのような部屋だった。この部屋は女は無用だのだ。


そしてOさんに趣味と言えば旅行だった。ホテルを掛け持ちして貯めたお金で、飛行機を使い地方へ行き、そこで美味い酒と美味い郷土料理を食べることだった。地方の高級ホテルに泊まり、地方の名物とお酒を嗜む。これが彼の趣味だった。


電話してみるといないこともあり、突然旅行に行き、突然帰ることはしょっちゅうあった。この頃から飲食業に向けてシュミレーションしていたのかも知れない。飲食経験のない自分に「なにができるのか?」と毎日自問自答していたそうだ。


趣味の旅行とは?すなわち自分探しの旅行だったのだ。飲食業を開業するにあたって、「なにをする?」か模索してした時期だった。そして候補にあがったのは、ラーメン、カレー、居酒屋とあったらしい、最終的には、焼き鳥をメインとして、美味い日本酒を出す店だった。


焼き鳥もこだわり、比内鶏という放し飼いに育てた鶏を考えた。比内鶏の肉質は上品な柔らかさとコクのある味わいがある。一般の輸入モノの焼き鳥とはまったく異なるものだ。かつて見た暗示夢が◯さんを動かした。そして子供の頃見た地元の焼き鳥屋の光景を思い出した。


煙がもうもう立ち昇り、焼酎を飲んでいる焼き鳥屋。大人たちは、焼き鳥片手に、安い酒をグイッと飲む、そんな懐かしい光景が目に浮かんだ。庶民的な焼き鳥屋、これに付加価値を付けたのが、比内鶏だった。焼き鳥屋を選択した理由は、かつて見た焼き鳥屋の光景が強かったのだ。


札幌時代にすすきので、仕事の終わりに経験したあの頃。労働を終えて、焼き鳥を食べ酒を飲むという至福は、体験した人にしかわからないだろう?これ以上の幸福はあるだろうか?と言う。


実際に開業する前に、◯さんはとある夢をみたという。小さな店で煙がモウモウとしている光景で、店内ではお客で賑わい、仲の良さそうな夫婦がいて、親父が焼き鳥を焼いて、奥さんがお酒を注いでいるという光景。その夢が鮮明に残り、この夢が連日続いたらしい。


店内ではにぎやかで、お客は焼酎片手に焼き鳥を食べていたと言う。この夢に後押しされたと言う。別の案では、ラブホテルも事業計画の構想もあった。


ラブホテル計画と個室ビデオの事業計画もあった。当時流行りだった個室ビデオは新宿に数多くあり、歌舞伎町を見まわせば個室ビデオの看板ばかりだった時期もある。ラブホテル計画もあったが、彼自身それほど焼き鳥屋ほど積極的ではなかった。


しかしその後の成功を考えれば、焼き鳥屋で正しかったのだ。そういう経緯を経て一大決心をした。そうとなれば、毎日不動産やの通い、夜勤の仕事を終えて1日中歩いていた。そして運命の出会いのテナント物件と出会った。そこは、代々木にある地下の物件で即気に入り契約した。


つづく

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