ミシュランへの道 やきとりや人生11

西新宿本店に移転してお店は順調に滑り出した。しかし頭痛のタネが一つ二つ・・・人を雇うというのは、簡単にはいかないものだ。


機械じゃないし、意志があるし、生活があるので、めんどくさいイロイロな個性を持っている。◯さんの言うことを、素直に受けてテキパキ動く人がいなくなった。


社会経験のない学生であればなんとか、社会に厳しいOさんの叱咤激励にもめげず、反発せず「ハイ」と言うのだが、社会を経験している社会人や特ア留学生は、なかなかうまくいかない。


言えば反発されることもしょっちゅう。お店にはミーティングが毎週あり、◯さんは個別に個人面談をやった。


しかしミーティングをやればやるほど、スタッフは心が離れていったという。Oさんの中の持論や経営論はなかなか受け入れてもらえず、スタッフに理解し、納得してもらうように、何度も何度も同じことを繰り返すのだ。


売り上げを延ばすことは、給料をもらっている限り当たり前だ。売り上げは個人の給与に還元されると口説いた。


しかし・・・「経営者と同じ目線になれ!」というちょっと傲慢な印象は強すぎた。やがて、大黒柱の板長からの反発もジワジワと噴出していくのだった。


新しいアイデア、反省点、目標など、スタッフの動作などが評価され、「それが給料に反映される」と口を酸っぱく言うのだ。こうした厳しい命令、指導、に反発するスタッフもいて、そういうスタッフは、隠れてコソコソとオーナーの◯さんの悪口を言って、次々と辞めていった。


中でも印象深いスタッフがいた。


それは1本の警察からの電話だった。警察「もしもし◯◯という人はご存じですか?」


◯さんは少し考えて、その〇〇とは?以前アルバイトで採用した人だった。「はい、以前アルバイトに来ていましたが、数か月前に退社しましたが?」警察「〇〇さんがちょっと事件を起こしまして・・・勤務態度やその他気になる点をお聞きしたいのですが・・・」


話を聞いてみると、深夜の女性宅に侵入して女性を強〇しようとしたらしい。未遂だったが?即逮捕されたらしい?事情徴収ということで、元の勤務先だったお店に電話がきたらしい。元アルバイトで採用したとはいえ、この人物は3カ月もいなかった。


さらに勤務態度も悪く、連絡なしで休んだり、遅刻したり、やりたい放題だった。お店のスタッフが定着しない時期だったので、◯さんも強く言えない面もあった。


Oさんが少し後悔気味にポツリとつぶやいた「㊙ビデオ欲しいっていうから何本かあげたんだよね・・・それがキッカケだったかもね・・・」


㊙ビデオの世界と現実の違いもわからなければ、すでに人生終わっているだろう!?㊙ビデオを、そのままマネしたのかも知れないが、それにしても、数か月前にじょうだん話をしていたスタッフが、警察に逮捕されるなど思ってもみなかった。


その後、執行猶予付きの罪で逮捕された。初犯ということで数日の拘留後釈放された。そして〇〇は所持金がないので、◯さんに無心しに来た。


その理由が「田舎に帰るので、電車賃を貸してもらえませんか?」というものだった。Oさんは〇〇に3万円を渡した。〇〇は言った「このお金は必ず返します」と・・・


◯さんは、あげたつもりで渡した。辞めた人に、お金をあげる理由も義理もないわけだが、そこは◯さんらしいやさしさだった。しかし義理人情が災いとなり、続々とトラブルの渦中に飲み込まれていった。


つづく



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