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米国転職活動の備忘録(Product Managerの場合)

Photo by Christopher Gower on Unsplash

はじめに

今回、Product Managerとして米国で転職活動をして、AWSからMetaに移ることになった。アメリカでは特に珍しくないFAANG回遊魚的な転職(日本風に言えばGAFA回遊魚であろうか)になる。ベイエリアに帰るというオプションもあったが、フルリモートのポジションに決めた(なので引き続きシアトルエリア在住)。そもそも私も含めて家族みんなシアトルが大好きであり、また、熱烈なマリナーズファンである子供たちをジャイアンツファンにするにはかなりの苦労が予想されるため、シアトルに留まるのは自然な決断だったと言えよう。尚、今年のマリナーズには大変期待をしている。(Seahawks without Russell Wilsonに余り期待できないこともあり)

転職の準備するにあたってインターネットを調べると、英語では転職活動記的な体験記事が沢山あるのだが、米国でPMとして転職する日本語話者が余りいないのか日本語の記事が出てこなかったので、自分の経験や経緯をこちらに纏めて書き留めておきたいと思う。基本的には米国でPMとして就職活動をされる方向けの記事になる(すごいニッチかもしれない)が、日本の方にも米国ではこういう採用の仕方をしているんだ〜程度の読み物になればよいなと思っている(日本のPM採用も同じようなフォーマットなのだろうか)。

プロセスやTipsについて纏めるのが本稿の趣旨であるため、何故このタイミングでAWSを辞めて次にいくのか、といった点には深く触れない。この場で、AWSは素晴らしい会社であるということと、一般論として、転職するにあたっての主なモチベーションは待遇面の大幅な改善や、Comfortableになってしまった職場環境で伸び悩む成長曲線を描きなおすことではなかろうか、ということだけを述べて本論に進みたいと思う。また、私はかなり前にGreen Cardを取得していたため、転職するにあたってVisaを気にする必要がなかった点も申し添えておきたい。

Product Manager向けの面接とはどういったものなのか

このあたり英語では結構情報が出てくるのだが日本語でまとめた記事がないのでざっと私の理解を書いておきたい。基本的には以下のような事柄について面接では聞かれる。会社ごとに微妙に重み付けや構成が違うのでそのあたりはRecruiterと密にコミュニケーションをとって準備を進める必要がある。

Product Sense

これはPMインタビューで最も一般的な質問のカテゴリーだと思われる。45分から1時間くらいの間で、以下のような質問に答える。

  • Xというマーケットに対して新商品を投入したい。どういったProductがよいか

  • 既存のYというServiceにZという分野のProductを搭載したい。どういったProductがよいか

お題が若干ぶっ飛んでいるものもあるかもしれないが、PMをやっている人であれば基本的には日々仕事の中でやっているようなことを面接の中でもやる、という感じである。

Product Execution/Analytical

同じくとてもよくあるカテゴリーで、45分から1時間くらいの間で、以下のような質問に答える。

  • 既存のProductであるXの成功を測る上でトラックすべきMetricsは何か

  • YというFeatureのZというMetricsがWoWで20%下がった。理由は何が考えられるか

こちらもPMをやっている人であれば基本的には日々の仕事の中でやっているようなことを短い時間に圧縮して話すだけである。

Technical

これは面接のカテゴリーとして聞く会社と聞かない会社があるのでRecruiterに確認することをお勧めする(結構な割合の会社でTechnical Interviewは実施されると思う)。

  • XというProductがどのように動いているか説明して欲しい

  • Yという問題を解決するためのシステムをデザインせよ

といった質問を聞かれる。Technical Backgroundがない(私です)、かつ、こういったTechnicalな仕事をPMの仕事の一部としてやっていない場合、かなりの時間をPrepに使う必要があるかもしれない。

Estimation

こちらも聞く会社と聞かない会社があるのでRecruiterに要確認。コンサルのケースでよくあるようなやつをTechnology業界向けにしたような感じ。

  • Xというプロダクトを動かすための払わないといけないインフラコストはどれくらいか(筆者注: たとえばサーバー代やストレージ代など)

  • YというプロダクトをZという地域(筆者注: ほぼアメリカの都市です)でローンチした場合の想定顧客数はどれくらいか

通常のPM業務だとこの辺は、想定ユーザー数やらを元にしてシステムデザインを作ってインフラコストをはじいたり、市場調査にしてもIndustry Reportをとったり想定顧客に対してSurveyやInterviewをかけるなり、もう少し精度の高い数字を作りにいくイメージなので、これもちょっとした対策が必要かなというのが私の所感。

Behavioral

いわゆるインタビューといったらこういったものを想定する人が多いのではないだろうか。余り対策をしなくてよいという印象をお持ちのかたもいるかもしれないが、会社によってどういった資質を評価するのか違うため、会社毎に対策する必要があったりする。

  • FormalなAuthorityがない状況でチームをリードした経験を教えて欲しい

  • 今まででもらった建設的なフィードバックについて教えて欲しい

質問自体はスタンダードなやつなので、味付けの問題かなと思う。

どう対策するか

英語用の教材は巷に溢れているので、ここでは私が使ったものを列挙していく。ラージテックでPM経験者であれば一日30分〜1時間程度、一ヶ月程度準備すれば間に合うと思う。個人の好みもあると思うが、ご参考までに私のお勧め度を付けておく(1~5の五段階評価。1が最も低く、5が最も高い)。

一つで全エリアをカバーできる教材

  1. Decode and Conquer(お勧め度: 5)
    https://www.amazon.com/Decode-Conquer-Answers-Management-Interviews/dp/0998120499
    PMインタビューの全体像及び基本的な答え型のFrameworkを学ぶのに良い本。ただし、個社毎の分析はほぼないため、受ける会社の対策は別の教材で補う必要がある。

  2. Product Alliance(お勧め度: 4)
    PMインタビュー界隈では有名。基本的なFrameworkはDecode and Conquerと似ていてあまり大きなLearningはないと思うものの、個社毎の対策や現状の戦略の纏めがあるのと、直近のInterviewでよく聞かれた問題集があるため重宝する。若干お高いのが難点(蛇足だが、私はセール中に購入した)。あと、探せば手元にReferalのコードがある(はず)。若干安くなるはずだ(すいません記憶が無茶苦茶曖昧です)と思うので、興味のある方はTwitterでDMかReplyかください。真相を探します。

  3. Exponent(お勧め度: 2)
    こちらも有名どころ。YoutubeでフリーのMock InterviewのVideoが見られたり、あとはフリーのプランでも過去の質問Bankなどにアクセスできるのはよい。一方、回答のQualityに関してはまちまちで、正直この回答を面接で受けてる人がいたら私は通すかわからない、、みたいなものもあるので若干の注意が必要。

個々の分野毎の教材

  1. Product Sense

    • Nailing the Product Sense interview(お勧め度: 4)

    • Expert Protips(お勧め度: 2)
      両方ともArt and Science Methodというところが出している。Nailing the Product Sense interviewに関しては、Decode and Conquerが説明しきれていないFrameworkの細かいところについてきちんと対策が示されていて補完教材として役に立った。Protipsについては余りためになることはなかった。

  2. Product Execution/Analytical

    • Nailing the Execution PM interview(お勧め度: 2)

    • Expert Protips(お勧め度: 4)
      こちらも両方ともArt and Science Methodというところが出している。Product Senseとは逆で、こちらはProtipsが痒いところに手が届く感じでとても参考になった。私はAnalyticsのBackgroundがあるので正直Execution / Analyticalについては苦労しなかった(ほとんど対策をしなくても常に評価はとてもよかった)ので、Nailing the Execution PM Interviewの評点はちょっと辛すぎるかもしれない。

  3. Technical

    • System Design Primer(お勧め度: 5)
      https://github.com/donnemartin/system-design-primer
      PM向けSystem Design系の対策では鉄板とされている。フリーなのによくまとまっているのでこちらからスタートするのがよいかなと思う。ただ全部べたーっとやろうとすると時間がかかるので、自分のわかっているところ、わかっていないところ、のあたりを最初につけた上で、時間を効率的に使った方がよいと思う。

    • Designing Data-Intensive Applications (通称DDIA) (お勧め度: 4)
      こちらも定番。もともとは面接と関係なく買っていて読んでいたのだが、Technical面接にも有効と聞いてその観点で頭から読み直した。普通にめちゃくちゃいい本だと思うので、System Designについて学びたい人には面接云々は抜きにしてお勧め。

    • (CSのBackgroundがない場合)アルゴリズム、データ構造、ハードウェア、ネットワークなどに関する基礎的な知識
      詳細には立ち入らないが、インターネットにはたくさんのフリー、若しくは安価の教材がある。テクニカルインタビューの準備をする前段階として、これらをうまく活用し、基本的な知識は頭に入れておく必要がある。例えばDDIAでも基本的なアルゴリズムは当然知っているものとして出てくるし、DNSとはなんぞやみたいな状態だとSystem Design Primerも初っ端で躓く可能性がある。従って、最低限の基礎的な知識がないとそもそもTechnical Interview向けの勉強が進まないと思われる。急がば回れである。

  4. Estimation
    これはよく使う数字を自分で調べて頭に入れておく必要がある(各国の人口やGDPなど)。Product Allianceにも数字をまとめたものがあるはずだ。あとはたまに作った時のコストを聞かれることがあるので、例えばEC2のインスタンス一つでどれくらいの処理ができてどれくらいのコストがかかるのか、などというあたりはざっくりと仮定がおけるくらいの感覚値はあった方がよいかもしれない(正解を聞きたいわけではなく、Assumptionとして合理的な数字であればよいので、深掘りする必要はないと思う)。あと、受ける会社のDAUなどの数字は頭に入れた方がよい(会社の決算資料などからとれるはず)。

  5. Behavioral
    特に何か教材が必要というわけではないのだが、今までの経験をGoogle Sheetかエクセルか何かにSTAR Formatで纏めて、面接でよく聞かれるテーマ毎(リーダーシップ経験、挫折からの立ち直り)に纏めておくのがよいと思われる。

Mock Interview

海外の記事などを読むとMock InterviewはMustだ、と書いてあるものも多い。が、私は必ずしもそうではないと思っている。現に、私はMock Interviewはやらなかった。このあたりは面接慣れと英語慣れの側面があるので一概に正解はなく、当人の状況によるかなと思う。私は幼少期を英語環境で過ごすというラッキーなカードを引けなかった側の人間なので、英語はあまり得意ではない。一方で、面接、特にケース面接は得意な方で、今までで落ちたことが殆どない。従って、Interviewで過去に聞かれた問題を見て、それに対して声を出して本番のように回答する練習するのを数回やれば十分かなと考え、実際にそれで結果も出ているため、準備としては十分だったと思われる。

Mock Interviewに関しては有志のSlack Channelもあるようだし、上でご紹介したExponentやProduct Alliance経由だと、実際にFAANGなどで面接官をしている人とお金を払って練習ができるとのこと。

雑感

AmazonとAWSで足掛け六年半ほど過ごしたので、実際に他の会社の人たちと話すのはとても新鮮であった。また、自分の市場価値を知れたという点でもとてもよかった。私はFAANGMULA(Facebook, Amazon, Apple, Netflix, Google, Microsoft, Uber, Lyft, Airbnb)と呼ばれる会社を中心に5社受け、3社からオファーをもらった(一社はプロセスの途中でレベルの議論になり、水準感が合わず見送り。もう一社は普通に最終ラウンドで落ちた)。また、PMのポジション以外にも、よりテクニカルなPrincipal TPM (Technical Program Manager)のポジションで声がかかってプロセスが進み、MLシステムデザイン、アルゴリズム(実際のコーディングはなしでpseudocode)、とあるML Domainのテクニカルインタビューを乗り切ってそちらからもオファーをもらったので、非CS出身のPMとしては結構自信もついた。また、金融 / Buyside出身というバックグラウンドもあって、Tech特化型のMid Cap Private EquityのValue Up部門やHedge FundのQuants Tradingのシステムやモデルを開発している部門からも声がかかり、こういう道もあるのか、と視野が広がった面もある。金融職はNYCやSFへのリロケーションが必要だったので見送ったが、将来的にこういったポジションも楽しそうだななどと思うなどしている。(ちなみに今回オファーをうけたポジションはフルリモートなので通勤がないというのは大きな決め手の一つだった)

昨今はJob Marketがとにかく加熱している。Levels.fyiやBlindを見ると、とんでもない額のオファーが飛び交っている状況である。視野も広がり、待遇も良くなるのであれば、これは一石二鳥なのではなかろうか(私はそもそも人と話したり、面接したりするのが余り苦にならないタイプの人間なのでかなり偏った見方かもしれないが)。

(おまけ - FAQs)

FAQ: 面接に行く前の書類選考ではじかれる、またはリクルーターから連絡がこない

人気のある会社の書類を突破したり、リクルーターから連絡をもらうにはネームバリューのある会社で働くことが一番である。私の場合、Amazon/AWSという名前がレジュメにあるという事実の効果は絶大であったと思われる。

もしなかなか面接に辿り着かない状況であれば、二つのことを試みることをお勧めする。一つは応募経路の見直しである。まず、正面突破でWebsiteから応募するのは余りお勧めしない。基本的にそういったResumeは見られないことが多いからだ。自分の卒業した学校の同窓生などをLinkedInで探し、なんとかHiring Manager、せめてReferralを出してくれる人を探すのがよい。あとはLinkedInで希望の会社のRecruiterを探して、レジュメなどを添付して直接InMailすることもできる。尚、私はLinkedInの回者ではないが、こういった理由で転職活動中はLinkedIn PremiumをActivateしておくことをお勧めする。

上記を試みても面接に辿り着かない場合は単純に経験値が不足している可能性が高い。特に、PM職は米国では人気であり、FAANGのIndustry HireだとPM経験のない場合は面接にたどり着くのは難しい。従って、一足飛びに目標に向かうのではなく、自分の経験に鑑みて突破できそうなFAANGMULAの会社/ポジションからとりあえず攻めてみるのがよいだろう。尚、PM経験がないがPMになりたい人には、Job Familyの移動が比較的しやすいAmazonはお勧めで、一旦別のポジションで入って結果を出し、一年か一年半後くらいにPMへのスイッチを狙うのはあるあるだと思う。

FAQ: 会社によって面接の傾向にどれくらい違いがあるのか

面接の傾向は基本的に会社の人材獲得の哲学を反映しているので、かなり幅がある(そういう意味で、Funtional SkillはそこそこにCulture Fitを最重要視するAmazon/AWSの面接スタイルは異彩を放っていると思う)。Metaについては、他社で似たフォーマットの面接をする会社が結構あるので、そういった会社と併願することで準備を効率的にできるが、最後の味付けの部分は各社重視することが微妙に違ったりするので、事前に担当のリクルーターと密に連絡を取る必要がある。尚、今回のプロセスを通じて、ついてくれるリクルーターの質は面接の成否に大きな影響があると私は思うに至った。

FAQ: リクルーターはなぜ大事なのか

リクルーターは基本的にはソーシングをして、何人にオファーを出してアクセプトしてもらったか、という点で評価が決まる(らしい)。従って、リクルーターは基本的に貴方にオファーを取ってもらいたいし、そしてアクセプトしてほしい。リクルーターはHiring Managerと並び、面接のプロセス中や、報酬面などの条件交渉における最大の味方なのである(Hiring ManagerのいないUnallocatedというポジションだとリクルーターの重要性は増す)。

従って、面接のフォーマットやよく聞かれる質問、どういった教材をつかって対策するか、という点について聞けば、(実際の問題は教えてくれないが)だいたいのことは答えてくれる。数社のリクルーターに関しては、面接前に準備用の資料などを送ってきてくれた。

あとはオファーが出た後の条件交渉(私は複数オファーがでていて交渉にかなり時間がかかった)でもリクルーターの差が如実に出た。質のよいリクルーターはレスポンスがよいし、給与のレンジなどについてもかなり透明性の高く、一緒によりよいパッケージを勝ち取るための同志、という感じで働くことができた。

FAQ: 給与交渉をする上で気を付けることは何か

まずはっきりさせておかねばならないのは、最初に提示された給与は絶対にそのまま受けてはいけない、ということである。先方は確実に交渉されることを前提に最初のボールを投げてくるので、ここはスパンと打ち返すべきである。実際に最終的に受けたオファーは最初に提示されたものからはるかに高い水準のものであった。

さて、打ち返すにあたっては、三つのプロセスを踏んでおきたい。(1) Levels.fyiやBlindでオファーの水準感を確認しておく。尚、Levels.fyiに関しては新しいオファーだけではなく、既に数年勤務している人の情報も出てくるので、若干オファーの水準よりも下に数字が出ている気がする。(2) 複数社からオファーをとる。他社のオファーをレバレッジにして、給与交渉をするのである。オファーが近いタイミングで出るようにProject Managementをきちんとする必要があるが、金額を上げるにはこれが最も効果的である。(3) Walk Awayする水準を決めておく。自分を安売りする必要はない。オファーの金額が低く、それ以上余り上がらなそうであればお互いにとって時間の無駄なのでさっさとWalk Awayした方がよい。

FAQ: 面接で聞かれる可能性のある全エリアを対策すべきか

真偽の程は定かではないが、基本的にNo Hire的なレーティングが一つでもつくとOfferは出ない、というPolicyの会社が結構多いようだ。従って穴がないように全エリアの対策する必要がある。

FAQ: 教材に対してお金をかけたくないのだがどうすればよいか

転職することで上昇する賃金分を考えれば、教材費は全くの誤差なのでお金をきちんと使って対策しましょう。


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