封じ込め ⇒冷戦 ⇒戦術核・戦域核配備?―――フォーリン・アフェアーズのインタビュー動画を契機に(その3)

1 はじめに
  前稿で、「米国の戦略の基調は、実は第2次大戦以降変わっていないのではないか」という話から、封じ込め態勢を基調とする米国の大戦略のつくりを考察したが、その文脈で日本がとるべき戦略を考えた時、タイトルにあるような、冷戦時に起こった議論と施策に至るのではないかと思ったことから、元々考えていた「封じ込めのコスト」を保留し、このテーマを先に考察することにした。

2 超大国を封じ込める施策
  米ソ冷戦期において、米国の封じ込めに対するソ連の挑戦は、スプートニクに象徴される技術追い越し、キューバへの核・ミサイル配備等があったが、前方における防衛態勢に対するものとしては、大きく2つの挑戦があった。
  1つ目は戦術核配備に至る挑戦で、欧州正面の通常戦力で圧倒的優位にあったソ連に対し均衡を保つため、米国・NATOは、些細な侵攻に対しても核で報復するとする大量報復戦略に基づき、小型核を先制使用して対応する方針を採用した。その後米国・NATOは、大量報復戦略から柔軟反応戦略にシフトするも、ソ連・ワルシャワ条約機構の優勢な通常戦力への対抗手段としての戦術核使用の方針を継続した。
  2つ目は、戦域核(中距離核)の配備に至る挑戦で、1970年代後半から、核搭載可能な新型中距離ミサイルをソ連が欧州正面に配備し始めたことで、米欧デカップリングが図られていると欧州内で懸念が高まったことから、NATOは米国の中距離核戦力の欧州配備を決定し、配備を進めることでソ連・ワルシャワ条約機構に対抗した。
  これら2つの歴史は、超大国に対する前方での封じ込めをより確かなものにする過程において投げかけられた2つの問い、①「局地劣勢の状態においてどのように均衡を保つか?」、②「米国と同盟国との間に打ち込まれるくさびに対し、どのように対応すべきか?」に、答えを与えてくれている。

3 西太平洋正面においてもいずれ直面する問題なのか?
  戦略核において、米国と均衡を図り得るのは、現時点でロシアのみであるとすれば、上記の問題は米露とそのはざまにいる同盟国(日本・韓国)、という文脈での問題になり得るが、その場合、冷戦期の欧州と今の北東アジアでは状況が全く異なることを踏まえると、今日及び予想し得る将来において、この問題は生起しないと考えて良いように思う。
  他方で、米中間において、仮に、上記の問い①に係る状況にある、とした上で、Ⓐ中国が米国に比肩し得る戦略核態勢にまで核戦力を強化した状況、又は、Ⓑ戦略核態勢に係る協力を軸とした中露が対米結託した状況(例えば、米国が戦略核態勢に関する優位性を中国にちらつかせたことで、ロシアが対中協力に踏み切る等の状況も含む。)が生起したら、理論的には、戦術核・戦域核の議論が生起し得る、と分析せざるを得ない。逆にⒶ又はⒷの状況が生起する中において、当該議論が生起しなかった場合、抑止の均衡が崩れやすくなる(日米等側に不利な態勢になる)と考えられる。

4 おわりに
  初稿から引用している、ミリー大将のフォーリン・アフェアーズのインタビューの中で、同大将が最も大きな懸念を示していたのが中露結託であった。もし、上述のⒷの文脈からその懸念を示しているのであれば、そのような結託は、確かに、西太平洋の封じ込め態勢・同盟国の封じ込め支援態勢をかなり根っこから変えることになり得る(おそらく、それ以外の協力に対する懸念もあると感じる)。
  戦略核態勢に関する中露結託は、信頼できるものなのか、といった議論もあるだろう。しかしながら、中露の信頼関係の信ぴょう性が不確かな状態にあるとみられていても、仮に、ロシアが「中国の戦略核態勢に関する劣勢を支援する」と一言言っただけで、十分に効果を与えるものになり得る。
  この考察を世に問うべきか、悩ましい内容になってしまった気がする。しかし、戦略・戦域・戦術それぞれで均衡を形成し、交渉につなげていく上で直視すべき問題であることから、臆せず問いたいと思う。

【参考】
l  The Foreign Affairs Interview, ”General Mark Milley: How to Avoid a Great-Power War(マーク・ミリー大将:大国間戦争を如何に回避するか)”(再掲)
https://www.youtube.com/watch?v=utWfQ4ZWpCo&t=168s
l  高橋杉雄『現代戦略論―――大国間競争時代の安全保障』並木書房(2023)(再掲)
l  佐瀬昌盛『NATO―――21世紀からの世界戦略』文春新書(1999)

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