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研究は何を生み出しているのか?

企業における研究マネジメントの考察(3)
企業における研究部門のマネジメントについて考えたことを整理しています。

以前の記事で、「研究は新奇な『知』を発見し広める活動」と言えるかもしれないと書きましたが、研究は「『知』を生み出している」という考え以外にも、企業においては「ビジネスの価値を生み出している」や「事業の強みを生み出している」という考え方もあると思います。では、研究の生産物は「知」「価値」「強み」のどれが適切でしょうか?今回はこれを考えてみたいと思います。

検討の条件

一口に研究と言っても、企業の研究では様々な物事のが生み出されています。例えば、製造業であれば新商品・新技術・新素材・新プロセスなどを研究することがあるでしょうし、創薬や医療であれば有効な化合物や治療法を、シンクタンクであれば世界情勢や政治経済の予測などを研究部門が扱っている可能性があります。

しかし、本稿は研究マネジメントを検討しているので、生み出すものを一度抽象化します。この生み出すものは、研究マネジメントの軸になると想定しています。また、研究部門としてマネジメント可能な範囲に限定したいと思います。そのため、次のような条件を設けます。
(1)研究マネジメントの軸になるか
(2)研究部門だけでマネジメント可能か

抽象概念としては、他にも考えられるかもしれませんが、前述の通り「知」「価値」「強み」の3つを検討対象にします。

「知」の検討

全ての研究で共通する必須条件は「新奇性」です。「未知の物事」を、「既知の物事」に変えたとき、新奇性があると判断されます。すなわち、研究は、存在しなかった「知」を生み出していると考えることができます。これは、企業でも大学でも共通です。

新商品や新技術、新しい治療法、経済予測などは、生み出された「知」の表現形態と考えることができます。例えば、1つの「知」は、商品にすることもできますし、文章として表現することもできます。

また、「知」は研究のあらゆる段階で生み出されます。研究では、調査によって「問題」という知を生み出し、理論をもとに「仮説」という知を生み出し、実験からは「実験結果」という知を生み出します。そのため、研究マネジメントの軸に適切と考えられます。同じ理由から、事業部門とは無関係に、研究部門だけでマネジメントするにも適切と考えられます。

「価値」の検討

企業の研究部門なので、ここで言う「価値」は、お金に変えられる「経済価値」です。企業の研究成果は、最終的に商品やサービスとなって、お客様に購入してもらいます。購入してもらえるということは、経済価値があることと同義なので、研究部門は経済価値の源を生み出していると考えることができます。

ただし、「経済価値」は企業活動の全てを通して生み出され、研究部門だけで生み出すことはできません。研究成果をもとに、商品開発を行い、生産プロセスや販売チャネルを整え、営業や販売推進活動、広告やプロモーションといった活動を通じて、お客様に認知いただき、商品をお届けし、料金を支払ってもらうことで、ようやく経済価値が確認できます。

このように、経済価値には多くの部門が関わるため、研究活動の生産物というよりも、企業活動の生産物と考える方が良さそうです。そのため、研究部門だけでマネジメントするのも不向きと考えられます。また、お客様によって価値の有無が左右されるため、研究マネジメントの軸としても扱いにくいと考えられます。

「強み」の検討

J. バーニーの「企業戦略論」(2003)によれば、「強み」は「持続的競争優位性」と読み換えることができます。お客様が商品を購入するのは、他社商品と比較して、購入するだけの理由があるからです。商品に内在する理由を研究部門が生み出していると考えることができます。

しかしながら、商品に内在する「持続的競争優位性」は、他社との比較で決まり、研究部門だけで生み出せるものではありません。古くは、VHS・ベータのビデオテープ規格の競争では、映像品質に優れたベータが、品質に劣るVHSに負けてしまいました。ビデオゲーム機で言えば、当時の最高スペックを提供した3DOは、商業的には完全に失敗でした。

このように、品質や性能といった商品の特性は、市場環境や競合の存在、別の競争優位性によって左右されてしまい、必ずしも持続的競争優位性になるとは限りません。結局、持続的競争優位性も事業活動全体で決まるため、研究部門だけでマネジメントするには不向きと考えられます。また、持続的競争優位性は競合の出現によって左右されるため、研究マネジメントの軸として考えるのも難しいでしょう。

結論

以上により、研究部門が研究マネジメントを行う上では、「知」を軸にするのが良いと結論づけられます。

「知」は、顧客との関係性によっては「価値」になる可能性がありますし、競合との関係性によっては「強み」になるかもしれません。逆に言えば、「知」だけでは「価値」や「強み」を判断することはできません。

しかし、事業としては「価値」や「強み」が必要ですから、「知」を軸にするものの、「価値」や「強み」の可能性も適宜考えていく必要があります。


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