血はあらそえない

遺伝的な話をすると、末森家は笑い上戸だ。

母がネズミ捕りに自身の靴下を引っ掛けた時も、バーベキューで紙コップに焼肉のたれを注いだ時も、急須にコーヒーをつぎ始めた時も、黄色い爆笑が起こる。
(ちなみに父は、最近裏庭で拾ってきた鹿の角をメルカリで6000円で売りだした!)

何も悪気の無い天然な母、笑いをとる事に貪欲な父なので、子ども達がツッコミ役に回るのも無理はない。自然な流れだ。

しかし、どう足掻いても遺伝子には勝てない。笑いのツボというものがもれなく全員浅いのは仕方のないことだ。

六つ下、弟

もう何年も前の話だが、弟との記憶で鮮明に脳裏に焼き付いている思い出がある。

幼少期によくある「しょうもない喧嘩」。その日はテレビのチャンネル争い、どちらの見たい番組を見るか。画面には、止むを得ず選択されたちびまる子ちゃんが流れていた。
そこでも勝敗が決まるまで決着は付かない。大声量で罵倒し合う頃、画面越しの豚鼻のブー太郎は、
「うるさいブー、静かにしろブー。」
と言い放った。

釘付けになった画面から目を離し顔を見合わせ、笑い転げた。奇遇なことにちびまる子ちゃん達も、同じ状況だったのだ。なんと絶妙で滑稽な台詞であろうか、ブー太郎よ。

それだけでは終わらない、弟は笑い過ぎて人生初の経験をする事になる。

そう、笑いながらのお漏らしだ。
興奮のし過ぎでカーペットを濡らすそれを見て、更に笑う次女。
そう、それが後の末森業界用語「嬉ション」。

※嬉しくてお漏らしをしてしまった際には、是非使って頂きたい。

四つ上、姉


「悪魔の花を刈りに行こう。」
そう言って姉から小さい鎌を手渡された。

本気だ。いつだって彼女の眼は真剣そのもの。

圧巻されて当然のように鎌を受け取る。
聞くと、庭に咲いている彼岸花は毒を持つ花なので危険だから撃退しようとしているらしかった。

姉は持てる力一杯
「キェ〜〜!悪魔の花〜〜〜!」
と叫びながら彼岸花を刈っていく。刈っていく。刈っていく。振り返る。自分に続けと目で訴えてきた。
やむを得なくそれに続く。
どうやら叫びながら進むのがポイントらしい。

刈り終わった後、ばあちゃんにしこたま怒られるのは無理もない。当然だ、彼岸花は有毒性だがそのままにしておいても何の危険性はない。赤色に散らばった花弁を片付けさせる仕事を増やした。

申し訳なく謝ると、隣にはもう姉の姿はない。

植物用の水遣りシャワーを四方八方撒き散らし、ぐるぐる駆け回っている。

「ねえちゃんな、雨の中スキップしながら駆け回るのが夢やったんよ!あははははー!」

もう訳が分からない。姉の立ち直りようは狂気すら感じた。自分から笑えば人は笑顔になる。笑って貰う為には身体を張る、ねえちゃんの信念だ。

そんな姉も、三十になった今では二人の子どもを持つ母。
「ねえちゃんな、まともにお母さんやっとるんよ。見えるやろ?」

と言いながらアンパンマンのテーマソングを、もうすぐ寝つきそうな子ども達に歌う。

「♫おいしいパンをつくろう、いきてるパンをつくろう。あ、これジャムおじさんがパン作るときに歌う曲やった。」

時が進んでも、姉には脱帽だ。



#福岡 #エッセイ #実家 #家族

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