『ゆとりですがなにか インターナショナル』~“家族の日常”こそ最強のコンテンツ~
2016年に日本テレビで放送されたドラマ、『ゆとりですがなにか』が7年越しに初の映画化を果たしました。
実際に映画館に観に行った僕ですが、2016年当時、リアルタイムではこのドラマを観ていませんでした。
この作品が映画になるということを知り、「おもしろそう!観たい!しかしその前に予習せねば!」と、映画を観る前にHuluで一気見しました。
なので、当時観ていた人よりも、ホクホクの温度感で楽しめたと思います。一気見のメリットですね。
そんな僕が感じた感想や魅力を、極力ネタバレなしで書こうと思います!
※でも観てから読んだ方がいいとも思います!
あらすじ
やる気はあるけど仕事は出来ない、飲食チェーンの営業マン坂間正和(岡田将生)、真面目で実直な仕事ぶりだが、女性経験ナシの山路一豊(松坂桃李)、おっぱいパブの客引きで素行は悪いが、人情味はある道上まりぶ(柳楽優弥)。
ひょんなことから仲間になる“ゆとり世代”の3人が、不器用ながらも日常を必死に生きる姿を描いたコメディドラマ。
あれから6年が経ち、実家である坂間酒造の切り盛りと夫婦関係で上手くいかない正和と、いまだに童貞で、教育実習生と恋仲になることを目論むことしかできない山路、中国でのビジネスに失敗し、帰国後坂間酒造で働くことになるまりぶ。
「Z世代」「働き方改革」「グローバル化」「LGBT」などの現代社会が抱える問題に、彼らやその周囲の人々はどう立ち向かい、生き抜いていくのか。
日本の若手俳優のオールスター的作品
「観たい」と思った理由は、シンプルに豪華メンバーだからです。
もちろん宮藤官九郎脚本の時点で間違いないわけですが、俳優陣がとにかく豪華。
岡田将生、松坂桃李、柳楽優弥の主演3人に加え、安藤サクラ、仲野大賀、吉岡里帆、島崎遥香、矢本悠馬、吉田鋼太郎などオリジナルメンバーは錚々たる顔ぶれです。
それに加え、映画版では新たに、木南晴夏、上白石萌歌、加藤清史郎などが出演していました。
放送当時より今の方が圧倒的に邦画や民放ドラマを観ている僕。
ここ2~3年で観た話題作に出演している俳優ばかりです。
岡田将生は『ドライブ・マイ・カー』『大豆田とわ子と三人の元夫』、松坂桃李は『孤狼の血』『VIVANT』『離婚しようよ』、柳楽優弥は『浅草キッド』『ガンニバル』など。
安藤サクラは『ブラッシュアップライフ』『怪物』、仲野大賀は『初恋の悪魔』『コントが始まる』など。
みなさん演技の幅が凄いですが、共通して言えるのがコメディに強い俳優さんばかりだということ。
クドカン作品の世界観にうまくハマる力量を持っている人たちばかりですね(こう見ると坂元裕二、バカリズムの作品に出演している人も多い)。
ドラマ版の話になりますが、僕はリアルタイムを経験できていないので、売れっ子俳優がたくさん出ているという今の状況から過去を振り返ると、印象的なのは仲野太賀と吉岡里帆の存在です。
2016年当時はそこまでの知名度が無かった二人ですが、この作品を機に注目されたそうで、特に吉岡里帆はこの作品で民放連続ドラマ初のレギュラー出演を果たし、次の年2017年に『カルテット』でブレイク。国内の賞を複数獲得しています。
仲野太賀(放送当時は「太賀」名義)も、2017年のスペシャル版と同時に、Hulu限定のスピンオフドラマ『山岸ですがなにか』が配信されるなど、このドラマでの好演が後の活躍を勢いづけたことは間違いありません。
「この時こんな感じやったんや~」と、資料映像的な感じでも楽しめました。
このように、2010年代後半から現在にかけての、日本のドラマ・映画シーンの状況を理解するという意味でも重要な作品なのではないかと思います。
クドカンが描く現代社会
『ゆとりですがなにか』を観たことがある方は何となくわかるかもしれませんが、この作品は特に内容があるわけではありません。笑
伝えたいテーマとか、メッセージ性などはもちろんありません。
ただただ“普通の人間”の生きる姿を視聴者は眺めるだけなのです。
特殊な能力を持った人間は出てきません。
普通の企業に入ったサラリーマンが結婚を機に家業を継ぐ。
保護者からのプレッシャーのなど、小学校教師なら誰もがぶち当たる苦労。
結婚、妊娠、出産、子育てに悩む母親。
普通の、並の人間ならほとんどが経験することを、同世代の若者が面白おかしく乗り越えていく姿を見て思うことは、
「みんな、毎日必死に生きているんだな」
ということ。
自分が“普通”の存在であることを受け入れ、世の中の流れを受け入れ、立場は違えど、みんなそれなりに幸せになろうともがいているんだなということを実感させられる作品なのです。
「勇気をもらえる」というニュアンスでもない、ただ「みんな頑張っているんだな」ということだけが伝わってきます。
それこそが、「ゆとり世代」というキーワードを用いた、説教じみていないクドカンなりの現代社会の描き方なのではないかと思います。
「家族の日常」という最強コンテンツ
ドラマ版と比べ、映画版でより強まったなと思う要素は、“家族”です。
100年続く酒造会社という“伝統”が、坂間家をつなぐ要因になっていて、そこに住む母親、兄弟、そこに嫁いだ嫁、子供、そして住み込みの従業員などたくさんの人間が集まっているわけですが、彼らそれぞれに出来事が起こります。
でもそれは、先程も言ったように、何も特別な事ではありません。普通の社会人なら起こしそうなことばかり。
取引先との契約問題で奔走する兄に、仕事を辞め自宅でリモートワークする妹。セックスレスで悩む夫婦。夫の実家で暮らす苦労を抱える妻。
そんな何気ない日常をいつの間にかYouTubeで切り取られていた坂間家ですが、日常がコンテンツになるということ自体は、YouTubeやSNSが発達した現代の常識です。
そういった「日常をYouTubeで発信する」という展開を前にして思うのは、「この作品は一生続けられるやん」ということ。
よくよく考えたら、家族の成長を描いていくということが、実は一番強いコンテンツなのではないかと思います。
「北の国から」「渡る世間は鬼ばかり」「サザエさん」などなど——。
家族内で起こる人生の中のいろいろな出来事を切り取っていくだけでドラマになるんですよね。
今後も長く続いていくであろう長寿作品になる可能性やポテンシャルを、この『ゆとりですがなにか インターナショナル』に感じたのです(というか続いてほしい)。
同世代の僕が見て感じること
坂間っち、山ちゃん、まりぶの3人は、設定では2023年現在36歳。1987年生まれです。
ドラマ放送時の2016年は29歳でした。
実年齢は厳密には違いますが、ほぼ同世代の出演者。一応主要キャストの年齢一覧を載せておきます。
※年齢順
ゆとり“第一世代”である4人と、“第二世代"である2人とは少しだけ年齢差があります。
岡田将生と柳楽優弥は同学年なんですね。
仲野大賀と吉岡里帆も同学年。
安藤サクラは今年38の歳なので一番お姉さん。
ちなみに僕は1990年生まれの33歳。
90〜95年生まれは“第二世代”に入るみたいですね。
いやだからって何って話なんですが、自分が同世代なだけに、その辺が気になりながら観てたので一応載せておきました。笑
僕自身、“ゆとり世代”と聞いても正直ピンとこないのは、会社勤めをしたことがないからだと思います。
作品の中の彼らは社会に揉まれ、“ゆとり世代”であることの苦悩にたびたびぶつかりますが、個人的にはドラマを観ても共感できませんでした。
ただ、同世代の彼らが今年30代半ばに突入することで、あらゆる社会的責任が課せられていく姿を見て、遅ればせながら「いつまでも甘い考えじゃあかんよな。ちゃんとせなあかんな。」と思ったのも事実。
“ゆとり”にカテゴライズされるかどうかは別として、普通に同世代の歩みを見て、考えさせられる作品でした。
というか、これはドラマの時から思ってたんですが、タイトルにあるにも関わらず、そこまで“ゆとり世代”の本質には終始触れてるわけではないんですよね。
2016年という時期を振り返っても、そんなに社会全体で“ゆとり世代”が問題の中心にいたのかなと考えますし、実際にそうだったとしても、彼らが味わった引け目や屈辱は、芸人をしていた自分には一生わからない感覚です。
「ゆとりですがなにか?」という感情を持っていなくとも、考えさせられる、そして楽しめる作品だということは間違いないです。
おわりに
以上が『ゆとりですがなにか インターナショナル』の感想でした。
少しネタバレかな?と思う部分もありましたが、正直言うと、別にネタバレしても大丈夫な映画だと思います!笑
あと、最近までドラマ全10話、スペシャル全2話を観ていたので、若干感想がごちゃ混ぜになっていて、純粋な映画評論にはなっていないと思いますが、ただシンプルに伝えたいのは、めっちゃ面白かったということ。
ずっと一人で配信で観ていたので、映画館で観客と同じタイミングでたくさん笑えて、一体感も味わえる大満足の映画でした。
興味ある方は是非映画館で!
それでは、また!
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