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バリアの向こう側は何色か

以前、共感覚について記事をかいた。

(去年かと思っていたら一昨年だった……。時の流れ、速すぎる……)

わたしは「メロディーに対して色が浮かぶ」という現象が最も多い。音楽を聴いていると「青いな」とか「モノクロだな」とか、たまに「ビルが立ち並ぶ都会の曲」「浜辺で月を眺めている」などの風景が浮かんでくることもある。
そしてメロディーほどではないが、人のオーラも色としてみえる。

約3週間前、新たな会社に転職した。多くの人との出会いがあり、そしてオーラを感じる日々が続いている。
わたしの場合、オーラは出会った瞬間がいちばんみえる。対面し、話すようになり、その人の素顔がみえてきて「あ、こんな色も持っているんだ」という発見もある。そして、ある程度の月日が経つと色は薄れていく。家族や親戚なんかはほぼみえない。

なのでこれから関わっていくであろう人との初見は、普段よりも意識してオーラをみるようにしている。その現象を楽しんでいるのも理由のひとつだし、またちょっとした警告として調べているという点もある。「この人とは合わないかもな」という直感を、色で感じることがあるからだ。

しょせん感覚的な話なので絶対とはいえない。苦手なオーラだなと思っていても、話したら馬が合うなんてこともあると思う。だけどわたしはどうしても、そこに関しては自分を信じてしまう。「この人は注意したほうがいいかも」と予知したら、どうしても警戒してしまう。

実際、現時点で「ちょっと気を付けたほうがよさそう」と感じた人がいる。この前ふたりで話す機会があったのだが、新天地へ引っ越してきたわたしを非常に気にかけてくれていた。ほどよい距離感を保っていれば、おそらくこのまま平行線のような関係で何事もなく終わる気がする。平穏に過ごしていきたい。

さて、ここからが本題だ。転職して約3週間、どうしてもオーラのみえない人がいる。

その人は同じ課の先輩で、わたしの教育係をしてくれている女性だ。課にはほかにも数人いて、その人たちは初日で色がみえた。桜みたいなピンク色、イチョウのような黄色、スモーキーな水色など……。苦手なオーラをしている人はおらず、みんな優しく雰囲気が良い。しかし、どうしてもその人だけ色がみえない。

この状況が不思議でたまらなかったわたしは、先輩をよく観察するようになった。その日のコンディションや気持ちの変化により色も変わることがあるので、さまざまな場面でオーラをみようと試みる。出勤してきたとき、ご飯を食べているとき、業務について教えてもらっているとき……。これだけ意識しているのに、先輩のオーラはちっともみえない。

最初はわたしのことが苦手なのかなと思った。しかし熱心に指導してくれるし、出社がふたりのときは「よかったらいっしょにお昼ご飯行かない?」と声をかけてくれる。イヤだったらそんなことはしないだろう。ではなぜ、他の人のようにオーラがみえないのか……。すりガラスのような透明なバリアがあり、向こう側で先輩のシルエットがぼんやりと浮かんでいる。

その情景がみえたとき、すべての謎が解けた。先輩の第一印象は「静か、人見知り、警戒心が強い」。新入りのわたしがどんな人なのか、様子を窺いながら話しているのがわかる。わたしに質問はするが、自分のことは聞かれないかぎり話さない。そのすりガラスのようなバリアに、先輩のオーラも隠れているのだ。

そりゃみえないのも当然だと、妙に納得した。そしてこんな経験は初めてで新鮮だなと、興味深くも感じた。慣れ親しんだ人のいない、新しい場所での出会いだからこそ起きた現象である。

先日、その先輩とふたたびお昼ご飯を食べにいった。趣味はなにかと聞くと「漫画を読むこと」と答えた。わたしも漫画は大好きなので、読んだことのあるタイトルをいくつか挙げる。すると先輩は「それ読んだことある!」「もう完結してるの?」と反応してくれて、話がおおいに盛り上がった。そのとき、ほんの少しだけバリアが薄くなったような気がした。色はまだみえないけれど、距離が縮まったのはたしかだ。

少しずつ業務を覚えて、会社にも馴染んで、そして先輩のオーラがみえるときがきたらいいなと思う。そのときはまた記事をかくので、それまでお楽しみに。

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