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2018年に置き去りたいおもいでー大学不合格体験記

今年においていきたい、大学受験のことについて書きました。たぶんこのさき一生この話をしないと思います。

受験が終わってからはや二年、べつに根に持ってるわけでもないのですが、3年以上たってもなお受験の話をしているともう過去の栄光にすがろうとしてる老害感すごいし、受験終わった直後に受験ネタで笑い取ろうとしても強がってるようにしかみえません。これくらいの時期がちょうどよいのではないでしょうか。

因みにいまは理科大とかいうところに通っています。教育理念は「実力主義」、マゾヒストの巣窟。こわい


以下では、受験当日から結果発表までのエピソードを一人称視点から追っていきます。
今までの血の滲むような努力を胸に入る会場での緊張感、合格発表までのドキドキ、そして気になる結果はーーーという受験ならではの臨場感を味わっていただけたらなと思います。
ちなみに結果は自明です。全部落ちます




慶應義塾大学

階段教室の最前列、一番窓際の席に座る僕は、すこしだけ不安だった。他の人が横目にも入らないこの席だと、周りのペースが掴めない。

背中のほうから椅子のぶつかる音が聞こえる。まだ席についていない人がいるみたいだ。

不思議な感覚だった。これだけの人がいるのに、耳に入るのはゴツン、ゴツンという鈍い音、誰かの咳き込む声、参考書をめくる音。でもそのどれもが、僕の視界には入らなかった。

教室に充満する澱んだ空気だけが、その存在を知らせてくれる。

落ち着け、落ち着け、落ち着け。

そっと目を閉じ、深呼吸をする。
窓から伝う冷気を感じると、靄が消えていくような気がした。



よし、大丈夫。



過去問の傾向からみると、受験校のなかで慶應は比較的取り組みやすい問題が多い。ただそれゆえに油断しがちなところがある。英語では決定的に違うとは思えないような紛らわしい選択肢が紛れているし、数学は大学入試にしては珍しく計算過程を書かせない問題が多い。部分点などない、○か×かの二値問題。過去問では悔しい思いをすることも多かったが、ミスを極力抑えれば合格点は超えられるはずだ。ここは確実におさえていきたい。

ほどなくして、試験問題が配られた。目の前に問題冊子が置かれる。色のついた問題冊子だった。

僕は表紙の注意事項をみた。あの文言を探して目を走らせる。


「試験開始の合図があるまで、この問題冊子を開いてはいけません。」


よし


バーーーン!!!

僕は両手で問題冊子を押さえつけた。

みえるみえるみえる。大問1が手に取るようにみえる!




父はいつだか、僕に教えてくれた。

「俺たちが学生の頃にな、'透かし読み'ってのが流行ったんだ。」

「とうさん、なんだいそれは」

「試験問題は開かずとも、表紙の裏からうっすらと問題が透けて見えるだろう?それを先に読んでおくんだ。受験当日はたくさんの学生が一つの教室で試験を行う。すると当然、問題配布の時間も長くなるわけだ。先に読んでおいた分アドバンテージになるんだ」

「でもとうさん、そんなことをしたら、不正行為になるんじゃないの?」

「カナタ、問題冊子の表紙に書いてある注意事項をよく読んでごらん。問題冊子を『開いては』いけない、とだけ書いてあるのがほとんどだ。つまりじっくり目を凝らしたり、試験問題に触ったりすることは、不正にはならないのさ」

「なるほど!すっごいやとうさん!やっぱりとうさんは、ぼくのジマンのとうさんだね!」

「ハッハッハ!ハッハッハ!」




すかさず問題冊子を裏返す。大問5も丸見えじゃねえかぁエヘッヘッへ

そしてあることに気づいた

大問5、めちゃくちゃカンタン

えまじ?まじこれ慶應?センターレベルじゃねこれ?え?まって試験開始前に普通にとけるんだけどなにこれえ?




ぼくは確信した。

慶應、受かったわ


「始めてください」

ばらばらばら。


ううぇっっへっへっへっへええぇええエイ!!!

大問5を鬼のようなスピードで解答するヤマギシ!!開始5分にして大問1つを早くも埋めてしまった!!

まわりのやつらがどんなペースで解答してるか全然知らねえけど、俺様がこの教室のなかで一番早く大問5を解答したことは自明!!やばいやばいやばい!!まじで!?おれ慶應BOYZの仲間入り!?全裸で駆け回ってもどんだけ不祥事起こしても「やっぱり頭のいいやつは考えることが違う」と何かと「頭のよさ」を軸にみられる無限の可能性マンになれるってのかいヒャッホウ!人生バラ色!!!


15 minutes later

頭が真っ白になった

15分間なにをしていたんだおれは 1問も手をつけていない
さっきから気持ちが上ずってなにも考えられない頭になってしまった。
帰り道でラルフローレンのニットを買ってから帰ることしか考えてなかった。今は試験中、いまは試験中だと言い聞かせる自分とは裏腹に、落ち着かない気持ちが焦りを加速させた結果、ついに思考回路がショートした。


カカカカッ、カンカン。カツカツ。パラッ、ばらばらばらばら。


かろうじて全ての問題に解答したものの、試験後自己採点をして顔面蒼白。

アホみたいに計算ミスしてる。


ばらばらばらばら。


ーー


後日親父と一緒にネットで合格発表をみると、「補欠」の文字。

エッ!?補欠!?補欠って合格ってコト!?

すぐ下に目を遣ると、赤字で大きくこうかかれていた。

「あなたの受験番号は補欠です。"補欠合格"ではありませんのでくれぐれもご注意ください。」


うるせえ


早稲田大学

大教室のど真ん中、多くの学生に囲まれて座る僕は、すこしだけ不安だった。圧迫感のあるこの席だと、周りが気になって集中できない。

大丈夫。

今まで努力してきた日々のことを思い返した。

学校に遅くまで残って勉強した。夏休み、朦朧としながらも長い一日のなか日が沈むまで机に向き合った日々。ときには学校に行かず地元の図書館にこもって親に心配をかけたこともあったけど、思い返せばあの日々がいまの自分の糧になっている。

僕はお守りを握りしめ、ふと笑みを浮かべた。

きっと、大丈夫。


ほどなくして、試験問題が配られた。目の前に問題冊子が置かれる。

注意事項に目を走らせる。



「試験開始の合図があるまでこの問題冊子に」



「触れてはいけません」


僕は虚空をみつめた



ーー

「始めてください」

大勢のページをひらく音が、号令のように轟いた。

同じスタートラインからのレース。フェアな戦い、悪くない。

大問1に目を遣る。

しまった、複素数か。今年辺りから出るようになるんじゃないかと噂はされていたが、メインで扱っている問題集も少なく高いレベルまでもっていく時間はなかった。悔しいが後にまわそう。

そして大問2、大問3、大問4...





やばい

まじでわかんねえ


え?まってこんなにもわかんないことってある?なにこれ?これって数学?えまっておれ置かれてる状況がわからないんですけどこれなんすか?どういう仕打ち?前世どんな業を重ねるとこんな問題がでるの?親でも殺したんか?

しかしそんな考えを頭の中から打ち消す。

おっといけないいけない、こんな考え「落ちるやつの典型的な思考」、サバイバルゲームとかで序盤に死ぬやつの考え方だ。合格を掴み取る人間は、少なくともチャレンジの漫画に出てくる主人公はこんなときこそ突破口を見出すはず。とりあえずここはどっぷりと構える。そうだ。まずは姿勢から入るんだ。

大丈夫、俺は主人公。堂々と構えるんだ。

すると隣の席に座る男が一言漏らした。


「いやわっかんねぇよ...」


男は今にも泣きそうな顔をしていた。

おっま、、、思ってても声に出すなよ、、、


ーー

全てが終わった。

今までの努力はなんだったんだろう。ひくほどわかんなかった。てかひいた

日がとっぷり暮れた高田馬場では、静かに歩く受験生たちで溢れかえっていた。だれもが泥食わされたような顔つきをしている。地獄絵図のような光景だった。

「物理の問題さ、序盤からわからなくて....」
「俺も序盤わからなかったんだけどさ、あの問題途中から解いたら、ちらほら知識問題混ざってたよ」
「うっわまじかよ!もうだめだわ俺.....」

そんな会話を、並んで肩を落とす学生を、ぼくはみたくなかった。

一目散に駅に向かい、静かな車内で気が抜けたように腰を下ろした。

さっきのあれは、数学や物理、化学、英語ではない。

たぶんあれは、


あれは、「早稲田」だ。


数学でもなんでもない、確固たる学問「早稲田」なのだ。

この一年、理系科目とセンター地理、現古漢に勤しんでいた僕は、「早稲田」の勉強はあまりしてこなかった。小中高と学校の授業に「早稲田」という科目はなかったし、父も「早稲田」の話はしてくれなかった。

あれは、そういうものだ。そう思うことにした。


家につくと、赴任中の父から電話がかかってきた。

電話越しの父は妙にテンションが高かった。

「どう、どうだった、今日の早稲田!受かりそう?」


僕は、静かに涙を流しながら答えた。

「ダメそう」


東京工業大学

本命の東工大は、全てを出し切れた。

数学の試験時間は、日本最長の3時間。A3の大きな解答用紙には、左上に小さく問題番号が書かれただけの、真っ白な問題用紙が渡される。
その紙面上に、3時間をかけてみっちりと数式を書き込んでいく。

ぼくはこの大学の試験が、性に合っていたと思う。早稲田ような、時間に追われるような試験では気持ちが焦ってしまい、全力を出し切ることができないでいたが、東工大は時間の面ではこれでもかというくらいたっぷりと時間を用意してくれている。だからこそ、等身大の自分で戦うことができた。


そして、合格発表当日。

最後は一緒に見届けてやると、父は会社を休んで僕と一緒に大岡山へ向かうことになった。

朝起きると、めざまし占いがやっている。今日は結果発表なんだから、運勢なんて気にしてもしょうがない。そうおもいながらもやはり、自分の運勢は気になった。

寅年生まれのさそり座。小さいときは「強そうな動物」をまとって、それだけで強くなった気持ちになれた。因みに弟はひつじ年のやぎ座。社会の底辺


どんな結果であれ真摯に受け止めよう。結果にかかわらず、僕はこれからも前に進んでいける。受験という過酷な期間を乗り越えて、きっとこの先どこまでもいける。そんな気がした。






「続いて、本日最も運勢の悪い方は...ごめんなさ~い!さそり座のあなた!」






はあ?


頭湧いてんのか?この流れどう考えても1位のテンションだろ?そういう感じで話進めてきてんだろ?空気読めよムーンプリンセス妃弥子 てかごめんなさ~い!じゃねえだろお前どんな教育うけて育ったんだ誠意を見せろ誠意を


「でも大丈夫!そんなさそり座のツキを回復させるラッキーアイテムは、『シーザーサラダ』!」



ーー

がたんごとん。がたんごとん。

東急電鉄の車内は、僕のはやる気持ちとは裏腹に、ゆったりとした時間がながれていた。

口下手な父は、こんなときに何を話していいのかわからないのか、さっきから「シーザーサラダ、うまかったか?」としかきいてこない。もう5回はきかれた

僕もなにか言えば良かったのかもしれないが、「落ちてるかも」なんていいたくないし、「意外とイケてるんじゃないかな」なんて言ったらこのさきの展開の伏線みたいになりそうで、結局結果については何も言えなかった。

二人はほとんど会話もしないまま、大岡山へとついた。


ーー

若林「ニチレイプレゼンツ、オードリーのオールナイトニッポン!」


若林「今日これさ、テレビだとあんまりオンエアできないなってこと喋ろうと思ってるんだけど!」

春日「え、大丈夫なのそれ(笑)」

若林「あのー、僕、占いをあんまり信じなくって...」



駅から降りると、すでに多くの学生で賑わっていた。

校舎へと続く横断歩道は、右手側には合格者向けだろうか、大岡山駅周辺の物件案内を行っている業者が列を成していた。そして左手側には、不合格者向けに来年度の予備校案内のパンフレットをもった業者が並んでいる。なんだこの残酷な社会

僕はキャンパスを一直線に突き進み、ようやく人だかりをとらえた。広場の真ん中に、看板がたっていた。ぼくはその数字に目を走らせた。





若林「それで、ラッキーアイテムとかの話なんだけど、各雑誌に占い師っているでしょ?それでラッキーアイテムとか掲載してるでしょ?」

春日「ある。マフラー、手袋、とか」

若林「あれって、最初は一生懸命に考えるんだって。タロットとかで。でも毎週やってると、ラッキーアイテムって水瓶座くらいで尽きてくるの。だから、もう目についたものを書くようになるんだって!(笑)」




ない。

なかった。

自分の受験番号は、どこにも見当たらなかった。


得点開示の結果、合格点には、5点及ばなかった。

ふーっ、と息を吐いた。

ここまできてようやくわかった。受験なんて、そんなもんだ。大体の人は合格最低点付近に密集していて、5点だとか10点だとか、そういう差で落ちたり受かったりする。5点差で受かった人と、落ちた人。この差はなんだったんだろう。考えてもわからなかった。1年間では、ビリでもボーダーを超えられるようにすることで精一杯で、そういう人たちにとって合格、不合格はいままでの勉強量に因果関係なんかない。受かっても、落ちても、肩書につく名前が違うくらいだ。人間そのものはなにも変わらない。そう思うことにした。

少し気持ちが軽くなったような気がして、僕は少し、笑った。

久しぶりに、笑った。


「あの...」

突然、声をかけられた。

「僕たち東工大のアメフト部で、合格された方の胴上げをやってるんですけど」

「お兄さん、合格したんですよね...?」




僕は、張り付いた笑顔のまま答えた。


「落ちました」

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