おもいで-中学受験 第1話
プールの授業後。
電気が消されたままの教室は、緑色のカーテンから漏れるやわらかい光で満たされている。
そんな優しい空気につつまれながら過ごす休み時間。
こどもたちはみな、次の授業に備えてせかせかと着替えている。
そんななかおれは、フルチンで教卓の上に立ち「粉雪」を熱唱していた。
「こなぁあああぁあああああゆきぃぃぃいいいぃいい」
「ちょっと!カナタくん!」
「ここぉろまぁでしぃいろく!そぉめらぁれたぁなら!あっはあはん!」
「女の子たちが廊下で待ってるんだから早く着替えなさい!」
なんで教卓のうえなのか。
なんでひとりだけ着替えないのか。
なんで真夏に「粉雪」なのか。
今となっては普通にでてくるギモンだが、小学生だった時分、なにも気にせず文字通りの”独壇場”に酔いしれていた。
こいつはなにをやらせてもダメだ
誰もがそう思ったに違いない。
しかしうちの両親ときたら違った。
「小さいうちに、色々やらせてみよう」というわがやの教育方針ではあったが、
何血迷ったか、フルチンに中学受験をさせようとしてきたのだ。
今思えばサルに芸を仕込むより難しいことだったと思える。
しかしやるまえからできないとは言わせないあたり、さすがうちの親だ。
とりあえず体験授業に連れていかれた塾、市進学院。
で、体験に行くや否や、模試を受けさせられることになった。
「今時点での彼の実力をはかりたくて」
実力もクソもあるか!
急に受験算数の問題を差し出されて困惑。
算数はおろか、学校の授業は何一つまともに受けていなかったヤマギシ少年、なにをどうしていいのか、皆目見当もつかない。
だがオトコとして、出された以上あきらめるわけにはいかない!
ふりしぼれ~~~~!!!知恵を!!!ふりしぼるんだ~~~~!!!
しかしなにひとつ空欄がうまらぬまま、時間だけが流れていく。
うおお~~~なんか適当に書いてうめるしかないのかあああ~~~!!!
そんなときだった。
ふと、右斜め前に目をやる。
そこにいたのは、
なんか勉強ができそうなBOY!(色白)
すげえ勢いでおらおら解いてる!
やるじゃんBOY!
トモダチいんのかおまえ!
あれてかなんか横から解答全部みえてる!
ちょっとおれにみせてくれYOチェケラ!
30分後
うまった
清々しい気持ちでいっぱいだった。
およそ自分のものと思えない解答用紙が目の前にある。
しかしこれでいいのだ。少年は、オトコとしての意地を守り抜くことに成功したのだった。
数日後
「ヤマギシさん!お宅のお子さんすごいですよ!正直我々もこんなにとれるとは思わなかった!」
「えっ!カナタが!...本当だ、僕に似て、算数は得意なのかもしれませんね」
しまった
つづく
<関連記事>
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?