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標準ズームは“三徳包丁” 写真がうまくなりたかったら、単焦点2本を使いこなす

周りのライターらを見ると、「持っているレンズは標準ズーム1本。取材案件で、写真を撮る必要がある場合にも、それだけで済ませる」が少なくありません。

標準ズームは確かに便利です。しかし、長く使っても、写真の撮り方の上達はあまり期待できません。そもそも、写真に興味のある人が標準ズーム1本にとどまっているとも思えません。

本気で覚える気があるのならば、大学の写真学科でもやるように、準広角・中望遠の単焦点2本から始めるのをおすすめします。

プロの道具にはなりえない三徳包丁

三徳包丁は、一般家庭ならば、ほぼまちがいなく1本はあるでしょう。あるいは、唯一の持っている包丁かもしれません。「肉・魚・野菜の3つを扱える」ことから付いた名前です。別名は「文化包丁」「万能包丁」です。

しかし、「万能」といったところで、本当に万能なのではなく、「肉でも野菜でも切ることはできる。うるさいことをいわなければ、一応は間に合うレベル」ではないでしょうか。

少しは凝った料理が作りたい人が三徳包丁しか持っていないことはないでしょう。まして、料理人ならば、扱う食材や切り方に合わせた専門包丁を何本も使っているはずです。

同様の中途はんぱなものに、「田舎のショッピングセンター」があります。「衣料品・台所用品・文具・家電など一通りの売り場はある。しかし、どれも品ぞろえが貧弱で、買えるものがない」

レンズの種類の中で、三徳包丁や田舎のショッピングセンターに当たるのが、標準ズームです。本気で写真撮影がうまくなりたい人が常用するレンズではありません。

標準ズームのなにが問題か

ここでいう「標準ズーム」は、広角側は24ミリ相当か28ミリ相当、望遠側は70ミリ相当か85ミリ相当までカバーするものを考えています。

単焦点レンズでカバーしようと思えば4本も5本も必要なのが、1本で済みます。

このお得感もあってか、どのメーカーも、初めてデジタル一眼レフやミラーレスを買う人向けに、カメラボディーとセットにして「標準ズームキット」として売っています。おそらく、実店舗に行けば、店員も「初めての人ならば、これが使いやすいし、十分ですよ」と強く勧めてくるでしょう。

しかし、実はこの「お得感」が曲者です。24ミリ相当・28ミリ相当の広角には広角なりの、70ミリ相当・85ミリ相当の中望遠は中望遠なりの、写り方と撮り方があります。さらには、50ミリ相当の標準まで含んでいて、これも同様です。それらの合間の焦点距離まであります。

おそらくは、標準ズームを使う人にすれば、「“倍率”が、変えられる便利なレンズ」ぐらいにしか考えないでしょう。「○ミリ相当なりの写り方と撮り方」など想像の外です。少なくとも、私の周りを見る限りではそうなっています。

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【picture↑↓ 24ミリ相当を使い、ほぼ同じ位置で撮った写真。広角レンズはパースペクティブ(遠近感)が強調されるために、少しの高さの違いでも印象が大きく変わる】

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かつて初心者が始めるレンズは、50ミリの単焦点だった

フィルムカメラのころ、初めて買う一眼レフと組み合わせるレンズは、単焦点の50ミリが定番でした。「肉眼で見えるのに近い画角をカバーする」という標準レンズです。

もちろん、撮れるものは限られています。しかし、「まずは、単焦点の標準レンズを使いこなす。標準レンズの限界もメリットも理解したところで、広角や望遠に進む」ものとされました。

これが、いつから標準ズームに置き換わったのかはわかりません。しかし、2000年ごろであれば、初めてカメラを買う知人に、「レンズは(単焦点の)標準だけでいいよ」と、私も話していた記憶があります。

初心者にこそ、おすすめな準広角・中望遠の単焦点2本

単焦点 copy

「50ミリ相当の単焦点1本で始めるのは、一見、回り道かもしれない。結局覚えるのが早い」と今でも思います。ただ、標準レンズは表現が素直すぎて、今後レンズを増やしたときに、出番が多くない可能性があります。

最近、私が初心者におすすめするレンズは、35ミリ相当の準広角と、70ミリ相当か85ミリ相当の中望遠の単焦点2本です。「ちょっと広角と、ちょっと望遠。ズームはなし」ということです。

実は、この「準広角・中望遠の単焦点2本」は、かつて私がいた全国紙写真部でも指導係になる人によっては、新人にはこれだけを使わせていた組み合わせです。これで街の風景もインタビュー写真も撮らせていました。

また、大学の写真学科でも、特に報道志望の学生には同じようにしていると聞いたこともあります。「本気で写真がうまくなりたい人が、最初にマスターすべきレンズ」なのです。

しかも、この2本は後にレンズを5本10本と増やしても、おそらくは手放せないものになります。「ちょっと広角と、ちょっと望遠」のために、写り方に癖がなく、使い勝手も悪くありません。冒頭の話に戻すと、「専門包丁」としても欠かせないものになる可能性は低くないと思えるのです。たとえば、単体の中望遠レンズは、「ポートレートレンズ」との別名があります。その別名の通り、人物写真の上半身・バストアップの撮影には、もっともオーソドックスなレンズです。

この話をすると、「レンズの交換がわずらわしい」と反応した人もいました。カメラボディーを2台持てばいいだけです。「荷物が増える」のデメリットがある半面、「どちらかが故障したら、そのときはレンズ交換しながら使える」というメリットもあります。特に仕事で写真を撮ることもある人ならば、この程度の“保険”は不可欠でしょう

すでに買ってしまった標準ズームも手放す必要はない

標準ズーム copy

すでに標準ズームを買ってしまった人もいるでしょう。なにしろ、「キット」として最初からボディーと組み合わせて売られているぐらいですから。

準広角・中望遠の単焦点を買っても、残しておきましょう。理由は次のとおりです。

・単焦点レンズが故障したときの予備になる。

・荷物を増やしたくなく、しかも、凝った撮り方はしないときには、やはり1本で済むのはありがたい。

・結婚式が典型だが、場面が次々に変わるときに、標準ズームはやはり便利。単焦点にこだわっていては、間に合わないことがある。

また、標準ズームをおすすめしない理由が、「○ミリ相当なりの写り方と撮り方(を覚えない)」だったことを思い出してください。準広角・中望遠の単焦点2本を使いこなせるようになった後ならば、この問題はほぼ解消しています。

おそらくは、同じだけカメラに触れる機会があっても、標準ズームだけを使い続けた場合と、準広角・中望遠の単焦点2本も知ってそのあとで標準ズームを使う場合とでは、撮る写真はまったく違っているはずです。

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