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習作 #7

美術室は校舎の中庭に面していて、一日の半分以上は日陰に甘んじる位置にある。窓のある壁には大型のシンクが設置されていて、乾かしたバケツや筆が雑然と置かれていた。窓から吹き込んだ風が室内を周り、排水の匂いを室内に広げる。

室内には4人掛けの机の「島」が12個配置されていて、下には真四角の椅子が収められている。机の表面はペンやカッターで傷ついていて、目を凝らすと相合傘や先生の名前といった、中傷ともいえない鉛筆跡が浮かんでくる。

黒板の隣にある扉は6畳ほどの小さな部屋に繋がる。「美術準備室」と名付けられた部屋ではあるが、授業の準備はほとんど行われない。コーヒーを飲んだり、配布するプリントを作ったり、別に部屋がなくても困らない程度の作業が執り行われる。本棚には、以前は教材になりそうな画集やスケッチ集が揃えられていたが、この間の年度末に処分してしまい、いまは奇妙な空白が鎮座している。2週間ぶりに準備室のドアを開けた私は、なぜか物に溢れる室内を見て不思議に思った。

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