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『NEVER TRUST ZOC 2021.2.8 NIPPON BUDOUKAN』

はじめに

まさか自分がアイドルのコンサートを見る日が来るとは思わなかった。
AKB48が流行りはじめたとき自分は高校生で、アイドル文化は自分と関係ないものだった。
「推し」や「コール」や「オタ芸」や「総選挙」や「握手会」や「卒業」や「秋元康」や「恋愛禁止」というトピックは、教室の真ん中で流通するもので、避けている節すらあった。

そんな自分が、配信とはいえ身銭を切ってチケットを買い、年下の女の子たちが踊り歌う姿を見て、不覚にも少し感動する日が来るのだから、つくづく人生というのはわからない。(と、年寄りくさくしみじみしていても仕方が無いので先に進む。)

「ZOC」とは

「ZOC」とはシンガーソングライターの大森靖子さんの、アイドル活動のことを指している。(と、個人的には思っている。)
もともと大森さんは「弾き語り」「バンドセット」の2種類でライブをしていたが、2018年にアイドルグループ「ZOC」を結成し、並行して活動するようになった。
自分は「弾き語り」「バンドセット」は好きで、ライブにも行ったことがあったが、元来のアイドル嫌いもあり「ZOC」はなんとなく敬遠していた。
(ライブを見ようと思ったのも、武道館ライブ内で弾き語りパートがあると知ったことがきっかけ。)

一応補足しておくと、「ZOC」は6人組で、大森さんの他に、初期メンバーが西井万里耶さん、藍染カレンさん、香椎かてぃさんの3人、そこにハロプロ出身の巫まろ(かんなぎまろ)さん、振付師からZOCに加入した雅雀り子(やちありこ)さんの新メンバー2人が加わった。
「ミスiD」出身者が多いこともあり、メンバーは個性的な一方で、集団行動は不向きなように見える。(それがネガティブなことだとは思わないが。)実際にメンバーの出入りは多いようで、この武道館公演も香椎さんの卒業公演だった。

ライブ

ステージは浮島型で、周囲を360°客席に取り囲まれている。ZOCのロゴの「O」の字を摸したらしい中央ステージを、円形のトラックが縁取っており、周囲を照明が囲む。
客席は人数が制限されており、暗闇を照らすペンライトはまばらで、曲間の拍手もまばらだった。

ライブで序盤では、ダンスが印象的だった。それぞれの個性が出ていて、かっこよさを発揮していた。
例えば、ハロプロ出身の巫まろさんは表情やダンスのクオリティが「完璧」で、プロの仕事を見ている気持ちになる。一方で、香椎かてぃさんの踊りは粗いのだけれど、抜き具合も含めて存在自体に色気がある。

特に気になったのは、新メンバーの雅雀り子さん。
踊りから「上手い」という言葉では片付けられない凄みが発散されている。「死神」のソロもすごくよかったけど、なんでもない明るい曲の、ありふれた振付のひとつひとつが、まるで語りかけてくるかのように胸に迫ってきて、すごく感動した。

曲でいえば、「FLY IN A DEEP RIBVER」という新曲が好きだった。
Aメロで「クソッ」という単語が連呼される、重苦しいビートと低いメロディが印象的。
胸の底から憎悪を吐き出すような一曲で、歌唱力のある巫まろさんが低音を苦しそうに歌う姿は、日常の息苦しさを象徴しているようにも見える。雅雀り子さんの取り憑かれたようなダンスもすごい。

以前、大森さんが何かのインタビューで、なぜ暗い曲ばかり歌うのかと問われ、「現実が悲惨だから、まっとうに現実を悲しんでいるだけだ」という旨の発言をしていた。
(出典を調べたが出てこなかったのがとても申し訳ない)

「FLY IN A DEEP RIBVER」という曲からは、「悲惨さを描ききる覚悟」が感じられる。メンバー全員がそれぞれの表現で醜さを吐き出していて、思わず圧倒されてしまった。

弾き語りパートでは、こちらも新曲の「Rude」が感動的だった。
YouTube「街録ch」でレコーディング風景が公開されていて、音源化を心待ちにしていた一曲だったが、武道館で披露されるとは思っていなかった。

「自殺なんてないのさ/誰が君を殺した」
「猛る 猛る 猛る/心を殺すことはrude」
「僕の最強の愛注ぐグラス/割れた理由知ること」


大森さんの楽曲群の中でも歌詞の純度が高い。社会の中で自分の存在を守ること・大切にするために闘うこと、という主題が切実に歌われている。
未来の希望などまったくない、あきらかにおかしいこの時代のために歌われている一曲で、何年経っても聴き続けることになる曲だと思った。

最後に

こうして初めて見たアイドルライブの感想をつらつらと書いてみたのだが、改めて読み返すとどうにもおじさん臭い。いや、童貞臭い、かも。
常連さんには当たり前のことを書いているように思えて恐れ多い、そこはご容赦いただきたい。

性格上どっぷりハマるということは無いはずだが、今後現場に行くことも全然ありそう。今後どのようなことになっても、優しく、くれぐれも優しく、見守ってもらえるとありがたいのだけれど。

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