見出し画像

習作 #6

後者の前を通る道路は交通量が多く、敷地に沿って曲がる緩やかなカーブからは常に騒音が届く。生徒達はいま二限の授業中のはずだが、遅れて登校してきた知らない生徒が校門から歩いてくるのを、私は社会科準備室のベランダから眺めていた。私立の中学校は生徒の風紀水準が高いものの、それでも一定数の生徒は窮屈さから距離をとるように小さな非行を働く。彼ら自身の中で辻褄をあわせるために、化粧や煙草という道具が召喚される。準備室の棚には没収されたメイク道具やゲーム機が並んでいて、その一角だけがちゃちな雰囲気だ。授業を終えて戻ってくると位置が変わっていることがあるので、先生方はみな無関心を装いつつも一人の時間に触っているようだった。非常勤の教員というのは学校では端役であり、生徒と青春の時間を共有しているという感覚はまったくない。先生もいろいろいて、充実した学生生活を経験してきたタイプもいれば、単に仕事としか思っていないであろう根暗もいた。なぜか社会科は青春のノリが好きな者が多く、初老の学年主任は裏で煙たがられていた。

成績付けも一段落着いたので敷地外の喫煙所に行くと、隅でカタツムリが干からびていた。道路からひときわ大きい排気音が響いて、足元が少しだけ揺れた。私は濡れた土を足で集めて、線香に見立てて煙草を供えた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?