見出し画像

税(小説)

春は花見で、終業後に代々木公園まで足を伸ばして酒を飲む。形式上は任意参加だが、いつも支社の全員が参加する。盛り上がるわけでもなく、親睦が深まる様子もない。けれども毎年必ず開催され、人が集まる。かくいう加奈子も毎年準備を手伝う。

「税のようなものかもしれない」と、同期入社のいまは管理部で係長をしている磯部が言った。傷んだブルーシートを新調しようと二人で買い出しに出かけた帰りだった。
「税?」
「うん。お布施だとなんだかセコい感じがするでしょ。」
「でもうちの花見って、なんていうか地味だよね。」
「みんな淡々とビール飲んで、さっさと帰るから、毎年続くんだと思うよ。それぞれに矜持があるから。」

今年は新卒が男の子と女の子一人ずつ入社して、加奈子と三人で場所とりをした。トランプをしているうちに夜が来て、配達された酒を受け取る頃には人が集まり始めた。各々が缶ビールをあけ、黙々と酔っていった。くしゅんと誰かのくしゃみが鳴って、枝が微かに揺れた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?