見出し画像

撮(小説)

高校に通っていたころ、私は誰にも写真を撮ることを許していなかった。それは信念というよりもアレルギーに近かった。写真に撮られるような私を認める訳にはいかない。そんな風になってしまうなら、いなくなったほうがましだと思っていた。

クラス無いで互いに撮りあう写真から逃れるのは簡単で、気配を消してそっと画角から離れるだけでよかった。幸い私には熱心に写真を撮りたがる友人はいなかった。学校公式のものとして撮られる集合写真では、シャッターの切られる直前にそっと身をかがめた。並び順さえ工夫すれば、隠れるのは難しいことではなかった。

唯一逃れられなかったのは卒業アルバムの個人写真で、2度は撮影を欠席したけれど、わざわざ私のためだけにカメラマンがやってきて、ついに観念した。卒業アルバムに映るのは、正気を失って正面を見つめるその一枚のみだった。

ただ、3年間の間に撮られた写真はもう一枚だけある。あの日の私は、まるで自分ではないようだった。いくら厳重に記憶に蓋をしても、あの瞬間のことをときどき思い出す。(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?