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【自由研究】2023/3/5:第3節 水戸×岡山

水戸と岡山。遠く離れているが共通点は多く、日本三名園(水戸・偕楽園、岡山・後楽園)で並び立ったり、江戸時代初期の三名君(水戸・徳川光圀、岡山・池田光政)で並び立ったり。そして現代では、J2リーグから一度も昇降格を経験せず在籍を続ける2クラブとしても並び立っている。

・水戸ホーリーホック(23年連続23回目)
・ファジアーノ岡山(14年連続14回目)


Jリーグの世界に飛び込んで以来、一度もJ2リーグの世界から飛び出したことのない両クラブの対決。今やJ2伝統の一戦といっても過言ではなさそうな雰囲気もあるが、しかし互いに「いつまでもこんなところに居るわけにはいかない」と、空の向こうへ辿り着くべく、雲を突き破らんとしている。

こんな両チームの対戦だから、毎年難しい戦いになっている。とくに岡山は過去、アウェー水戸での試合に大いに苦しめられてきた。勝ち試合にしても土壇場での劇的展開。苦しい経験しかない。

今年こそはスカッと勝って、笑って帰るぞ!!と、言いたいところではあったのですが、、、。

まずは結果から(キムタカ待望のゴール)


#19木村 太哉(キムタカ)に待望のゴールが生まれた。昨シーズンのJ2第9節・アウェー山形戦以来のゴール。あの時と同じような、普段はドリブルで鳴らす彼が頭でねじ込むという泥臭いゴールでありました。

また、ゴールに至るまでのプロセスもよく、イグォンが納め、河野がクロスを上げ、ソロモンがそらし、相手守備陣にノーチャンスの状況を作って最後にキムタカが押し込むという。前半、なかなか来なかったチャンスをひとつ、最良の形でモノにして、岡山が頭ひとつ抜きん出ることに成功した。

しかし、後半立ち上がりに失点を喫してしまい、イーブンに戻されると、そこからは水戸の圧力やロジカルな攻撃の前に後手を踏む展開が多くなった。岡山としては、まともに前進することもままならない時間帯も生じるなど、非常に苦しい戦いを強いられることとなった。

選手交代などで盛り返すも、岡山は「致命的な一撃」は繰り出すことができず。逆に水戸には、一歩間違えると致命的というシーンは作られたものの、なんとか耐え抜きゴールを割らせるまでには至らず。結果は前節と同じく、ドロー。


雑感①:ソロモンの立ち位置はなぜ低い?


筆者がけっこう気にしているのが、期待のストライカー、#18櫻川 ソロモンがなかなかゴールに絡めていない点です。ゴールから遠い場所でのプレーが多くなってしまっているのではないかと。

前半終了時平均ポジション 黄色:櫻川ソロモン
左から1,2,3節

図は、1節〜3節における彼の平均ポジション(前半終了時点)の図を並べてみたものです。各試合の前半のみという点は考慮が必要ですが(後半通じた平均ポジション図は表示されてないので)、1節に比べると2・3節は低いポジションとなっていることがわかります。

考えられるのはボールを受けに降りることが多い、という点でしょうか。

2節・清水戦も3節・水戸戦も、前半の岡山はやや自陣地に押し込まれる時間帯が多くなりました。押し込まれる→ 守備の選手たちの立ち位置が後ろに下がるということでもあり、そのような状態で前線のソロモンたちが前に居続けるのは「中盤が間延びする」ということであまり好ましくない。

加えて、今季のファジアーノの戦い方として「サイドを使い」「パスを刻む」という意向が強く感じられ、ロングボールには容易に頼らないという取り組みをしている(個人見解)。

みんな後ろに下がってるとパスを中継する人数が足りなくなってくるので、その役割をソロモンが担っているようにも見えます。

1節(開幕戦)で、その役割をしっかり果たしていたのが#48坂本 一彩であったと思います。彼はそのセンス・ポテンシャルを存分に発揮し、自分もゴールを挙げるうえに前と後ろの繋ぎもこなすという働きを見せました。その中でソロモンは、前後の繋ぎをある程度坂本に任せてトップの位置に張ることができていたと思います。

1節:磐田戦のワンシーン(再掲) 赤丸のところに坂本

一方、2・3節では坂本がおらず、ソロモンと#9ハンイグォンによるコンビで臨むという形となりました。イグォンはどちらかというとドリブル・スピードで切り裂くようなプレーが魅力の選手。ソロモンが競って落とし、イグォンやキムタカが運ぶという図式を想定していたのかもしれません。

ただし、なかなかその図式どおりに行っていたとは言えないのが現実。才能あふれる大型フォワードを対戦相手が自由にしてくれるはずがなく、ソロモンひとりに対して常に何人かがマークについている。また、ソロモンに収まったとしても、ソロモンがボールを逃す相手がなかなかいない…ソロモンがかけてる労力と、その対価があんまり釣り合っていないというのは観ていて感じられます。

じゃあ「周りの選手が悪いのか」というと、そんなことないです(安易に誰かをサゲようとするのがあんまり好きではない)。どの選手だって役割はまっとうしている。イグォンだって、自分の得意なスタイルで何とかボールを運ぼうとしてくれているし、今季は運んだ先で周りの選手を使おうという意図も見られます。

ようは、他のレビュアーさんもよく指摘されていますが「組み合わせ」の問題であろうと思われます。ホントなら手札がたくさんあって、いろんなコンボが使えたはずなのに、わけあって切れる手札が少なくなった。しかもコンボ技発動できる組み合わせが少ない…みたいなのが、ただいまのファジアーノの状態だと言えそうです。

雑感②:仙波の受ける動き


岡山は前半終了間際にキムタカのゴールで先制に成功したが、後半開始すぐに失点してしまいました。そこから暫くの間、岡山はドタバタを強いられます。

<簡単な要因>
・絶えず流れ込んでくる水戸の青い軍団
・ムリして繋ごうとして奪われ手詰まりに
・押し込まれてラインも下がる悪循環

水戸の攻勢をあっきらかに嫌がる岡山に対して、水戸はパワフルさと献身性で攻撃を引っ張った#9安藤選手から、一瞬のスピードでケリをつけられる#38唐山選手へリレーし、岡山をさらなる混乱に陥れようとしていた。真綿で首を絞めるような戦い方に岡山は苦しみ、70分台手前まではほとんど水戸の時間帯に。

そんな岡山にとっての悪循環は70分、#44仙波 大志の投入によって漸く止められたような気がします。

前節の仙波も、ムークからバトンを受ける形で投入されましたが、ムークに引けを取らぬ強度の高いプレーとハードワークを実践し、いくつかのチャンスメイクにも加わるなど活躍しました。

今節も同じ起用法となりました(※70分 #8ステファン ムーク → 仙波)が、そのスタイルは変わらず、加えて積極的に「受ける動き」を見せながら、チームを落ち着かせる役割を果たしていたように映りました。

相手選手の間(スペース)をみつけて、受けに行く

主に中盤で味方がボールを持っている時に於いて、ボールホルダの近くにフリーなスペースを見つけてはそこに入り込み、「パス受けるよ〜!」という動きを繰り返していた。特にサイドの選手がボールを持った時に近寄り、ボールの逃しどころとなるように動いていました。

岡山としては、こうした動きを織り交ぜながらちょっとずつボールを中盤で持てるようになり、押し込まれていたプレーエリアを徐々に盛り返していけるようになりました。

80分、最大のチャンスシーン(木村がドリブルからクロス(①)、ソロモンが落として仙波へ(②)、仙波がドリブルで進入(③)、仙波が強いクロス(④)…イグォンわずかに合わず)

▲ボール受けとハードワークを繰り返していた仙波自身にも、80分に最大の見せ場が訪れ、あわやゴールというプレーを見せることができました(相手ペナルティーエリア内に入りグラウンダーのクロス→中の選手がわずかにタイミング合わず、ゴールにはならず)。

ムーク・仙波の併用という声も挙がっていますが、確かにそれは見てみたい。

雑感③:輪笠の好守、光る


この試合で文字どおり大車輪の働きを見せていたのが#6輪笠 祐士です。筆者の今季推しメンです。

今季は激化する競争の中で、定位置取れるかな…なんて要らぬ心配をしていましたが、文字どおりの要らぬ心配でした。今のファジアーノの戦術を鑑みると、中盤の底・アンカーを全権委任できるのは、彼しかいないなと思っています。今の戦術下で、ここの定位置を輪笠から奪取してやろうというのは、相当に高いハードルではないでしょうか。

今節も、中盤の底でフィルター役になり、要所要所で身体を張り、ピンチの芽を幾つか切り取りました。そして、後半のプレーには、鬼気迫るものさえ感じられました。

輪笠が裏抜けする!

▲75分。どうにかして相手ゴールに近づきたい岡山だが、水戸も守備の選手を揃えて壁を作り、簡単にはやらせない。そんな中で輪笠が、相手守備最終ラインの裏に抜ける動きを見せた。察知した#2高木 友也が裏へループのパスを送る。

→パスは惜しくも通らず、再びボールは水戸に渡る。水戸はサイドの選手(#14小原選手など)を使ったカウンター攻撃に移行。

そこから下の図の状態となります。

最前線から一気に戻ってくる!

▲前線にいた輪笠が、全力疾走で一気に中盤まで戻ってきた。水戸は#14小原選手がドリブルで運んでいたところだったが、タッチが大きくなったところの隙を突いて、前線から戻ってきた輪笠がボールを回収した。

前線で裏抜けした分、必然的に自分のポジションを空けることになる。輪笠がダッシュで戻ってきたのはその埋め合わせのためとも思いますが、実際のところこのプレーの意味合いは割と大きかったはず。水戸攻撃陣をあのままにしていたら恐らくそのまま前進を続け、岡山に対する脅威となっていたことだろうと思われます。

この試合において、彼にはこういうプレーがいくつかあり、彼自身が表情をオーバーに出すことはあまりないものの、その内に秘めた闘志をひしひしと感じられるシーンになりました。

水戸の猛攻をもろに受け、色々問題点が浮き彫りとなった岡山でしたが、輪笠をはじめとした身体を張った守備によって、どうにか最小失点に食い止めるに至りました。

総括:新戦術の難しさを感じた一戦に


前回記事で、岡山の攻撃スタイルはおもしろいぞ!という主張をしました。近い距離感で人を絡めながら、連動してゴールに向かっていくというコンセプトが感じられたからです。

一方、この攻撃スタイルはとてもロジカルな作りになっていると筆者は思っており、絡む選手同士でつねに同じ絵を描けることが必要になってくるとも思っています。

走る方向、パスを出す方向、スピード、距離感…といった様々なベクトルが噛み合っていなければ、スムーズな攻撃が成り立たないことも事実。今節はどちらかというと、その「難しさ」が表面化した試合ともなりました(注:ピッチコンディションなども考慮する必要はあり)。

雑感①の項でも少し触れていますが、現在のファジアーノは使える手札とその組み合わせの事情により、発揮できる効果が限られている状態にあります。その手札のどれもが皆、等しく「勝点3」に向いていることは間違いないですが、今の戦術で各自のアプローチを勝利につなげるために、いろいろ調整をしていかないといけない感はあります。

正直言って予想外、という状況に立たされていることは想像に難くない。まだ序盤戦、されど序盤戦。序盤戦に勝ち点を稼げなかったのが間接的にシーズン終了時の着地点に影響した…というのは、昨季から見てきた皆様であればすぐにわかる。クラブだってわかってるはず(だからルカオの緊急補強などがあった)。

どうする岡山

もちろん、コンディション不良のメンバーの復帰であったり、世代別代表に参加中の坂本・佐野の復帰であったり、そういったことが最大の補強になることは間違いないでしょう。ただ筆者としては、この厳しい状況であるからこそ、今いるメンバーでなんとかして「勝点3」を一つ取ってほしい

3/12はホーム2戦目の金沢戦となります。現在最下位ですけど、昨年のアウェー金沢戦が想起されるように、なかなかに嫌な相手です。

それでも、今いるメンバーで、今季ホーム初勝利を目指して。スタジアムやDAZNで応援いただければと思います。

(了)


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