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【山梨ワーケーションツアー体験記】自治体が主催のワーケーションってどんな感じ?を徹底解剖(後編)

ワーケーション体験記は今では珍しくないが、映える写真とワークスペースの紹介がほとんどだ。
なのでこの体験記では、日本型ワーケーションの原点、行政主導型ワーケーションの最新事例について、実際に山梨県のワーケーション事業を体験してきたので「前編」「後編」に分けて紹介する。

この記事はこんな人向けの記事です。

  • 自治体が主催するワーケーションツアーの参加を検討している企業担当者

  • 企業参加型ワーケーションツアーの様子を知りたい自治体担当者

  • 企業参加型ワーケーションツアーに興味がある人

  • 山梨県のワーケーションや面白い地元企業に興味がある人

ここから後編スタートです。

前編はこちらから↓

後編

DAY1(午後) 甲府〜富士吉田

企業訪問①ヴィジョナリーパワー株式会社 代表取締役 戸田達昭氏 地域イノベーションの創り方

DAY1の午後は甲府の企業2社の訪問を予定している。
まず1社目はヴィジョナリーパワー株式会社を訪問した。

「イノベーションベースSoie」はセミナールームとジムが隣接

創業報県(=起業・創業を活性化させて⼭梨県に報
いる)」をスローガンとし、新規事業に取り組む
事業者への投資や、⽂化・福祉領域に対する公共的
な投資、⼭梨県で起業・創業を⽬指すためのビジネ
スプランコンテスト「Mt.Fuji イノベーションキャ
ンプ」の運営も⾏われています。

山梨県資料より

ヴィジョナリーパワー代表の戸田さんは事業家としてだけでなく、投資家、起業・創業支援、教育者など様々な活動をしている。
ヴィジョナリーパワー社自体は山梨県内で電力供給を行う地域新電力の会社だが、その他に役員を含め17社の経営に携わっている。

戸田さんは山梨初の学生ベンチャーとして起業してからシリアルアントレプレナーとしていくつもの事業を創ってきているが、最近では産学官民協働による地域づくりに注力をしていて、高校生・大学生向け起業家プログラムや、ビジネスプランコンテスト「Mt.Fujiイノベーション キャンプ」を運営。
一貫して事業の創造を通じた山梨県の活性化に取り組んでいるのが特徴だ。

我々が訪問したセミナールームがある「イノベーションベースSoie(ソワ)」は、山梨大学から徒歩3分の場所にあり、シェアオフィスだけでなく、カフェやジム、大浴場などもある「まち」のようなコミュニティオフィスだ。
戸田さんも今年の4月に甲府駅前からオフィス移転してきたのだという。

「もともとこの場所は、県の基幹産業だった養蚕業で使われていたんですよね。でも県の産業が養蚕業から果樹栽培に移り変わっていく中で、必要とされなくなってしまった。また新たにここからたくさんの企業が育ち、山梨を盛り上げるために、起業を目指す者が集まり起業家が生まれる場所としてイノベーションベースSoieは生まれたんです」
と戸田さんはイノベーションベースSoieのストーリーを教えてくれた。

Soieはフランス語で絹の意味である。
この場所から多くの起業家が育つようにと、環境をどんどんアップデートしながら周辺地域を巻き込んだエコシステムのようなものも出来ようとしていた。

「学生アパートもあるので大学生も使う。GYM、太鼓、お風呂と、必要に応じてみんなでどんどん作っていった。ピザ窯まである笑。
アカデミーも作ったし、北口にはTV局、武田の交差点の山梨銀行にはコワーキングもある。イノベーションのエコシステムがどんどん出来上がっている。甲府のイノベーションの北限はここなんですよ。南の端はCROSS BEですね」

戸田さんは投資家としての顔も持つ。
そこで参加者からは投資の判断は何が決め手かという質問が出た。

「初見で決まりますね。自分の直感を信じる。あと楽しいかどうかかな。
ファイナンスすることは家族になること。一緒にやっていきたいと思えるかどうかだと思います」
と戸田さんは屈託なく笑いながら答えた。

また、戸田さんはものすごい熱量で山梨を担う人材育成に力を入れている。

「高校生から育てないといけない。Y-NEXTという高校生・大学生向け起業家プログラムをやっている。社会人向けにはビジネスプランコンテストのMt.Fujiイノベーションキャンプ(通称イノキャン)。Y-NEXTでアイデア創出や育成をして、イノキャンでインキュベーションを支援する。自分が投資した会社は1社もつぶれてないんですよ」

戸田さんが関わった企業は生存率100%という驚異の成功率に、その秘訣を問うと、エコシステムがしっかりしているからだと言う。

「産官民学で組むことを常に意識してやってきました。アメリカではまず課題が先にあり、次に金を出す人が財団を作り、最後にやる人が増える。でも日本はその逆。課題を解決しようとする人がいて、その人が頑張ってお金を集めないといけないので苦労する」

戸田さんは自身も投資家としてお金の出し手であるし、Mt.Fujiイノベーションキャンプには地元の金融機関も参加している。金融や地域メディアを含むスタートアップキットを用意しているのだ。

僕は4年ほど前にMt.Fujiイノベーションキャンプに応援企業側として参加したことがあり(応援企業は挑戦企業のメンタリングや審査をする)、よくあるビジネスプランコンテストとは全然違う、その場にいる参加者全員の圧倒的な熱量に驚いたことがある。
なぜ山梨にこんなにイノベーターが集まるのかと不思議に思ったのだ。

そこで僕は戸田さんにイノベーターはどうやって作るのか、と聞いてみた。

自らやる、やっていることを見せるのが大事です。熱量をみせるんですね。それで反応する人は自分から動き出す。それと成功体験を小さく積み上げていくことですね。僕はもう販売の手伝いまでやっちゃう。スマートアップにとって一番嬉しいのは売り上げですから。その会社の商品をまとめて買っちゃって、頑張って売り捌いたこともある」

やりたいことをやるのが一番良い。綺麗なビジネスモデルを持ってきたらぶちこわす笑。命がけでやれるかどうかなので」

また戸田さんは、行政の巻き込み方についてもこれまでの自分の経験を振り返り、どうすれば再現性のある入り込み方が出来るかについて話してくれた。

「自分が初めて行政と関わったのは、学生ベンチャー時代に観光部と。直球勝負でぶつかっていった。ずっとそうしてやってきている。折れない。やらない理由はなぜなのかと突き詰めますね。あと群れ合いをしないのも行政側からすると付き合いやすいのでは。コミュニティには全然入ってないので」

民間が自分達でやる、というのが一番いい。行政と組みたい人たちは、県でやってくれというのが多いんだけど、お金出して、と言っても県もお金がないので。予算もすぐには出ないですよね。1年後とかになっちゃう。気が付いた時に出来ない。それよりもまず、先にやってしまって背中を見せるのがいい。先に汗をかく。フリーWi-Fi整備のプロジェクトもそうやってNTT東日本と組んで先に結果を見せたからうまく進んだんです」

山梨を活性化する人材を事業を創ることで育成する。そのために産官学がタッグを組みサステナブルなエコシステムを形成する。
東京ではなかなか難しい一体感を、地域全体で醸成する仕掛け作りをしていることが、地方の活性化を考える上でのヒントになるのかもしれない。

ちなみに戸田さんはやまなし大使にも任命されていて、
「山梨から出て行かないように、ということだと思います」と笑っていたが、まだまだ山梨から日本を、世界を面白くする仕掛けを繰り出していくに違いない。

企業訪問②キャップクラウド株式会社 代表取締役 萱沼 徹氏 地方サテライトオフィスの経営メリット

2件目の訪問先企業は「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」という事業を展開し、自社も先進的な働き方を実践しているキャップクラウド株式会社だ。

キャップクラウド社が運営するコワーキングスペース

「働き⽅、パーソナライズ」を掲げ、⾃分らしい働き⽅を選択できる社会にするため、多様な働き⽅に対応できる環境を整備するためのITツールやワー
クスペースの提供をしている会社です。
本社は東京ですが、富⼠吉⽥市にサテライトオフィスを作り、社員⾃らが多様な働き⽅を体現されています。

山梨県資料より

バスで富士吉田市に移動し、富士山駅直結の商業施設にテナントとして入っているコワーキングスペース兼同社のサテライトオフィス「ドットワークPlus」で話を伺った。

まずは、キャップクラウドでドットワークPlusのコミュニティマネージャーも務める渡邊さんが、同社の事業の説明をする。

「弊社が取り組んでいる富士吉田市まるごとサテライトオフィスは、日常型ワーケーションが実践できる環境を提供しています」

バケーションのおまけとしてのワーケーションではなく、平日の業務時間内に旅先で仕事をする働き方が増えていると渡邊さんは言う。

そして仕事がメインのワーケーションをする人を惹きつけるには、地域の入り口として市民と交流しやすい場所があることと、しっかりリモートワークができる環境があることが重要だ、と。

「ドットワークPlusというコミュニケーションハブを作り、これまで300名以上の市外から来た人を、市内に住む人とつなげてきました。コミュニティマネージャーが常駐して人と人とをつなぐ。市内には40箇所以上のリモートワークができる提携店があり場所と場所もつないでいます」

続いて、同社の代表取締役である萱沼社長が自社で推進している先進的な働き方の取り組みについて紹介した。

キャップクラウドの萱沼社長

「本社は渋谷から永田町のシェアオフィスに引っ越してスペースを1/7にした。働き方、パーソナライズというものを企業理念としているので、自社の働く時間、場所も自由化した」

本社、富士吉田オフィス、自宅、anyplace拠点※、従業員が自己申告で利用できる自宅近くのコワーキングスペース、と言った5種類の場所を自由に選択して働くことができる
※anyplace・・・全国の色々な場所のワークスペース化を事業として手掛けている

僕も企業向けに全国のワークプレイスを提供するdroppinというサービスを提供しているので企業の働く場所についての事情は分かるが、キャップクラウド社はかなり従業員フレンドリーだと思う。

これほどまでにテレワークが当たり前になっても、大半の企業は自社のオフィスか従業員の自宅しか勤務地として認めていない
その他にはせいぜい、自社が指定するサテライトオフィスが利用できるくらいだろう。

従業員が自分の働く場所を選べるようになっている会社はまだまだ少ないのが現状だ。

オフィス賃料が一人あたり月3万円くらいとした時に、3万円までならオフィス以外の場所代としてもペイすると考えることができる。月3万円というのは営業日換算すると1日あたり1500円なので、地方のコワーキングスペースなら実現可能だ」

出社する社員とリモートワークをする人間の公平性の質問もよくされるが、平等ではなく、基準として公平であれば良いと考えている。平等にするのは無理だが、ルールを決めて遵守するのは可能だ。当社はサードプレイスオフィスの費用や交通費を含めて月2万円までは会社補助をしている」

コストや公平性を気にしてサードプレイスオフィスの導入に踏みきれない企業は多いが、
キャップクラウド社は、従業員が自宅近くのコワーキングスペースを利用できる仕組みをすでに整備されていてとても素晴らしいと思う。

萱沼社長は、富士吉田にサテライトオフィスを開設した経営視点でのメリットについても教えてくれた。

「まず採用が圧倒的にしやすい。渋谷で求人を出してもレッドオーシャンで露出できない。でも富士吉田×リモートワークだと見つけてくれる

同社が採用した人数は、Uターンなどの現地採用も含め18名にも上るという。これはすごい数だ。

東京からアクセスしやすい場所というのもメリット。何かあったら東京にいける。それに渋谷と比べて富士吉田はオフィス賃料がかなり安い

従業員が自由に働く場所や時間を選択できる働き方の制度を導入したことで、コミュニケーションロスは発生していないのだろうか?

参加者のその質問については、コミュニケーションロスは確かに存在するが、ある程度少なくしてメリットの方を大きくすることの方が重要だ、と萱沼さんは回答していた。

僕もそのとおりだと思う。
実際僕も自社のオフィスには月に1度程度しか出社しないし、全体のテレワーク率も85%くらいの会社で働いている。
それでもチャットやオンライン会議を使うことで普段のコミュニケーションは十分間に合っているし、必要な時だけ集まって対面でコミュニケーションを取ればいい

マイナス面は致命的にならないように対策をしておき、プラスの面でカバーすればいいのだ。

最後に、移住組でありanyplace事業の責任者をされている鈴木さんからリアルな移住体験談を聞いた後、そのままドットワークPlusの会場でアルコール無しのフリーな交流会を行ってDAY1のプログラムは全て終了した。

つながりを作る意見交換会の作り方

ところで自治体ワーケーションツアーの目的は前編でも書いたとおり、以下の3点だ。

  1. 関係人口創出を目的としたワーケーション体験のモデルツアー

  2. 事業創出を目的とした人材交流や地域課題の発見・体験ツアー

  3. 企業移転やサテライトオフィスの誘致を目的とした人材交流・体験ツアー

山梨県が主催する今回のワーケーションツアーはこのうちの3つ目を主な目的としているが、企画・運営を受託するパソナJOB HUBはこれを実現するために「山梨で事業開発や多様な働き方に関するアイデアを見つける」「会社や事業を通じて山梨での今後の活動を検討する」という企業訪問プログラムを組み込んだ。

アイデアを見つけるために、地域で活躍する企業の経営者に話をしてもらい、今後の活動を検討するために意見交換会をセットしている。

山梨県の資料より

山梨県事業者のビジョンや事業の取り組みについてインプットを受けたあと、必ずその場で参加者から関わりしろの提案をするように促し、事業者の代表と意見交換を直接するのだ。

このプログラム設計はシンプルだけれど短時間で事業者同士をつなぐのにとても有効な工夫点だ。

よくワーケーションツアーは視察や見学をした後、地域事業者が一方的に話をして、関係性はその場で終わってしまうことが多いので、ワーケーションツアーを企画する際は、ぜひこの最後の関わりしろを作る時間を意識して作るようにすると良いと思う。

今回の山梨県ワーケーションツアーでは13名が参加していた。
企業訪問の時間が1回あたり1時間〜1時間半程度だったので、質問したのは時間の関係でだいたい5人前後だった。13人だと2〜3人に1人が発言をした割合になる。

ツアー目的としては全員が発言する機会があった方がいいので、そう考えると企業訪問の時間をもっと多めに取るか、参加者の人数はもう少し少なくても良かったのかもしれない。

二次交通と多幸感

宿泊地MEGU FUJI

ワーケーションの課題のひとつとして、駅や空港から観光地までの距離が遠かったり交通手段が少ない、二次交通の問題がある

特に、観光では移動自体が目的にもなるが、WORKメインのワーケーションでは移動は手段に過ぎないのでなるべくスムーズで効率的な交通手段が求められる

その点で、今回のツアーでは拠点間は全て貸切バスで移動したので特に不便を感じることはなかった。

宿泊先のホテルMEGU FUJIについても、ドットワークPlusが入っている富士山駅から徒歩1分の場所にあるので意見交換会のあとすぐに辿り着くことが出来た。

しかもホテルの屋上からは富士山が見える。
特にアクティビティや観光というわけではないが、1日の終わりの、ちょっとしたご褒美だった。

富士山は季節的に雪のお化粧はしていなかったけれど、誰もが知るあの勇姿をじっくり堪能することができて、ウェルビーイングを感じる粋な宿泊先ホテルの選定だったように思う。

ホテル屋上からの眺め

DAY2(午前) 富士吉田

富士吉田市まるごとサテライトオフィスで各自リモートワーク

2日目の午前は、各自富士吉田市まるごとサテライトオフィスの提携店でリモートワークを行う。

宿泊先のMEGU FUJIも1Fのカフェラウンジがまるごとサテライトオフィスの対象スペースになっていて、僕はそのままホテルでリモートワークをしたけれど他の参加者は思い思いに近くの提携店などを利用したようだった。

MEGU FUJIのワークスペース
カウンターテーブルには電源が設置されている

富士吉田市まるごとサテライトオフィスは、40箇所以上の提携店をワークスペースとして利用できるサービスだ。
利用店舗をWEBで検索し、利用時にはアプリを使って店舗現地でチェックインをする。

検索してみたところ、富士山駅の徒歩圏内で利用ができる本格的なコワーキングスペースはドットワークPlusだけのようだったが、FUJI MEGUのようなホテル内のワークスペースも複数箇所あり、気分転換をしながら利用することができる。

富士急ハイランドも!

ちなみにFUJI MEGUは客室の中にも作業机があり、宿泊客は部屋でも仕事がしやすい。

よく観光地のホテルだと客室に作業机がなかったり、あってもローテーブルでPC作業が難しかったりして困ることがある。ワーケーション先のホテルを選ぶ際には気をつけたい。

僕はチェックアウトの時間までは自分の部屋で作業とオンライン会議をして、チェックアウトしてからは1Fのカフェラウンジで仕事をした。

ホテルのチェックアウト時間と次の予定(集合時間や電車の時間など) までの間の隙間時間に利用できるワークスペースがあるかどうか、はワーケーションの過ごし方を決める上で重要なポイントである。

FUJI MEGUの客室作業机

DAY2(午後) 甲州市

企業訪問②株式会社塩山製作所 代表取締役 松坂 浩志氏 ワイナリー新規事業への挑戦

半導体工場からワイナリーへ

午後はワインで有名な甲州市勝沼にある勝沼ぶどうの丘でランチをとった後、株式会社塩山製作所を訪問した。

甲州市の半導体製造所が新規事業として、半導体⼯場を活⽤したワイナリー事業を⾏っています。
かつて世界を圧巻した⽇本の半導体技術を、ワイン造りに蘇らせ、再び世界を⽬指しています。

山梨県資料より
かつては半導体製造所だった土地にブドウ畑が広がる

塩山製作所の代表取締役であり半導体製造工場から新規事業としてワイナリーを立ち上げた松坂社長に話を聞いた。

「これからは、これだけをやりますっていうのでは絶対だめだ。ひとつにしぼるのはリスク」

と松坂社長は半導体事業からは全くの飛び地だったワイン事業の必要性を語る。

塩山製作所の本業は半導体製造加工であり、勝沼の工場をワイナリーMGVs(マグヴィス)として2017年4月にオープンしている。
ワイン事業を新規事業として選んだ理由は2つあると言う。

「半導体事業は変化のサイクルが短くて経営が安定しないのが一番の理由だ。2000年頃は通信関係の半導体が急成長していた。でもITバブルとその崩壊やエンロン事件の時など発注が急激に増えたり無くなったりした。経営が安定せず、リストラを繰り返した。スパンが長いものをやりたかった

松坂社長

そこでもう一つの理由として、松坂社長はワインが好きだったことも挙げる。

「それと、もともと実家が明治時代から続くブドウ農家で、自分がブドウ畑を引き継いでもう4代目だ。半導体は何代も続かないが、ぶどうは続いている。自分もワインが好きだった。それを社員はみんな知っていたから、自分がワイン事業をやると言い出した時も、大きな違和感は無かった」

とはいえ半導体製造とは全く畑の違うワイン事業に進出する、ということに成功の確信はあったのだろうか?

「確信はなかった。でも事業というのは霧の中を歩くのと同じで、一歩踏み出してみないと分からない。ただし1歩踏み出すことで10m先が見えるようになる。うまくいっているかどうかは未だに分からない」

一番難しいのはマーケティングだという。

「マーケットをつくることが一番難しい。半導体は下請けなので自社ブランドというものは無い。受注活動だけをやればいい。でもワイナリーは販売力と同時にマーケットを構築しないといけない。ワイン事業は海外をメインターゲットにしている。日本はガラパゴスで協力がなかなか進まないが、敵は隣の人ではない。一緒になって海外に売り込まないと」

ではどうすれば海外に勝てるのか?

「フランスに勝つ必要はない。個性が大事。個性は特徴になる。
日本ワインは何を大事にするのか。例えば日本ワインは低アルコールなので、健康イメージにつながっている。低アルコールのほうが若い人に人気がある。そういった個性をはっきりしないといけない。個性がブランドになっていく。それを徹底的にローカルにやる。グローバルを目指すより、ローカルに徹することでグローバルで勝負できる

「ワインは産地も重要だ。そして産地はみんなで作らないとできない。ワインは年に1回しか作ることができない。一人の人間が定年退職まで続けたとしてもせいぜい40回しか作ることができない。新規事業だと実験40回というのはとても少ない。ひとりでやるには限界があるということだ。それならば企業秘密にするよりも、情報交換で良いものづくりをしていったほうがいい

塩山製作所のワイナリー「MGVs」は今年で5年目、まだまだ始まったばかりだが、自社だけでなく、地域全体で協力しあって産地をブランド化し、マーケットを作ろうとしている。
その取り組みはおそらく他の地域や事業にも通じると思うし、このワーケーションツアーの参加者である我々にとっても、とても参考になる視点を得られたと思う。

山梨県ワーケーションツアーのまとめ

良かったところ

山梨県ワーケーションツアーの目的は、企業移転やサテライトオフィスの誘致を目的とした人材交流・体験ツアーである。

とはいえ、地方に移転やオフィス開設をするには確かな理由が必要だ。山や海や温泉なら日本全国どこにでもある。観光コンテンツは1回の訪問で消費してしまう。

その場所でないといけないキラーコンテンツは何か?

その解の一つが、そこに住む人や事業と関わりしろを作ることなのだ。
今回のプログラムがビジネスマッチングや事業創出を主眼としていたのもそれが理由だろう。

その意味で今回のツアーは訪問先企業も参加者もとても個性的で良かった。イノベーションや事業創出に求められる新結合「これまで組み合わせたことのない要素を組み合わせることによって新たな価値を創造すること」を狙った良い人選だった。

山梨県で事業開発や多様な働き方に関するアイデアを見つけ、会社や事業を通じて山梨県での今後の活動を検討する良いきっかけになった。

今回の企業訪問でお会いしたのは、
産官学を巻き込んでイノベーション人材の教育から起業・創業まで幅広く地域の発展に取り組むヴィジョナリーパワーの戸田社長、自社の働き方改革のみならず富士吉田市全体をサテライトオフィス化して地域の入り口を作るキャップクラウドの萱沼社長、自社の半導体工場をワイナリーに作り替えて勝沼という地域でのブランド化に挑戦している塩山製作所の松坂社長。

3社に共通していたのは、社長が強烈に個性を発揮し、民間が率先して市・町単位で事業として進めていることだった。

自治体がワーケーションに求められる役割としては、どこにでもある表面的な観光コンテンツを全面に出すのではなく、ローカルの個性的な民間事業者を発掘し、行政が地域の外とつなぎ、PRしていくことではないだろうか。

もう一点、良かったこととしては「その土地の美味しい食べ物・店のおすすめ」を紹介してくれたこと。
ネット情報も良いがその土地の人から仕入れる情報はやはり外れが少ないし、同じ味・景色を共有することで、その人や場所をより身近に感じることもできる。

ツアーの改善点・反省点

全体を通じて運営もスムーズでコンテンツも濃くとても充実していたので大きな不満や改善点はないと思う。

ただあえて言えば、参加者がリモートワークをする時間がもう少しあっても良かった

今回のツアー日程は1泊2日だったので時間の関係上仕方がない部分はあるが、何名かの参加者に聞いてみたところ、事前に計画が立てられれば2泊や3泊でも参加は出来る、ということだった。

予算の関係もあるとは思うけれど、参加人数を調整するなどしてせめて2泊以上(できれば3泊以上はあることが望ましい)の日程で、通常の業務ができる時間を確保できるようなスケジュールになっていると、更に良かった。

これは参加者が時間の裁量権や業務のコントロールが比較的自由な経営者層なのか、現場レベルの参加者なのかによっても変わってくるので一概には言えないが、別にリモートワークに限らず、ローカルの雰囲気や特徴を感じることができる、余白の時間は出来れば取れるようにしたい。

あと細かなことだが、2時間以上滞在する会議室などではPC電源の充電ができると良かった。終日充電しないままだとPCバッテリーがもたない
壁コンセントから延長できる3m程度のOAタップをいくつか予備で持参するだけで良いので終日スケジュールが詰まっている場合には電源の確保手段があると大変ありがたい

番外編(富士吉田モーニング・西裏ディープ・甲府ランチ)

富士吉田モーニング

宿泊先ホテルMEGU FUJIの受付で近隣店舗の朝食券が販売されていて、僕はその中のひとつ、豆の樹という喫茶店でトーストセットを食べた。豆の樹はホテルから徒歩1分、富士山駅の目の前の場所にある。

ホテルがモーニングを提供していないというのもあるが、こうやってホテル内に囲い込みをせずに、地域内の周遊を促す連携がされているのは素晴らしい。
それに個人的に喫茶店のモーニングを食べるのが好きなんですよね。喫茶店ごとに少しずつ違う、独特の空間と時間が愛おしいというか。

豆の樹のトーストセット。7時から営業開始している
喫茶店の朝食券はホテル受付で販売している

豆の樹(喫茶店)
山梨県富士吉田市上吉田2-7-3

西裏ディープ

今回、僕は行かなかったが、富士吉田のナイトタイムエコノミーは西裏地区が激アツらしい。100軒以上の昭和でレトロな雰囲気の飲食店が立ち並ぶ飲食店街があるということだ。

お酒が好きな人はぜひ行ってみると良いだろう。
僕も次回、富士吉田に来た際には立ち寄ってみたいと思う。

富士吉田のレトロな飲食店街「西裏」地区
山梨県富士吉田市下吉田3丁目界隈

甲府ランチ

DAY2は甲州市勝沼にあるぶどうの丘でランチをとった。小高い丘の上にあるワインショップ併設のレストランで、周囲一面に広がるぶどう畑の景色が素晴らしかった。

一面に広がるぶどう畑

ぶどうの丘
山梨県甲州市勝沼町菱山5093


前編はこちら

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