見出し画像

CCJ2024イベントレポートvol.1「コワーキングとまちづくり」

2024年5月31日と6月1日に開催された「コワーキングカンファレンスジャパン2024」。
全国のコワーキングスペース運営者や業界関係者が多く集まり、まだまだ新しい市場であるコワーキングスペース業界のトレンドや成功事例、コミュニティのあり方などについて、共有や交流を通じて活発な議論が交わされていた。

2日間で14のセッションがあり、不動産ビジネス、ローカルコミュニティ、デジタルノマド、ワーケーションなど興味深い多くのテーマについて、日本や世界の「現在」を知り「これから」を考えるきっかけになる非常に内容の濃いイベントだったと思う。

この記事では、DAY2の午後セッション「コワーキングとまちづくり〜この2つの文脈で交差するヒトとコト」について紹介する。

コワーキングを通じて地域の活性化や貢献をしたいと考えている方にとって参考になる事例だと思う。

長野県佐久市、広島県尾道市、愛媛県西条市というそれぞれの地域でどのようにコワーキングを中心としたコミュニティを作り、どのような役割を担っているのかを
コワーキングの運営者や推進された方が語ってくれた。

長野県佐久市のコワーキング×農業の事例

コワーキング イイトコ 代表 江原政文氏の講演内容を元に筆者が作成(画像・ロゴは公式サイトより)

コワーキングスペースiitoco!!は特定のスペースが無いコワーキングスペースだ。
佐久市初のコワーキングスペースとしてスタートした当初はスペースもあったというが、現在ではコミュニティに全振りしているため店舗がない。コワーキングの「無店舗展開」という珍しい形態だ。

活動の特徴としては、「ローカル複業化ラボ」という地域課題の解決をテーマとしたプロジェクトの立ち上げを支援する仕組み作りをしていることだ。
プロジェクトを持続可能にするため、地域課題解決をボランティアではなく複業という形でマイクロビジネス化し、複数の人間が参加しやすく少しでも収入が得られるようにしている。

ローカル複業化ラボでは3ヶ月で7回ほどの講座やその後の伴走をすることで、プロジェクト発案者のスイッチを入れる役割を担っている。

多くのプロジェクトが立ち上がっているが、その一つの事例として、農園を共同で耕し、農作物をシェアする「うちやまコミュニティ農園」を紹介していた。
現在は農家や飲食店、クリエイター、士業の方など60名以上のメンバーがいるという。
これからはこういった複数のコミュニティ間の行き来を増やしていくことで、自然発生的にローカル複業経済圏ができ、まち全体がコワーキング化していくはずだ、と代表の江原さんの展望を聞かせてくれた。


コワーキングスペースは一般的に不動産ビジネスであることから、不動産の価値を上げるためのビジネス的な観点でコミュニティの必要性が語られることもあるし私もそう思う。
一方でコワーキングそのものは"co"workingすることであり、多様な人々が協働することを目的としたコミュニティだ。そういう意味で、佐久市のiitoco!!の事例は、コワーキングの新しいビジネス形態の可能性を示唆しているのかもしれない。


広島県尾道市のコワーキング×ライブ配信の事例

きっかけオノミチ合同会社 後藤峻氏の講演内容を元に筆者が作成(ロゴは公式サイトより)

ONOMICHI SHARE」は尾道市で10年ほど運営している老舗のコワーキングスペースだ。
尾道は観光のまちだが、一時期コロナの影響でお客さんが来られなくなった際、「来てもらえなければ店側から出ていく!」
と、2020年3月からライブ配信をスタートし、2024年3月まで100回に渡り配信を続けた(現在は惜しまれつつ終了)。

配信のスタイルは、尾道で働く人を毎回必ずゲストとして呼び、仕事や働き方、尾道で暮らすことになったきっかけなどをテーマにしていたという。
ライブ配信のもともとの目的はコワーキングスペースの認知向上のためだったが、配信を続けていくと予想外なことも生まれたという。

それは、「地域での認知」、「地域とのリレーション」だ。

地域の人をゲストに呼ぶことで、ゲストだけでなくゲストが属するコミュニティにも認知が広がる。コミュニティとつながることで、施設利用者ではない地域の人々との接点もできた。
Facebookライブを配信プラットフォームにしたことも良かった。
やがて他県の学校から修学旅行の相談が来たり、ビジネスコンテストの実行委員会や移住相談の窓口を担うことにもつながった。当初の認知度向上を目的とした取り組みが、地域内外のコミュニティをつなぐ役割にもなっていったのだった。

後藤さん「コミュニティハブのような存在がまちの中のそれぞれの活動を相互扶助的に後押しし、前に進ませる一役を担える」

講演より


佐久市の事例もそうだが、コミュニティとコミュニティをつなぐ、コミュニティハブの役割をコワーキングが担っているのがとても興味深かった。
内向きのコミュニティ(お店に来る人と人、お店と人)だけでなく、コミュニティとコミュニティをつなぐIntercommunityな機能がコワーキングスペースにとっての新しい価値になっているのだろう。


愛媛県西条市のコワーキング×コミュニティ財団の事例

一般社団法人リズカーレ 代表理事 安形真氏の講演内容を元に筆者が作成(ロゴは公式サイトより)

地域課題解決をまちづくりの起点とすることは多い。しかし公的な補助金やボランティアだけでは持続可能な取り組みにはなり難いのが現実だ。
地域課題解決を通じたまちづくりを考えるとき、西条市のコワーキングスペース「サカエマチHOLIC」とローカルファンドの事例は参考になるかもしれない。

サカエマチHOLICは商店街の中の電気屋の跡地にできたコワーキングスペースで、
代表の安形さんは年間延べ200件の起業相談を受けている。
コワーキングスペースは多様な人材を受け入れる環境として起業家支援と相互作用しているのだ。

しかしこの地域事例のユニークな点は、ソーシャルビジネスを支援する仕組みとして、コミュニティ財団「えひめ西条つながり基金」を設立しているところだ。
一部の富豪が投資するのではなく、市民がお金を出し合って助け合う市民財団を通じて、特定の地域と特定ではない人たちのコミュニティを作り、地域課題解決に取り組んでいる。サステナブルに地域課題を解決するために、ビジネスとして取り組む「人」と「金」の仕掛けがコワーキングスペースとコミュニティ財団なのだ。


以上CCJ2024セッション「コワーキングとまちづくり」のレポートをお読みいただきありがとうございました。
このセッションで紹介されていたのは、もはや固定のスペースさえなくしてしまいコミュニティに全振りしたコワーキングスペースの事例や、認知向上のプロモーション施策がコミュニティハブになった事例、日本ではまだ珍しい財団によるソーシャルビジネス支援をコミュニティに取り込んだ事例でした。

コワーキング×ローカルコミュニティを考える上で、ご参考になれば幸いです。


読んでいただきありがとうございます。あなたに届いたことが何より幸せです。 これからもあなたに届きますように。そしてお気に入りいただけたならほんの少し応援していただけると嬉しいです。