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CCJ2024イベントレポートvol.2「ローカルコワーキングの成功事例」

2024年5月31日と6月1日に開催された「コワーキングカンファレンスジャパン2024」。
この記事では、先週の記事に続き、DAY2午後のセッション「ローカルのコワーキングを語る Vol.2 各地方の成功事例やあらたな観点を共有する」について紹介する。

地方でコワーキングスペースを始めたい人にとって、成功している事業者はどのような取り組みをしているのかを知ることができる事例だと思う。

1つ目の事例は、埼玉県さいたま市というローカルと言っても人口100万人都市のさらに中心部、大宮駅徒歩1分の場所にある「コワーキングスペース7F」。
そして2つ目は、人口5万人の滋賀県湖南市にある「今プラス」の事例。
これらの規模感のまちのコワーキングスペースには、どのような課題がありどう乗り越えてきたのかを知ることで、コワーキングスペースを開業、運営する上で失敗しないヒントになるだろう。

先週の記事は下記のリンクを参照。

創業支援と地域活性化を目的とする「コワーキングスペース7F」の事例

株式会社コミュニティコム 代表取締役 星野邦敏氏の講演内容を元に筆者が作成(ロゴ・画像は各公式サイトより)

コワーキングスペース7F」は2012年に開業し12年目の老舗店だ。日本で初めてコワーキングスペースが生まれたのが2010年という若い業界だが、新型コロナウィルス感染症の流行によるリモートワーク需要の急増や、大手不動産事業者のシェアオフィス事業拡大と独立系コワーキングスペース事業者の新規開業による競争の激化など変化の激しい業界でもある。

その中で10年以上営業を続けているコワーキングスペース7Fの成功の法則はいくつかある。

店舗の省人化と他施設・他サービスへの連携を通じた採算性の確保

店舗の営業時間は7時〜23時で、しかも定休日無しというコワーキングスペースとしては稼働時間がかなり長い部類に入る。利用する側からすると利便性が高くて助かるのだが、店舗側としてはスタッフの人件費など維持費が高くなるのでなかなかそこまでは踏み切れない。コワーキングスペースの多くは平日9時〜17時(せいぜい18時)の間だけなど利用者の多様なニーズに対応しきれているとは言い難い。

コワーキングスペース7Fはその利便性を確保しつつ、スマートロックの導入などの省人化をすることによって売り上げの維持に成功している。

新型ウィルス感染症の流行直後はそれまで都心のオフィスへ通勤していた会社員などの地元利用が増えた一方、大宮にも大手不動産事業者のシェアオフィスが軒並み進出してきたため、月額会員や個室利用者は純減することになった。

そこで店舗の人件費を削減するため、スマートロックを導入。完全無人化にまではしていないが、スタッフを3人から1人に減らせたことで固定費の大幅な削減を実現したのが大きい。

ただコストを削減しただけではない。売り上げを上げるための集客の方法としては、王道ではあるがイベント運営を積極的に行なっている。コワーキングスペース7Fは創業支援と地域活性化を目的としているので、イベントの内容も確定申告や創業融資、補助金関連などイベント開催時期に適したテーマを選んで開催。
結果として、利用者や会議室の売り上げが上がるなどにも繋がり、全体として売り上げを確保することができている。

さらに後述するシェアキッチンなど他施設、他サービスへの展開や連携をすることによって、認知度の向上や収益の安定化に繋げているところがコワーキングスペース7Fのユニークな点だ。

地域の創業支援と地域活性化

コワーキングスペース7Fの代表である星野さんは、地域の創業支援と地域活性化を自らも率先して体現するかのように、コワーキングスペース以外にもシェアキッチン6店舗や動画配信スタジオ、宿泊施設など複数の事業を立ち上げ、運営している。

特にコワーキングスペースとシェアキッチンを両方やっている事業者はめずらしいため、創業や連携の相談を受けることにもつながっているようだ。

「コワーキング×何か(例えばシェアキッチンなど)ならこの人、くらいまでに認知されてようやく声がかかるようになる」と星野さんは言う。

地域の情報発信にも非常に積極的だ。
「大宮経済新聞」「浦和経済新聞」「秩父経済新聞」などローカルメディアをいくつも運営し情報発信を続けるとともにテレビなどのメディアにも出演する。

こういった活動を通じて、最近では川越市に新しくできたインキュベーションハブ「Resona Kawagoe Base +」の運営を受託するなど事業の幅もさらに広がっている。

「大事なのは市単位ではなく、県単位でやっていくことだ」と星野さんは語った。

「コワーキングスペース7F」成功の法則

  1. 目的がブレない

  2. 利便性と省人化の両立

  3. イベント運営による集客

  4. 他施設・サービスの事業化とその連携による広がり

  5. 積極的なローカルメディア発信

  6. 県単位の発信や取り組み支援


滋賀県を世界で住みたいまち、No1にする、「今プラス」の事例

しがとせかい株式会社 代表 中野龍馬氏の講演内容を元に筆者が作成(ロゴは各公式サイトより)

滋賀県湖南市と守山市に店舗を構えるコワーキングスペース「今プラス」。
湖南市の人口は5万人超であり、規模感としては平均的な地方のまちだろう。
さいたま市の事例のように競合店が多く存在することがない代わりに、パイが少ないのでそもそもの利用者を確保するのが難しくなる。今プラス代表の中野さんは「地方で成功するなら立地とサイズが重要」と断言した。

前述の星野さんと共著で「よくわかるコワーキングスペース開業・運営の教科書」を出している中野さんのもとにはこれからコワーキングスペースを開業したい人からたくさんの相談が来るという。
その際に必ずアドバイスしているのが店舗の出店場所についてだ。

駅から徒歩10分、車だと片道20分以内に15万人規模のまちがある場所でないとなかなかコワーキングをビジネスとして継続するのは難しいという。
さらに固定費の占める割合が大きいビジネスなので、40坪以上の広さで坪単価4,000円以下(15万人規模の市町村の場合で)くらいでないと失敗すると伝えるようにしている。

ちなみに今プラスは湖西駅から徒歩30秒(駅ロータリー沿い)で、人口15万人弱の草津市が車で片道20分の位置にある。坪単価も独自のルートで平均より安く購入したとのこと。

中野さんの経験によると、そういった条件の合わない場所でコワーキングスペースの出店を考えている人に立地の忠告をしてもそれであきらめる人は少ないが、3年もするとほぼ例外なく閉店したり連絡が取れなくなってしまったりしているという。

コワーキングをやっていると情報が集まってくる

「滋賀県を世界で住みたいまち、No1にする」というビジョンを掲げる中野さんにとって、コワーキングスペースは単なる不動産ビジネスではない。

最近関心があるのは今プラスというリアルな拠点を生かした、県内外の企業との共創事業、ふるさと納税の支援事業を生かしたコワーキングスペースの多店舗展開+雇用づくり。

CCJ2024プロフィール紹介より

コワーキングスペースに集まる人から自然とまちの情報が入ってくるだけでなく、Youtubeでコワーキングスペースの運営に関する動画を50本以上配信したり、複数のオウンドメディアで滋賀県の地域情報を発信し続けることで地域を超えて情報が集まるようになってくる。

地域で情報発信をしているところが少ないので、その地域のことに関連して声をかけられるようになるのだ。ローカルメディアの運営がコワーキングスペースだけでなく事業の広がりにも活きている。

そういった繋がりから生まれた縁がきっかけとなり、湖南市や栗東市などのふるさと納税広報支援事業を受託したり、大企業と滋賀県の企業や銀行、大学が共創することを目的としたオープンイノベーションコンソーシアムの事務局をすることにもなった。

コワーキングスペースを地域とのリアルな接点として活かしながら、オンラインも含め地域情報のハブになることでビジネスの広がりを創っているのだ。

「今プラス」成功の法則

  1. 駅から徒歩10分以内の店舗立地

  2. 車で片道20分以内に15万人規模の市町村がある

  3. 店舗の広さは40坪以上で、坪単価は4,000円以下

  4. 積極的なローカルメディア発信

  5. 地域内外の企業と共創をする

  6. 県内広域で自治体と連携する


こうしてコワーキングスペース7Fと今プラスの事例を見てみると、地域人口の大小に関わらず、固定費の削減のために省人化や坪単価などの工夫をしながら、ローカルメディアを活用して積極的に情報発信をすることで認知度の向上とビジネスの幅を広げていっていることが分かる。
また、どちらも市内に限らず、県内や県外へ視野を広げて活動していることも共通しているのが興味深かった。

これからコワーキングスペースを始めようとしている方だけでなく、地方で集客に困っているコワーキングスペース事業者も多い。
上記のような取り組みがどこでも必ずうまくいくわけではないと思うが、集客やビジネスの継続性を確保する上での参考になるのではないだろうか。


最後に、星野さんと中野さんが最初に知り合うきっかけとなった旧Twitter(現X)上でのやりとりのエピソードが面白かったのでご紹介しよう。
現在の二人はコワーキングスペースの運営に関する書籍を共著で出すくらいの仲で、今では笑い話となっているが、当時はかなりバチバチにやり合ったらしい(笑)
きっかけは2014年7月の以下の投稿。

星野さんのX(当時Twtter)投稿ツイートより

星野さんが「コワーキングスペースは儲からない」というような内容の中野さんのブログ記事を見つけて思わずつぶやいた。

実は中野さんが当時運営していたコワーキングスペースは、月・水・金の週3営業で、しかも営業時間は12時30分〜18時。さらに不定休のため事前連絡が必要だった。さらに言うと場所も駅からかなり遠かった。

星野さんは当時も朝7時〜夜23時まで年中無休で営業していて、自ら毎日コワーキングスペースで受付業務をしていたこともあり、カチンときたと。

「それはコワーキングスペースが儲からないのではなくて、そんな不定期営業の店が儲からないというだけだ」
(引用:星野さん)

星野さんの目には本気でやっていないと映ったのだろう。

営業時間や毎日の運営業務など不断の努力を続けるのは最低限、さらに知ってもらい、使ってもらうためにイベント運営や情報発信を積極的にやっていってようやくお客さんが付いてくる。

やってもいないのにコワーキング業界は儲からないなどと語るなと激怒したということだが、これって今でも当てはまるコワーキングスペース事業者は割といるのではないだろうか。

様々な事情があると思うが、場所だけ作って利用者の利便性も考えず、地域にどんな人がいるかもコトが起こっているかも知らずにただ待っているだけのコワーキングスペースに、成功の道は遠いのかもしれない。

ちなみに念のため誤解のないように補足しておくが、今はもちろん二人の関係は良好で、こうしてセミナーにも一緒に登壇するくらいお互いのコワーキングビジネスについて信頼し合っている。


以上CCJ2024セッション「ローカルのコワーキングを語る Vol.2 各地方の成功事例やあらたな観点を共有する」のレポートをお読みいただきありがとうございました。
このセッションで紹介されていたのは、大都市で競争に負けず採算性を確保し事業を広げている事例や、地方のまちでも固定費を抑えながら積極的な情報発信で地域のハブとなりビジネスを展開している事例をもとにした成功の法則でした。

地方でコワーキングスペースの開業や運営を考える上で、ご参考になれば幸いです。


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