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自選百首①

はつなつのぷらっとこだまに飛び乗ればあなたを許して忘れてしまう

数え切れないほどとはとても言い切れない二人で会った夜のいくつか

すれちがうひとの視界にいるぼくとぴったり同じ歩幅であるく

砂時計あふれてはじける瞬間の鼓膜にとてもやさしい異音

真夜中のというかもはや明け方の窓を開けると聴こえたお経

残高がゼロになったらきっとこの花火を飼うよ 畳の部屋で

冷やかしの温湿度計を睨んでる有り余るほど綺麗な斜視で

きっと知らないんだと思う三角の交差点いまは工事中だって

「失ってしまったものは水ゼリー」君に話せることはこれだけ

寝てる人と起きてる人の心の差だけでは説明できないなにか

新卒の彼の生活水準のいつか帰ろう夢をわすれて

ほんとなら寝てた時間に降ってくる歌詞がこんなにこんなに良くて

宇奈ととでうな丼買ってきてくれた初夏のすべてが初めてだった

つっかけに赤いスイカのTシャツで走って君は夜を見にいく

再見はまたね 動画に感動を誘われている西口ランプ

何かに何かで何かを描いている音が向こう側からもう届かない

人生でいちばん長い電話をした せんぷうき直撃で寝ちゃった

寝てるやん 約束してたこと今もなにも終わらせてないままやん

重なってなかなかうまくめくれない これは、確か、人間の匂い

傘がなく濡れて帰るという夜をほんとは経験したことがない

自転車でゲリラ豪雨を浴びてゆく明日が平日ならば死んでた

同じように恵まれてゆく 雨脚を操れるって自慢しながら

隠されたままの帽子が吸い込んだ雨水たぶん舐めたら甘い

その距離を時間に替えて会いにくるバスにはバスの愛と洪水

すれ違うことがあっても気づかない一度だけかつて話した人と

昨日から正しいことがぜんぶむり食パンの耳を百円で買う

ときどきでいいから白い太陽を消す手品してね、大人になっても

現実の八月三十一日も雨のち晴れで合っていました

秋晴の甘い光を躍らせてジンジャーエールの瓶の輝き

カキオコは牡蠣入りお好み焼きのこと岡山県のご当地グルメ

そもそももそもももももも夢のうちちちちちちちちちょうどいい風

先週はなかった道に自販機があってせっかくなのでネクター

したうちをされたというかしたうちを自分がしてしまうかもしれない

あたりまえすぎて全然おもしろくないことを書いて送ってください。

参加した日の次の日は絶対にすこし落ち込む地元の祭り

寝転んでいれば全ては過ぎるのに不安になって動いてしまう

まだすこし続けたいって正直に話せるように生きてなかった

東京の梅屋敷には琵琶湖という名前の喫茶店があります

ひとつずつ解約してゆく菊月にたまに流れる宇宙のニュース

さっきまでおそらく泣いていた人が牛乳と煙草を買っていく

透明な言葉じゃなくてシャンプーの替えあったっけとかが聴きたい

さっきまで店員だった人が店の前で誰かと電話している

ギブアンドテイクの混ざりあう夜に赤い毛糸の手袋を拾う

ふとももの痣の色を観察させてもらうハッピーバースデーの名の下に

強く吹く風が運んでいってしまうあなたの肺を巡った煙

黒点がコンクリートを埋めてゆく、反転は夢 揺れるハンガー

じっとしていられるわけがないでしょうニュアンスをニアンスと言う君

頭まで布団をかむって寝る癖の隣りでガリガリこなす推敲

かけがえのない生き物に見えてくる蛍光灯の冬のチカチカ

バランスをたった一人で守ろうとしている朝の電線のゆれ

気持ちを言う 寝てるあいだに濡れていた窓の向こうに よわい、ひかり

両想いになるのかもとか思いつつホームに降りる 椅子が汚い

いつまでもあなたのそれは不貞腐れ 私は一人で横丁にいる

準文化的最低限度の生活を守ろうとしているのが悪い?

重力はヒトを殺すが無重力も同じくヒトを殺すのだろう

友達の友達の友達の友達の友達の友達ときす

首筋の頸動脈を連打してあげるとどうやら喜ぶみたい

打ち明けることは怖くて雑談の声色だけが妙に明るく

このことはおそらく真逆の解釈で流布するだろう 虹が百本

真上から見ればすべては点であり、私も冷酷人間だった

君に優しい人はたくさんいそうだが僕はそれ以前の存在だ

犬が集まってきている踊り場の窓から見えるどんでん返し

くるくるくるまわる自分を全員に見られていると思ったら違った

地団駄を踏むのを我慢するために関係ないこと考えている

気を抜くとすぐ早口になってしまいそれを聞き取れるのは君だけ

われわれは誕生すべきかもしれないだってすべてが映画で見た街

遠回りとか脱線とかとは思ってほしくないなあみたいにたぶん答えた

お、い、て、い、か、な、い、で、反転したままで「森」と言われて十年が経つ

今はまだサラダにとどめているけれどいつか全てを気まぐれにしたい

世界はすっかり変わってしまって自転車でふるさとっぽい町をみつける

入り口になれるかどうか直感と雰囲気だけで太刀打ちできる

音楽のことは僕には訊かないで。落ちずに埋められる落とし穴

たくさんのチェックポイントを踏まされる古き良きレギュレーションですねこれ

馴染めないイライラ感に現在の僕の感じは作られました

サブクエをコンプしてゆく生きかたはあくまで事後的な見つけかた

なんだかずっと誰かに見られているような〈感覚〉を立体作品にする

紫の瞳のキャラが歩いている駅前にすこし見覚えがある

ブランコを楽しむ私をガン無視してくれるところが信頼に足る

あと一歩だけ進めれば公園で眠ることすらできるのでした

諦めている感を褒められている ふだんなら昼寝している時間に

「本当に困ったときに相談をできる相手は何人いますか」だと…

シンキングタイムに流す音楽がだだ漏れになり美しくなる

今すごく雑談したい気分です 扇風機がまだ回ってますね

どうせこうなるならもっと早く、などと言う後悔には反論したい

ばらばらと崩れはじめる夏の水 手に当たるときわずかに濡れる

歩いていれば反芻反芻星空に奥行きのあることを思えば

夜率が高いわたしの短歌から導き出される生活習慣

男が女に振り回されるフィクションが好きだったのにむかついちゃった

伸びきって役に立たないゴムひもがずうっと手すりにぶら下がってた

中学の理科で習った液状化現象という愉しい言葉

近況を銃弾のように撃ち込んでくるその口が大きくて怖い

日付を見るともうすぐ十年 ピーナッツバターが好きで写真が嫌い

二人で一つのプレゼントとして渡されたのは初だって気づいていたの

プッチンプリンみたいに涙 これはちょっと見せたかったなという心は何

相談をしてみるときに試してるみたいに感じる自分がいます

使えない指がぐうぜん指し示すボスニア・ヘルツェゴビナ博物館

トラウマは消すんじゃなくて上塗りをするしかないってきのう気づいた

その日からバスタオルさんはフェイスタオルさんを見下すことをやめたのでした

ぺらぺらな生地のTシャツ湿らせてビューティビュティビュティビューティフルグッバイ

簡単に十年は過ぎあの頃にあなたが褒めた歌が流行った




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