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自選九十首

ふれたくてふれればおわり いままでの関係性が疑似餌のように

好きなひとに会いたい気持ちがどんなのか忘れてしまった 糸電話の糸

ブルーライトカットメガネをしんじてた しんじてたってどういうことば?

ポケットに手を突っ込んで残額を計算しながら回るコンビニ

もう短いゆうやけいろのクレヨンで犬の後ろの背景を塗る

図書室の鉄の本棚のなかから私を見つけてくれた小説

見抜かれて立つのが怖い座るのも怖い終わりが訪れそうで

お台場でおしりが濡れて嫌だったぜんぶいまさらぜんぶいまさら

こんなにもちゃんと生きてる彼なのにもうぴくりともしないしない耳たぶ

薄くなりそれから温くなるまでをずっと見ていたみたい真夏の

トンネルに深く入ると圏外で私は途中からひとりごと

まだ居てよ むかし漫画で観た月と同じ月だよ 季節ちがいの

物語をつくれる君は野良猫に上手にエサはあげられないよ

映し出された風景の手前にはカメラ構えた彼がいたこと

青森を私に見せたいとか言ってこれ以上もう傷つけないで

くるくると回すとすこしひらく窓 七年前の背中のにおい

だきしめてもふるえているのがわからない きっとその才能がないから

夜半の春 おおきい橋を渡りきる代わりにしょっぱいまつげを舐めた

ぬいぐるみの黒目にさわる 指先の消えない匂いを知って欲しくて

君と手をつないでつないでつないだら何人もいて純愛になる

春巻きをころころ揚げるのはあなた とんとん食べるのはわたしたち

旬が来て今年も行けば受け取れる筍 街のなかに銅像

君が鍵わすれたからって夜明けまで何もしないで起きてたベンチ

あの時にすぐに返信していたらなんて 芝生にピザも落とした

相槌を打ってるだけでこれはもう名コンビって感じなのかも

誕生日を忘れてた!って気づいたの 去年もだから二年経ってる

ベランダで目を閉じながら聴いているバナナムーンのMULTIPLIES

あったかもしれないことを書いてみる 世界がすこし膨らんだ感

本棚に並ぶ巻数ばらばらでありえないけど暗号みたい

うらやましくないよベージュの新品のバスタオル顔に掛けて眠るよ

僕がいま並べ直してしまったらすっきりするよ それでそれだけ

まっすぐに伸びてく道の向こう側が見えそうになる黄昏時だ

快速が過ぎるあいだにあの人は誰だったっけと考えている

スーパーの壁が鏡でスーパーがずっと続いているかのようだ

テキストで強い意見を言っていく 雨くもり雨晴れ晴れみぞれ

天国と地獄の対比を盛り込んで書き殴りつつ 若さをあげる

刺すことは簡単だろう 抵抗が病みつきになる危険はあるが

ちいさくてかわいいものをスクショする 二曲目がもう始まっている

飼っていたはずなのですがカブトムシしんじゃったという記憶がないの

リビングは生きているっていう意味の 玄関と窓を開けて通す風

吹き抜けを愛するきみはつま先を鍛える深く覗き込むため

歳時記がドッグイヤーで膨れてる 五百年前ここは湿原

抜けるために砂糖をまぶす 虚無っぽいライフワークを続けるつもり

中庭は立ち入り禁止だったからあれは何かの特別な日だ

階段をダッシュしている野球部が見えて置き傘を取りに戻る

先生に用事があるという君を待ってる廊下 中庭を見る

定期圏外だったけど君んちに行ける日は裏門から帰る

物知りで憧れだった君んちの積ん読のせい いまの私は

君んちが空き地になって 私より背の高い植物が生きてた

寝る前に軽く頭を打ったのがヒントだったのかもしれないぞ

二十年経ったら四十六歳だ そこまで行くか サラダを食べる

同じ夏がまた来るといい 死に方をいまは想像できないけれど

思い出すことに飽きたら夏風がレジャーシートを飛ばすみたいに

夜っぽい歯が光る窓 彼岸から見てくれている人がいるかな

喧嘩する人は嫌いよ若葉風 君は俳句をつくれる人だ

「つづきからはじめる」という選択肢が「リセット」よりも残酷に見える

初期衝動っていうセリフが照れくさい ホットミルクをこぼすみたいに

二十首もできた代わりに徹夜して乗る春色の通勤電車

泣きそうになるのはひさしぶりだった 電車にめっちゃ派手な人いた

無印でカレーを買って帰るだけ 店員の表情がまばゆい

考え事してたら濃くて薄めたら増えて腐って捨ててしまった

静止画の滝をやたらと見せてくる きみが行きたいならば行きたい

小さい声が小さい声のまま届く狭い世界をきみはつくった

アロマオイルを継ぎ足すことは生きること はじめて聞いた名前の香り

なみだぼくろのね、濃さが変わっていくみたい 葉っぱが濡れて七色になる

天気予報が外れた朝に思い出す遠い昔の失恋のこと

虚数空間で知らない誰かの絵を褒める 幾何学的な噴水の色

お互いが合わせてあげているつもり メールの文のきみっぽい誤字

病院で 病院までの 病院に 病院からの帰りの電車

偶然を装ってみる よくしゃべるきみの口元なんか気になる

ふかふかの枕がふたつ並んでる隙間に顔をはめて落ち着く

泣けそうで泣けない朝にはちみつを湯煎している姿が浮かぶ

ならんだことば お金をはらってくれるひと 再来年には忘れててもさ

きみがふつうにあるいてる おなじようにやっているのに縮まない影

ことばでは無理だったからてのひらを傷つけながら揺さぶる欅

かおをみただけでもういい そのあとはきょうはさむいの話などした

エレベーターのぼりきるまで振り向いてくれなくてすこし とても 心臓

夜の四時 ひさしぶりに会話していたらいじわるなこと言ってしまった

ころがりながら ごめんほんとに適当な話しかしてあげられなくて

悩みがないことが悩みかなぁなどとまたもや言ってしまい もやもや

釣り堀にふたりでいって三時間くらい黙ってみたい気もする

やわらかさにまつわるあたらしい比喩だ 「恋しなさい」とぼくに言うきみ

めがねをはずすと潤んだ黒目があらわれる、あるいは水晶体が見切れる

かき氷の青い部分が強風にもっていかれた それから五年

点にしか見えないけれど飛行機は鉄の塊 そのなかに人

原宿の路地の静かな喫茶店にてあたらしい一面を知る

池に鯉がいるらしいから見に行こう 騒音があたしたちを守ってる

くちびるがふれてはなれた ヘンテコな日曜が過ぎ月曜が来た

こわくなる こころのなかにこだわりのような日陰がうまれる薄暮

残してもあなたがぜんぶ食べてくれ てた日々みたいに盛ってしまった



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