紺

連作短歌「夜に読め」

古本を二冊盗んで来たという友人の飲むボジョレー・ヌーヴォー

遅延する もう動かないあの指 どこへも行けない満員列車

草茂るすっぽかされた待ち合わせのような風が指をかすめる

ときどきふる小雨と商店街に来てひょんなところに知的な刺激

陣痛が十分おきに来る 真夏 東京都内に殖える歩道橋

植物園でしか蛍みたことない芥川賞よんだことない

なかに誰もいないことがもうばれている歴代革命家たちの墓石

潮風を知らない子供たちの影 重なるところはすこし濃くなる

海の動画を視てひさびさにぶりかえす波を数えて更けていく夜

大阪で生まれた女だったけど突然帰ってくることもない

能面のような男に謝られ意外に高い声だったこと

右の人と左の人が入れ替わり僕を挟んだ居眠りつづく

熱風を浴びてるような毎日があなたにもありあなたにもあり

傘がなく座っていたら遠くにはずっと立ちすくんでいる白シャツ

青いペンに見覚えのあるひとごみに絵本のような時間は流れ

あなただって憶えてるでしょ産まれた日ゆきがたくさんふっていたこと

夜に読むことにしている詩集から明日のことは教えてもらう

油絵のような暗闇から声が 声が聞こえたような砂浜

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