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自選百首③


やなひとがやなことを言うのは君がいいことを言うのとおなじこと

ラブミーテンダー 夢とわかってみる夢の話を聴かせてくれてうれしい

シンプルな棒と棒との組み合わせ、あるいはさみしい夜の具現化

階段をすべて踏んだらお別れだ 永遠にやまなそうな春雨

さわれるかさわれないかの距離のこと奥二重って君は呼んでた


アクリル板を挟んで少し戦争の話をしたがよくきこえない

きみがふりむいてなにかを言う ぼくの立ち位置はここでいいみたいだ

聞き取れなかったその言葉もぼくの座右の銘にして生きてくね

ひとつずつあきらめていく夕方に何度も歩いた海浜公園

観にいくと知ってるだれかに遭いそうな予約のせいでくねくね歩く


ちょっとだけ大事なことのほとんどは地下道を歩きながら伝えた

バスを待つついでに入った雑貨屋で買ったコーヒーカップまだある

ゆめのなかでねむくなったらそこがチャンス なのにいっつも朝が邪魔する

すぐに泣く奴が多いが助手席をふかふかにして着くまでねむる

それなりをやるのがだるい 何もない人と思われると心地よい


夜と昼が逆転しすぎて早起きをした人みたいに食べるトースト

聞いたことない音感の甘いもん、言ってしまえばグレナデンパフ、夏の

ぼくの花粉症は目がしょぼしょぼするだけ 春のわたしはげんげん元気

疲れてないときに地図見て疲れてるときには見ないって逆じゃない?

コンビニの前で煙草が吸えたのでおそらく東京以外のどこか


肩入れを誰にもしないと決めているうちはけっきょく雨なのだろう

痛くないのに痛いって言ってしまい、そのことばかりで疲れてしまう

速すぎてハートを書けないオムライス 告発文は逗子へ届けて

いまはまだわからないけどメモ帳に書き留めてそれを庭に埋めてみた

頼りないビニール傘の黒い柄を握る手の汗 乾かす夜風


橋の下を歩くのが好き 地元から三百四十キロも離れて

エレベーターの匂いの話で盛り上がる 廊下の電気がひとつずつ点く

明日までのレポートふたつ 鼻歌でリピートしてた曲をわすれた

どうせぼくのパラシュートだけ開かない! タイ風からあげ弁当食べる?

落葉踏み踏み踏みきみは図書館へぼくは和田町駅へ ばいばい


一月の地元のスーパー銭湯の露天浴場の大きいテレビ

きみと会うときはかならず歩きやすい靴を履いてく、それが夜でも

削られて無になるまでのさまざまな途中がならぶ彫刻の森

振り回すモップの水が僕のうわまぶたに着地したわけですが

創作がなんぼのもんじゃの樹の下で辛子たっぷり玉子サンドを


わかるわかる落ち込むよねってほんとうにわかられてるから二十二世紀

過渡期って言葉が好きと言っていたあの人どこの誰だったっけ

東京へなんて来ないで地元で働いてアイツと結婚した人がいる

ピクチャ・イン・ピクチャの中で動いてる女子校生がこちらを観てる

また夏が来るよな、たぶんあの頃の自分らしさをたまに言われる


壊せないものがだんだん積み上がる知らない家のガレージの奥

噓じゃない話を時折しのばせていることをまだ誰も知らない

キウイ柄のシャツを着てきた人がいてそのまま恋してしまったのです

何回も生まれてきたかのような手でメイクをしたりニットを着たり

囃し立てられたあいつに囃し立てられたわたしのために泣いてよ


逆に手を繫いでみませんかと言って笑ってくれた暖房ききすぎ

ユニセックスと書かれたシールが手の汗でもろもろになっている君の傘

全員が自分のために喋ってる変な空間が昼寝に良さげ

一度しか会ったことないひとたちに見せてあげたい落書きがある

すみっこのしずかな席へ移動して夕方を引き延ばす日曜


お互いを持ち上げあって遊んでる幼稚園児を眺めてしまう

話すことなくなってきて弓道部の練習をただ見てた窓際

廃墟っぽい広場に呼ばれ大声でセリフ言わされカメラ向けられ

急な坂しかもカーブのバス停に停車するのはむずかしそうだ

考えた人のたしかな手応えがじわんと滲んでいるネーミング


左折して細くて急な坂道をずうっと登ると病院らしい

メインストリートのことをメンストと呼ぶのはなんか許せなかった

二階から入って一階から出れば昨日と同じ人が立ってる

自信あるふうに話せばだいたいは何も考えなくてもいけた

友達のバンド解散する夜におごってもらった山盛りポテト


こんなこと言い争っても一ミリも宇宙に関係ないことなのに

いつもなら何かしら言い返してたはずなのに ねえ、どうしちゃったの

現実で会った回数より夢で会った回数のほうが多い

遠くにいて私のことを想ってるひとが存在していても無駄

正月に歩いていたコレットマーレ会釈してきたドッペルゲンガー


そういえば彼女の理論を参考に作った歌が発掘された

もし過去に戻れるならって考えて何度も君に会う前になる

いつまでも曲がらなかった道のことは気にしてしまうので遠回り

水色の橋の上から朝焼を撮った写真の3MB

考えるだけで短歌ができるからそれでいいって言い聞かせたい


鮮やかに心に残った一文がどこにもなくてページをめくる

二十年後に何円になってるか示してくれる青い曲線

まだ思い出したことない思い出はきっと思い出とは呼ばないよ

スナック菓子みたいな弁当配られて喜んでいます スキップもして

死にたいと思ったことなどないですぜ、みたいな顔で飛び跳ねるきみ


煮込まれているうちに食べられたくない気持ちが芽生えてきたわたしたち

終盤にごぼう抜きする戦術を観客として無性に愛す

思うときがある よくある感情の沼に自分がはまれていると

プディングをお裾分けする、お裾分け いわゆる優しさともちょっとちがう

お違法のおアップロードのおラジオで話されていた漫画をポチる


半年後いなくなるって決まってる人との距離が縮まる急に

ブックオフ川崎モアーズ店で泣く昔の自分の背中に触れて

Kindleかと思ったらkobo 友達はむかしカナダに行ったことがある

びよーんと、正気が飛んで行ってしまう、ひとことで仕留めるよ「卵黄」

死ぬまでに肩まで浸かって十秒を数えてみたい地中海沖


寝る前に日記をつける習慣をやめたらすこし悪夢がへった

マンションの一階にあるスーパーでバイトしようと思えばできる

明日起きて元気だったらとんかつを食べに商店街まで行こう

まじですか、これって方言だったんすか、の、ところを何遍も聴く

気にしすぎだよって助言はあまり人に言ってあげないほうがいいらしい


嫌われるように描かれてる人を観るくらいなら何も観たくない

駅前の畑をみんな通り過ぎタイムカードを鳴らしてねむる

死にたくはないけど死んでしまえたら交わる湖岸のマルチメモリー。

最近の驚いたことを話したらむしろあるあるでは?と言われた

途中から登場してくる昼寝キャラみたいなやつと釣堀へいく


豪邸のプールにお呼ばれ プール後は重くてねむくて ゆめのなかでも

うるささがここちよさならもうなにも好きになれないなれなくていい

情が湧くのを悪いことみたいにさ 中華屋の赤いテーブルを見る

目が腫れているような気がするけれど触れずにいつものようなさよなら

傘立てに置かれたままの綾鷹が今でもそこにある気すらする




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