見出し画像

自選八十八首

たまに会うついでに歩く細い細い細い道 春風邪と春風

私にとってあなたはすでに死んでいるつまりどこかできれいに生きる

青い服着ている君に近づくとナショナルジオグラフィックのパーカ

あなたから影響された性格がわたしの中にはまだあるのかも

あのときなぜ四国旅行にいったのか憶えてなくて電話をしたい

耳鳴りを聴かせてあげる くっついて 昔のことでひとつ噓つく

帰り際、駅まで一緒に歩くやつ、やりたくなったといって呼ばれる

港町から港町へやってきて僕らは同じ坂を登った

木がでかい ニッタじゃなくてシンデンと読むのだったかここの地名は

夏の夜のフローリングの冷たさの君のほっぺた 口笛が聞こえてくる

車を見る堤防を見る友だちになれる気がした彼を見送る

「雨ふっていたかどうして気になるの?」辞めそうな子が可愛くて見る

消えたあと点くと信じている人の数だけ点滅信号はある

生きるのがじょうずな人よ アルペジオ 東京の川 東京の川

さらわれて遠くへゆきたい夜だけどファミマに寄って五分で帰る

ヒートテックのさわりごこちをたしかめてあなたは先にねむってしまう

乳液のにおいとつけっぱなしのテレビがひとつの夜でつながっている

「必ず」という口癖が気になっておそらくそれで別れてしまう

誰かってことは、誰かじゃないってこと? やわらかなものを何重にも包む

それでいいよ 君だけが知る伏線を単語ひとつに紛れ込ませて

いまにして思えばミモザ 意味のない世界でねむりたいねむりたい

コンパクトサイズにねむる 強くではなく弱く テレパシーを受けとる

あなたから見えてるようにわたしには見えてないかな 山の向こうの

なぜだろうわたしは反論したくなる あなたはそれを聴いてくれてる

泣いたのは初めてでした 波の色、雪の色よりきれいにひかる

欲しかった帽子が売れてしまってる 夏がまた来てくれますように

夕方にシャワーを浴びる すごく遠い場所の話をしてくれていた

長すぎる余韻がうざい切り替えるための小さい旅行をしなきゃ

気の強いおんなのひとがわりとすき 何度も何度も体を洗う

不整脈みたいに君があらわれて鼻声だった 写真を撮った

川を渡るのがだるい 朝、ワイヤレスイヤホンが深く深く落ちてく

南天じゃなくて万両なんだって教えてくれた 歯医者の前で

マジカルのジがヂだ それは愛っぽいなにかで四万年の暗号

僕が立って君が座ってする会話 どんどん人が降りてくバスで

液体の色を言うとき 暗闇で思い出たちがざわめいている

物語が破綻してくる瞬間に立ち会えていて逆にラッキー

靴下のつるっとしてた質感が妙にリアルでかなりエモいな

コンタクトレンズを捨てて水を飲む 優越感は譲ってあげる

霧の中で眼鏡を捨てる僕は君に話しかけられないままだった

終わらせた季節のあとで地下道を一緒に歩く 香水の染み

梅雨かなあ梅雨はまだでしょ濡れかけて隙間を空けて座る終バス

いい匂いがするのは単にいい匂いのするものを塗り込んでいるから

エメラルドグリーンのセレナ停まってるここに来るときいつも土砂降り

透明な花びらのこと 想い出は冷たいままでいいと思うよ

羊水のように優しい正夢をワタシの脳に埋め込んでくれ

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの帰り道ポムの樹でオムライスを食べる

壁を見る 心臓がキュッとなるような空模様 わかる 夜の不安さ

ベージュしか塗らない爪の、さっきから隣りで黙っているだけだけど

とけあってそれからふたり地上ゆきエレベーターよ無限に昇れ

猿山に猿はいなくてただの山 埋めようとして抱き締めてみる

留学に行けなくなったことにより産まれた異性の子に名を付ける

背負うって口にするのは簡単でジャンクフードはもう食べないぞ

つぶしがきくつぶしがきくとおまじないみたいにマスクの内側が痒い

いつもならいっぱい並んでいるはずの焼きたてメロンパンも売り切れ

満開の桜が今日は五分咲きだ明日はここに君もいるはず

プロレスとボウリングしかやってない夜のことなど 君に会う前

なぜみんなここから去ってしまったの あげたい本がこんなにあるよ

調律が狂ったままのレがあって悲しいことの引き金になる

広島に緒方と尾形がいたころの友だちみんな結婚してく

今はもう理由がいるね 体験が経験になるまでのほころび

仲直りしてみたいからまず喧嘩してみませんか、とかおもってた

個室にこもる個室にこもる個室にこもる三回唱えて個室にこもる

あたらしくできた近所の公園のベンチでスケッチブックをひらく

五年後にエスカレータですれ違う子と理科室で見る雪の花

今日はやけに眼鏡の縁が目に入る そろそろなにかの終わりだろうか

小六の頃に使っていた青いウォークマンから宇多田ヒカルが

抽象的なものとは何かと考えていたら何もなくなった

お土産にくれた木製ブーメラン全然うまく戻ってこない

すこし早いですが本日はここまで ボトルシップが割れてしまった

言い方がぜんぶ違うねあなたたち言いたいことはおんなじなのに

満杯のごみの袋を捨てるときみたいにそれを強く結んだ

悪いことしているような緊張の感じがひさしぶりの徘徊

悪いことばかりじゃないよ連休の初日に手洗いするデニムシャツ

悪戯な歌詞を綴って埋めておく だれかが曲をつけてくれると

図書館で見つけた小さな男の子を私はしばらく追いかけてしまう

踏切で追いつきそうになったので不自然に遠い位置に佇む

女の子と待ち合わせして去っていく後ろ姿がちょっぴり大人

あなたへの想いのように絡まったイヤホン今は引き出しの奥

セックスを「したくなくて」足がふるえてる「したくて」だったら定型だった

空っぽの武器庫が今は潮風を蓄えているふるさとである

目に優しい淡い色味が僕たちの世代のラインマーカーの色味

しいたけ占い・野口体操・Qアノン どの辺からがやばそうですか

先輩と坂の途中で仲良くなるそこから一年くらいは続く

すこしだけ夜を延ばしてくれるなら殺してあげる夢の彼方で

一瞬で古傷になるひとことをあなたはいとも簡単に言う

iPhoneの時計を何度も見てしまう 循環バスが迷路をつくる

シャワー浴びながらが一番思いつくあとはそれをどう憶えておくか

ハイウェイをひた走るとき轟音に掻き消されゆく、さよなら、またね

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?