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自選百首④


求められることを求めてしまう夜それを言いふらしてしまう夜

ぼくからはすごく奇跡にみえるのに鳴り止まなくて押し込めている

あまり目を見ないで話していてもこのレイアウトなら不自然じゃない

雨粒が車窓に当たってもういちど喋りたかったのを思い出す

改札で見送ってから家までのショートカットに使う噴水

出ることも折り返すこともできなくてヒントを探す夜の非通知

切ってから掛けないほうがよかったと思う電話の実質0円

旧友が今はもうない居酒屋でフカコウリョクってよく使ってた

先週の熱い気持ちが冷めきっている要領で来週を待つ

あれ俺のダジャレが綺麗な先生をベンチャー企業に転職させた


ひきだしのおくにかくれていたながい赤えんぴつのような近さだ

次の日の用事のために早く寝るような男と会えればいいが

あのひとがいまはなんにもしていないという噂でまぶたが重い

寝ることも起きてることも自画像を本気で描いた過去に勝てない

半袖はまだアホやろとかゆってくる友とわかれて銭湯を出る

言わなくて後悔をしたことはなく言って後悔することばっか

着信が来た瞬間に歩いてた有栖川宮記念公園

祖母が言うには忘れても忘れても忘れていない言葉は残る

ダンゴムシを数えていたら後ろから声が聴こえて両手をついた

園庭の滑り棒には背の低いあの子がいつもしがみついてて


たくさんの夢が入ってこないよう調整してるというのも言い訳

無重力という言葉の魅力には言語の狭さがふくまれている

先生が前の二人と手を繫ぎ きみは大丈夫やと笑った

まだ誰も来てない朝の図書室で黒い表紙の絵本を読んだ

撫でてあげたくなるほどにモコモコの布を纏ってくるのがずるい

使い切るまでは嬉しいお土産の消毒ジェルの気泡と私

捨てられる人の助言を何回も聴かされてもう枯れない植木

渡されたから背負ってる本棚を整理してくれないか一緒に

きっときみは大丈夫だと聴こえたら こういう顔になるのが癖で

見えないと無くなったのだと諦めてしまう男に手紙を送る


表面が似ているものをカウンター席に並べて撮る定休日

月に二度まとめて洗濯するだけで好きなTシャツへろへろで好き

IMAXを観たことないという人に時間をかけて信頼される

嫉妬という感情きえてしまったらさびしいという、それは淋しい

日本に何本もある桜川ぜんぶ見れたら行けそうな空

興味ない男の人がこの街の良い喫茶店を教えてくれた

守られなかった待ち合わせのあとに夕陽が選んでくれた背表紙

楽しみたい気分を大事にしてくれて感想なども送ってくれた

君んちの子機のところに置いてあるポポンSプラスがちゃんと減る

右腕の痒いところを掻きすぎて書けなくなった青ボールペン


思い出がこんなところに入ってたなんてビックリどこにかは内緒

ちょろいなあ 寄り道をして伯爵でビール飲んでるたったそれだけ

ワナビーと言ったら意味が伝わってなかったので泣きながら教える

出来すぎている物語なわけですがこのまま行こうこのまま行こう

今ならばすべて許せる気になってこんなに遠くに来たってわかる

ラーメン屋ならば告白できたのに牡蠣小屋だからなんかちがった

謝罪文よまずにたべた恋人に返してもらっていないアイコス

ふたつある枕の隙間に顔面をうずめるのがすき だから見ていて

首輪だけ浮いてるシルクスクリーンというなんだかわからん手法

森美術館の床すけすけなのか 覗けばそこが痛点なのか


映画監督になってね鰻屋で言ったこと君は忘れてるけど

コピペする前にデリートしてしまい思い出せない春を愉しむ

故郷にお邪魔したとき巡らせてもらった県の全公園を

読み取れる感じになってしまってるのは厄介な偶然だった

青白いユニットバスに自分以外だと思われる人が立ってる

ぎりぎりのところでなにかしら新しい出来事が繫いでくれた

ゆきだるま(一昨日)の横にゆきだるま(昨日)の横にゆきだるま(今日)

看板を反転させてフッ軽なともだちの返信を待ってる

花火大会が終わって家に着く夜中みたいな疲れ方だな

マッサージしてくれている親指のこんなに硬い白い寂しい


恥ずかしさなんて知らない表情で会えてよかったとか言ってくる

溺れてるみたいに踊るアイドルを遠くの船から見ている気分

広く広くがモットーのあなたから最近ぜんぜん連絡がない

引っ越せばいろいろ変わると思ってるひとに美味しいビールを奢る

そうだよと答えた 君はいつだって一人になろうとしてると言われ

引きずっているとか平気で言ってくるあんたとパンダを見に行く明日

本当のことを言うには向いてない間接照明あいしています

フィクションで泣けなくなってもう長いとか言っているうちに婚約

片想いさせられている気になってくるよみんなに。猫にも人にも

なんとなくやめたのならばそのままにしておかないで消しておいてよ


突然に電話がかかってくるなんてことはほんとにもうないんだな

ご無沙汰な人の日記をひょんひょんひょんひょんなことから読んでしもうた

あっちから電話がきたから今日は無理みたいな感じで生き延びている

あなたからすれば急だし思いつきだしナントナクだけど答えて

自分から申し込んだと思えない速さで投げ棄てているDM

なですぎてはげた地球儀ゆらりゆらりなんだかきみに会いたくなって

終わらせてこれでいいって思い込む技が熟練化してきている

そうなったからこうしてるという説明を夢のあなたに聞かせてもらう

すでに不利そうなルートを走りつつあるような気がするディスプレイ

記憶力に自信があったはずだったわたしをこえて振り向く私


おにぎりの海苔がぽろぽろ夜中でも明るくなってしまってからも

どんなことだっていいから中華屋で自慢話をきかせてほしい

天袋あけるのこわい わたしには私のことがよくわからない

夜光る宮下パークの階段の前の横断歩道の体温

夜更かしを自由さみたいに言ってくるやつと結婚したらだめだよ

半袖で東横線へ消えてゆく夢から夢へ乗り継ぐように

帰るとき、自信を持っていたいから少しだけ手をつないで離す

反対の立場だったらもうすこし試聴をしたり試飲をしたい

わかります黙っていれば完全な朝日に光る横顔でしょう

叱り合うこともできちゃうパートナーですと短い動画みせられ


手に載せた頭がこんなに重いこと日記に書いて憶えておこう

あたらしい趣味が見つかる瞬間の強い自分に伝言を残す

汗ばんだ背中をさする手のひらに何万年も残る体温

間違えて乗った荒川線だけが唯一正解だった一日

右斜め前の男の心地よい貧乏ゆすりを見れてよかった

俺ならば自慢するしか有り得ないところが触れてはいけないところ

君の立つ森はいつでも雨降りの気配に満ちてソファを濡らす

ほんとうに一生だったことなんてないくせにまた約束をして

一番上に表示されるよう2030年になっている記事

君じゃないひとと踊っているときのような軽さで喋れたらなあ


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