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自選二十首

同僚が立ったはずみにころがったマウスの青い光が夢に

水滴の音を数えていたつもり渇いた喉に止まる錠剤

風化してしまう前にと見に行った日に着なかったほうのカーディガン

埋めるのはかんたんなこと満たすのはむずかしいこと 花を買わない

遠い窓 座っていると見えなくて立つとほんのり匂う木犀

線路からむこうはむかし海でしたという台詞が映画にあった

さみしいと夜道で声に出してみて ほんとのきもちじゃないと気づくよ 

シャンプーのにおいのつづく明け方にとつぜん読めるような筆記体

おしゃれして名画座へゆく坂道の晴れの日も消えない水たまり

青白く光るガソリンスタンドに消えた会話のような映画を

庭に風 なにかを思い出しそうな予感だけでもうれしい真昼

ゆめのなかでゆめをみているゆめをみた他人に興味がないのがばれた

リビングに眼鏡をおきっぱなしにして和歌山に那智の滝を見にいく

水筒のフタがコップになるようにいまも天真爛漫ですか

あの丘に水族館をつくりたいなにも死なない水族館を

わざと人にぶつかって発散するような大人のことまで考慮しないと

自分だけ覚えていたら恥ずかしいたとえば干物の豊富な居酒屋で

過ぎていくきもちは見ないようにして、怒らないでよ、悪くないから

二回目はそうでもないということの繰り返しだなたぶん死ぬまで

これからも不安はあるが新しい街、風の街でもあるようだ

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