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自選百首⑧

あの夜の空はぜったい緑色だったと誰か信じて、欲しい

あふれたらあふれたままで手のひらに夜の光の重さを載せる

家だった学童、学童だった家 風に削られてゆく雪山

いきなりじゃないことがこの生活にときどきあってくれたらいいね

一生に一度あなたが叫ぶとこ見たいなあとても美しいから

いつまでもエレベーターがとまらない私がそれを願ったせいだ

違和感をそのままにして次にいく練習をさせてくれる家族

海を嗅ぎに行ったと言ってその人はおいしいものを笑って食べる

エクレアを座ってたべた公園を閉鎖しようとする仮囲い

大宮に盆栽美術館という場所があるらしいという情報

同じ日に再放送を観ていたのかもしれないと途中でよぎる

おにぎりの専門店でおにぎりを奇跡的なほど可愛く食べた

お願いがある夜にだけ光らせてくれてうれしい古い携帯

オムライス置き場をビルドインしたい 100年ローンのような生き様

思い出しながら歩いているときはひとりで生きている気もしない

思いついたことを言わない言わないぞ言わないぞもうバナナボートで

会話するたびに倒れる寸前のセーブポイント 光でわかる

カルピスの汎用性を語らせて疲れたところを夜空へ放つ

川の上に立って遠くの山を見る流れのなかにあくびをはさむ

環七のバスの窓すこしあいてる立夏パーマをあててみようか

きめ顔でお別れするのは苦手やし扇風機だけもらってあげる

逆光のようにうれしい音韻で待合室は和菓子のにおい

去年からあたためていたBメロを君は今年と思って褒める

きらわれることをおそれてないひとがたまにいるけどあれはなんなの

偶然は機械のように輝いて残酷性を許してくれる?

組み合わせが合っているのか不確かな蓋しかなくて泣く同居人

苦しくて声を出せないときがあるそのとき以外はふつうな暮らし

警察を呼んだり野次馬が来たりはめんどくさいと思ってしまった

言動のひとつひとつを炭酸で割って感謝はたまにだけ言う

コート脱ぎバッグ置きつついつぶりに会えたかすでに話しはじめて

この人の手を知っている 小さくて薄くて白い雪のレプリカ

コミュニティーバスの時刻のしらべてもしらべても出てこない啓蟄

これはもう片思いでもないなんかスプリンクラーみたいなもんだ

最終は遅れています。窓に雪一粒ごとの違いは消えて

坂道を眺めていたら今までに出会った人が転がっていく

削除した動画を復活させたくて無駄にするほど長い暗闇

サンダルでよなかに散歩するために一緒に住むのかそういうことか

仕事辞めようとしている友達の身体の見たことなかった部分

下書きのようなラフさで本心を置く下書きのようなラフさで

質問は空回りしてぎこちない でもそれ自体も楽しめるかも

シミュレーションゲームのように美しい放物線を見るだけの外

好きなものどんどん減っていく日々をリバーシブルにしてやりすごす

ずれていくこたつの布団が完全に外れたら夏、電話をかける

正解がなくてうれしいお絵描きは中学校のようなカオスさ

「他人から見える自分と姿見に映る自分の差」がモダニティ

食べ終えた皿と一緒に運ばれていってしまった小さな勇気

たまにしか会わないことのリアリティ 少し冷たい風がより好き

男性の声は女性の声優が吹き込んでいた一〇月一〇日

父親に渡すと職場でラミネート加工してきてくれた押し花

つるつるな生活のなかで弱点を教え合うのもエール交換

付き添いをしてくれていて付き添いをしてくれているなんて奇跡だ

次に履くつもりでそこに置いていた靴下がもうすでに消えてる

出来事をどんどん引き寄せてしまう彼を正直気の毒におもう

手作りの椅子をギシギシやりながら春一番に添える指笛

テーブルに見覚えのないサボテンがあった気がしてはじける昼寝

でもそれじゃ他人な意味があまりないよねって言ってなんで笑うの

点描のように経験値がたまる はじめて舐めた冬の赤坂

遠くからときどき会いに来てくれるときはそういう顔でいてみる

跳び上がるための練習だったこと伝えないまま今も住む町

なつのよる停まったままの救急車から消毒のにおいがしてた

何を見せられているんだよというかチャンネル変えればいいだけだけど

なんか今朝めでたい人に褒められて怖かったのアイス買ってきたよ

なんらかのパーカッションになりたくてわけもわからずぬり絵を買った

二時二十二分を君に見せたくて暖簾を殴る暖簾を殴る

2の速さ4の速さを操ってCM飛ばす夜中の手つき

二十年ぶりを笑ってすぐ馴染む先輩と先輩のおちつき

二十年前とおんなじTシャツで君を迎えにいく憶えてる

日本語に日本語が重なっているエンディングロールの始まりに

ねるまえのオリエンテーションではおもいおもいのストレッチをしたりした

飲み物がこの世にあって嬉しいね いちいち思い出されて困る

初めてなことをやりたい履きつぶしたのと同じのをまた買うとか

反対の気持ちを言ってしまう癖 きっかけ以外はあなたと同じ

人といるときに限ってポケットにあるはずのものことごとく消ゆ

比喩ですが心の波打ち際に来て 繰り返しよりたった一度で

非合理を抱きしめようとするヒトの吐き出すものをときどき食べる

伏線を閉じるみたいに話してくる不安をわずか、わずか引き取る

踏切の左上にある居酒屋の提灯とても赤くて多い

歩道とは呼べないような白線の外側をゆく 縦にふたりで

ポケットに一万円を見つけたら僕を誘って雪の黄昏

毎日はやってられない優しさをときどき補充しにくるわたし

まだ海の隣に知らない恋人のいるかのようなその染まりかた

待ち合わせとか5年ぶり3度目の秋大会のような意気込み

見えそうで見えないものの言い換えにミヤマカラスアゲハを「思いつく」

水溜りわざと歩いて靴底がちょっぴりキレイになったらいいな

昔とはぜんぜん違う性格と話し方でもこんなにも春

目覚ましをかけないほうが目覚ましをかける日よりも早く起きれる

めずらしく叶わないまま消えるかもしれないことを言う橋の上

もうあまり驚けなくてもゆるしてね何年ぶりかに言ったもしもし

もしかしてさっきからくちずさんでるそれってさっきからのそれって

もし雨がふったら祭りはなくなってこの鯖寿司は明後日たべる

餅つきは見ているだけが懐かしいくっちゃんくちゃんくちゃんくちゃくちゃ

もらとりあむ人間。もらとりあみながら変な形の階段を撮る

桃鉄の話をずっとされている わたしはほとんど泣きそうなのに

役割を自分で決めてやらなくていいこと増やして生きたい砂漠

やわらかい野菜を夏に投げたからかなりやさしい君が産まれた

横顔を見過ぎて窓の外までの白い光が記憶の全部

ランダムのなかなか出ないデザインのそれでもこんなに叶いやすくて

連休を喜びすぎて久々に会った男に心配された

ローソンの青く消えゆく夕方に念じて興すハッピーアワー

わたしには見えるわけない感情が世界に川にあなたにふえる


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