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自選百首⑥

ねころんでポカリこぼしたパーカーのへんなもようをみせてあげへん

気をゆるしかけた途端にやなことをあえて言ったらそれもハマった

不可欠になりたい 雪が積もってた頃の写真がめっちゃ明るいね

抱き合って見えてないとき「しめしめ」という顔をされていますように

好きだったひとに恋愛しなさいと言われているせんぷうきのまえで

作ったらひとに見せたくなるものと決めつけてまた傷付けていた

恋人がくれた強炭酸水はわたしをとても凡人にする

家に来る気配のことを夕立と呼んでふたりで愉しんでいる

なにもかもずっとじゃないよ そのなかで約束をするのはむずかしい

旅先でポストカードを見ていたら思い出したと言われてみたい

授業後にあなたが届けにきてくれてご飯を食べた傘だったのに

鬱病の描写があってそのひとが食べていた赤い赤いかたまり

見逃したドラマのなかで観覧車まわってたって教えてくれた

中学に金木犀が植わってた気がするんだけど植わってたよね?

好かれても嫌われてもない綺麗な手に綺麗な豆腐を載せて切るとこ

身心を委ねることがこんなにも不可能ならば産まれなかった

忘れるほど近くにいても飽きるほど遠くにいても心なのにな

今更もう引き戻せないと思ってるみたいに隣を歩いてほしい

さざなみは搔き消されるということをみせつけられているような海

二年前には考えもしなかった日記の内容と形式だ

ふりをして ほんとうに無理 価値のこと考えるだけで君のように吐き気

ていねいなことばが足りないカステラの味を説明してもらう夜

今日の僕みたいに君にもいいことがありますようにハモっています

恥ずかしくなる日は絶対こないって部分にだけは自信があるの

今はまだ春だけど夏が終わって涼しくなったころに誘うね


プライバシーを破壊しあっているような行為のあとで秋を見にいく

誰も見ていない個室のすみっこでちいさい秘密を見せあった滋賀

かわいそうだったあの子が今はもう手の届かない海岸にいる

とおくまで浅くて急にふかくなる海で貴方を見失いそう

いま知ったんですけど泣くと疲れます それはそれとして鏡の夢だ

輪郭は線ではなくて指先の震えは誰のものなのだろう

遠くから想っているということのとても軽くて穏やかな息

教えあう約束をした日の夢が唇が裂けて縫う夢だった

貴方以外のすべての人と最近はとってもうまくやっております

ゆるすとか言える立場じゃないけれど宛名の件はわすれてあげる

少数派と思えるとかならまだいいのですが 段階的に弱まる呼吸

訊き返されませんようにという顔を隠して浅い呼吸の谷間

鈍感でいいねと言われる回数が増えてく、たぶんバス停で会う

友達が百人できる それぞれに百人ずつの友達がいる

リセットが許されていてまたしばらく転校生と呼ばれて過ごす

だとしたら渡り廊下の明るさを褒めたりしてた時間のことだ

シュウマツが始まりました いままででいちばん長く愛しています

笑わせてくれるところが好きだった話をまじめに聴いてあげてた

もうすでにちょっとくやしい関係の別れ話に似ていた散歩

引き返すのも楽しくて迷ってるきみの後ろを黙って歩く

忘れものしながら会いにいったのに結局会えずに帰った話

行き方を教えてもらって階段をゆっくり静かに降りているだけ

慰めじゃないけどみんなぐちゃぐちゃに生きているって隠しているよ

会話ならしてくれそうに笑ってた記憶のなかのぼやけた黒目

話したいことはとっくになくなって秋の花粉もすこし恋しい


いまさらがちらつく秋の鉄橋に置き去りにして帰ってほしい

ほらまただ、何か違うと思われてそれが何かは訊けない夜だ

笑いたいのになあ君とその他の人たちが混じり合って見失う

簡単に好かれてしまう人生のつらさを小声で話されている

質問をすることだけが恋じゃない永遠みたく薄いカルピス

関心が無いって顔をされている。無関心ハートフル無関心

奥さんの漫画を配っているひとが幸せそうで幸せそうで

暴力をゆるせるひとになりたくて多重人格者になりたくて

てきとうに生きれるひとはつよいひと わたしも 居留守をすぐしてしまう

端っこに写されている自分のとは思えないほど小さなピース

さっきから勇気と呼んでいるけれどただの投げやりなんじゃないかな

気づけないほど少しずつ削り取られてゆく滑り止めとか希望

崖だったところに家が建っていくのを数えてたホームのベンチ

座布団の下で何かの声がしてそのままにして乗る千代田線

やさしさが搾取になっていくときの音が聴こえる明るさの朝

励ましてほしいみたいになっちゃって悲しくないのに泣いてるみたい

正解がひとつだったらいいのにと言いつつ君は砂肝を吐く

いい人と思われなくていいやって思えて生きれているこの人は

仲良くしてもらったことはあったけど仲良くしてあげたことなかった

ひとごとのようになぐさめられているけれど欲しいのこれじゃなかった

いなくなる前にわたしのどのへんがだめだったのか叫んでみない?

重要な順に並べていたつもりだった気持ちの強制シャッフル

わかったぞオリエンテーションが足りないせいだよ。きみもそう思うだろ?

伝わらない気配が強い 君のいない 秋の終わりの雨が冷たい

わたし以外のすべてに飽きて抜け殻でしかなくなったあなたと出会う


八年が取り戻せない。一度出たカフェにまたすぐ戻る小春日

動いてる動画がすごく明るくて消失点にちょうどいる犬

東京の詩を読んでいる東京で生まれた人が帰ったあとで

細分化されたあなたのひとかけはわたしが握っていてよいですか?

駐輪場のなかを通って地上から地下へと降りてゆく雨の夜

成就してほしいと思う目標を見つけに君は遠くに行った

ひらめいてしまってからはもうなにも聴こえてこない二時間だった

ただ川の近くに居たい友だちが集まる夜に降る雪の白

湖でかつて覚えた優しさが空回りしてしまった模様

言ってないことがどんどん増えてきてもう取り返しのつかないキモさ

いつまでもあちらがボールを持っているなんて思っているうちに雪

朝焼けの手前をすうっと掘り出して代わりにあたしかあなたを埋める

ズレながらかたちになってきた夢をときどき君にもおしえたくなる

溺れてる彼の写真を撮ってみたのは憧れの表情だから

適切な季節を思い出すためにいったん忘れる必要がある

覚えてるのは最後だしもう一周しようと言ったのは俺なこと

草原に誰のものでもない犬が揺れていてまた君と離れる

終わらせるつもりで投げただけだから許してほしいマラサダみっつ

もう喜ばせる必要もないのにくっついている耳や目や口

こうやって過ぎる十年二十年 ボクの老後はとてもかわいい

わがままを言いたいそしてたまに気が合うならそれでそれだけでいい

象徴にされないように気をつけて気をつけて君が言うさようなら

あの日々に教えてくれた感情が身に染みているひとりの国で

どうしても自分で通過しなければ判らないって話してくれた

今だから言うけど春のドライヤー強すぎたって墓場でおもう

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