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自選七十七首

雪の絵の紺色きれいごめんなさい在廊時間は避けて来ました

「折り合い」というタイトルで良い曲を作ってしまう星野源さん

へこんでる麦わら帽子が公園のベンチにあって僕のではない

鍵括弧の中だけ変な声で読むやさしい君がやめた留学

木綿でも絹でもいいよ豆腐なら、くらいの解像度で生きている

イヤホンをはずして歩く秋の夜 砂漠っていう比喩がきらいだ

晴れながら降る雨みたいに愛してよ一緒に並ぶエッグスンシングス

今日いちども笑わなかったつまらないきみも好きよと指毛がゆれる

エントランスにエントランスと書いてある みたいなことで一緒に泣こう

夜に産まれて昼に流れてゆく川をこの街の人、みんな眺める

たばこくさい毛布にくるまりながらでもいろんなきみの夢を見られる

うまく言えなかったことがある 雨を選べば蜜蜂が浮く

泣きすぎて面白いとか好きすぎて憎らしいとか紙に書いてみる

癖だなあと思いながら鼻を触る そういえば今日雪かもってさ

よそ見してたら転んでそのまま死んじゃったみたいな感じで君と出会いたい

聴き慣れた曲を結局聴いている誰かに教えてもらった曲だ

一曲目に戻る頃には一時間十六分が経ってるだろう

あの本を読みたかったと気づくのがいつも日曜日の夕方じゃん

こういうふうに泣くのかすこし驚いてそのあとすこし眠たくなった

新横浜駅の円形歩道橋みんなハッピーで終わる昼ドラ

ぱっと思い出すときもありうっすらとずうっと思い出すときもある

急に行く親水公園 片目つむる遊びとかしてたら暮れてきた

本物のラベンダー嗅ぐとラベンダーすぎる匂いがすると言う君

愛着が湧かないように工夫するいろんなところにある軽井沢

ショルダーバッグの上からコートを羽織るのだ重なるコップを重ねる遊び

いま前を通っていった老人は知るはずもない僕の内面

人のいない世界についての妄想を電車の音が裂く曇り空

首絞める遊びをしてたら落ちちゃった男子に男子が群がる小春

放課後の教室的なけだるさをなんでか君の部屋に感じる

韻律論の講義を受ける元彼も今彼もいる大教室で

もうなにも作らなくてもよくなってそれから初めて見る歩道橋

チョコバナナキャラメルチキンパンケーキおいしい 君と死ぬまで暮らす

じゃじゃーん実は生きていました音沙汰がないなーとか思ってくれてましたか

適当に入る居酒屋探すのが上手くなってて僕は泣きそう

この前はどこまで話しましたっけ横須賀のことは言いましたっけ

適当に本を選んで寝転んで君の栞の続きから読む

夕立がすぐに止むのを知っていて止んだら帰ると目も見ずに言う

あくまでも一般論ね、と言うきみの忠告がずっとこびりついてる

ちょうどよい猫背について語り合うぼくらにちょうどよい純喫茶

長い旅のなかで短い旅に出て戻ってきてもまだ長い旅

凡庸な比喩になるけど出口のない迷路みたいな恋になりそう

水筒にコーヒー入れているけれど水ですよって噓ついちゃった

この距離で気づく私もやばいけど県境ってたぶんまぼろし

生活を続けることで擦り減ってゆくものを箇条書きにしてみる

並べれば比べてしまう切れたままだった電池をきょう替えてみた

説得をするのはあなた納得をするのはわたしパン屋のにおい

バファリンと古本屋があってよかったー 一年中が夏になっても

永遠にだるま落としをしてたいね 笑い話にしなくていいよ

三月の海に潜って海底のアクアラインにさわってみたい

昔から知ってたような気になって越えてしまった県境がある

「わかりあう」まではいかない距離だけど山科駅に降る弱い雨

君は今日きれいな服であらわれて 今さら気後れして飲むビール

眺めれば山の向こうの明るさの存在感がたしかな窓の

ないものの話ばっかりしてしまう 居心地だけが良すぎるバーで

逃げられなくなる日を待っているような日記だ いつか読み返すなら

欠けているところを補い合うよりもやりたいことがあると告げてよ

三人で会うとき俺が遅れてて先に着いてる二人の会話

地震の揺れ、そのうえを走る電車の揺れ、そのなかにフリーターである俺

飽きるってわかってるのにまた何か始めたらしい白詰草と

人工物を変に愛する友人のおすすめで観た映画が泣ける

失踪のニュースでバズる親戚と郊外の地下のカフェで落ち合う

ポロックをフォトショで崩す夕焼が朝焼に見えてどっちでもいい

明らかな才能なのに暖冬の村を襲っている褒め不足

大トロをどんどん食べている君とツナマヨ軍艦ばかり食う俺

チーズナンセット1300円をご褒美として生きる今週

足音で歩幅がわかる能力がなければ君に好かれなかった

スランプのせいにして寝る寒すぎてあした絶対肉まん食べる

外からはさみしい暮らしに見えるらしい 雨から雪に変わった零時

ストーブを囲んで喋る昼休みずっとマフラーとらない君も

いつまでもここにいるけどいつだって今いる場所がここになるじゃん

こんなにも気持ちよくって馬鹿みたい知らない人が作った歌で

散歩ってタダだしサブスク入ってれば小沢健二でループできるし

昨日と今日がほぼ同じなのムカつくな ダーツで俺の旅先決めて

さむさむの夜の諏訪湖をかっぱ着て羊文学聴いて歩いた

当たり付きの駄菓子が好きで寄り道を通算六百回くらいした

イヤホンをしたまま神社に参ったりしたけど今のところ健康

でもだって言い訳ばっかり言いたくもなるよ引っ越すあなたをよそに

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