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自選百首②

オリジナルのハンドサインを向けられても伝わらないってわかりますよね

むかしむかし発掘されたガラケーを梅酒に浸して無限に嫁ぐ

カーテンを未来に過去と会いに来て平泳ぎには愛が速すぎ

要するに犬が二人で手を繋ぎ傘を丸めて公園を消す

流れ着く港を選ぶことなんて世界の中じゃ眩しいことさ

思い返せば、君とわたしのあいだには、常に誰かがいて喋ってる

それはまるで君がわたしに出会うまえみたいな朝で、とても自由で

昨日まで君と食べてた肉まんの匂いが嫌になり投げ棄てる

雪合戦したいのに雪降らなくて代わりにからあげクンを投げ合う

総なめにして差し上げるある視点部門もよく頑張ったで賞も

コート着て立つ人、アイス売り場にて考えているアイスのことを

遊園地のなかの普通の坂道で撮った写真が戦前っぽい

五年前くらいに言われたひとことに癒されている同じソファで

前髪がうざくて癖が増えそうなひとの喪服の袖のしわしわ

もしかして人が来るかもしれなくて来なかった日の床の綺麗さ

私のでなければ誰のなめらかな両手のひらの不穏な動き

消えたのか? ベッドに伸ばした両脚の健康的なテカリとともに

人と比べてしまいそうになったらすぐ寝るという素敵な特技

相談をされたいという欲望はかなり未熟なもののひとつだ

会えるとか会えないとかの問題じゃないのでもはや駅を去るべき

人生がめちゃくちゃなのは強いて言うならばお前のせいだが黙る

序盤から近くにいたというだけで添い遂げてしまうという悪夢

少しだけ多くもらっているけれど黙っておこう夢のあとさき

靴下を選んでいるとコタツから気が変わったとこもった声が

羽織ってたリバーシブルのブルゾンが人混みの奥に持っていかれた

400倍の大きさだけど400倍の遠さ、とかって譬えられたい

二十年住んでいるけどこの視座ははじめてだよと感じる寝かた

階段の途中で止まって見上げてる状態のまま告白してた

生活を知られてから気を許すのはなんだか手品みたいなもんだ

幸せは穏やかのことノンブルに誤植があってそれがよかった

きっとこの約束もまた破られて太陽系を出ていくでしょう

結婚はしないと言われ突然にチャリの空気を入れたくなった

当てられて取り繕えない表情のままマフラーを忘れて帰る

ついでかよ、なんて私は思わない思わないってことでいきたい

あのひとがいいと言ってたエッセイを読み返すのももう五度目だが

引っ越せばいいじゃないかと絶妙に心を揺らすことを言う人

両親が信じたものをこのひともわたしも信じているだけだった

うしろから肩を叩かれたら終わるルールのなかでじわじわ生きる

ミニクロワッサンが食べたいミニクロワッサンが食べたい誰か叶えて

さわったらぽきんと折れてしまいそう、と君が言うから冬の三日月

おそらくは同じ結果が来るけれどリフトに乗って足をぶらぶら

実在しない星座の名前を言い合って遊んでいたらあるやつだった

怒ったり嫌いになったりできるほど深入りしてもされてもいない

手にメモを、書いていたのに忘れてる、大事なやつとそうじゃないやつ

なんかしてせめて記憶に残ろうと思った時点でなんかちがった

「咬まれた?」と訊いてもなにも応えずにゾンビになりつつあるあたたかさ

顔を隠す丸を小さくしていくとピエロの赤い鼻っぽくなる

仰向けに寝ている僕にうつ伏せで乗っかってくる 春遠からじ

煙草吸うベランダの向かいの一軒家の工事中のビニールさわさわゆれる

説明のできない気持ちと向き合ってさくさく切れてゆくラ・フランス

着ぶくれて独りの部屋でなんでもいいから法律を破ってみたい

二〇一六年級の個人的ブレイクスルーがそろそろ欲しい

有名になってる同級生がいて吐きそうなほど嫉妬するなど

じわじわと気づくタイプの裏切りがそろそろ左心房に届きそう

受付の白いソファに手をついた夜に覚えた革のつめたさ

適当な過去からぴゅんと飛んできてさっきからいたみたいな返事

どうせまた売りにだすなら一つくらい譲ってくれてもよさそうなもの

夢の中では一度ずつだったけど二度ずつ音読されていく歌

罰ゲームの風船みたいに友達にも親にも言えないことが膨らむ

恋人に堕ちる予定もないのだし言ってしまって楽になろうか

聞き役としてなら何を言われても引かない自信があるのでどうぞ

ファミレスで黄緑色のフロートを飲みながら感想を話した

現状を肯定しようとするような言葉ばかりが湧き上がってきます

また買えばいいだけなのに何回も洗って使う半額の箸

あいさつをしてから名前を知るまでに時間がかかる憎い性格

キッチンの換気扇から外の音、夜中じゃないのに夜中みたいや

一月の澄んだ空気のなかにいたピースの写真を壁紙にする

伸びすぎて切られる木とかいつまでも人とは違うという気持ちとか

暖房が効きすぎているリビングで確かめているかかとの硬さ

指先の冷たい人と新鮮な気持ちでむかし飽きたゲームを

十年前にもらった飴を舐めているみたいな舌で海に近づく

静岡で生まれたらしいそのひとはホットミルクの膜がだいすき

結局はどっちの味も知ることになるんだなあとしみじみ思う

君の右、僕の左を卒業の証明として流れるお寿司

湖面にはほんとはなにも映らない落ちてきそうなこの曇天も

伝わらない言葉でその場を黙らせて、それでいいって思ってるのです

食べている暇のなかった弁当を夜に家庭で分け合って食べる

セーターを脱ぐときすこし思い出す記憶のことを撫でてあげてね

褒めるほど有象無象にされてゆくことがいささか鼻につくのだ

ほんとうに二周目みたいに生きている人とときどき出会ってしまう

とても似ていたので思わず乗り越したひと駅ぶんを孤独に歩く

振り向かなくてもわかっているけれどサービスとして振り向いてみる

CMのなかで着られている服はすべて綺麗で新品な服

焦点のズレた会話に尻すぼみ感を抱いているさようなら

こじれたらこじれっぱなしで黄緑のテープで留めてまだ使ってる

先っぽがキュッとなってるのりものにのって青森県までいこう

剃刀で髭を剃ってる数分の季節はずれの内臓のうごき

歌詞カードの字の小ささを全身で感じていたい木曜のよる

吐き出したものが何かもわからないままに回転ドアを出てゆく

教室の後ろの席から君が投げた白い時計を、僕が、摑んだ

なぜ同じ僕だと信じれるのですか思い出すこしこぼれただけで

ずっといるひとにだけしかわからない、いかにみんながずっといないか

ぶかぶかのブーツを冬に鳴らしてる混じりあえないままのこのひと

ずれてきたこたつのふとんもひらがなでのこしためももほったらかしで

別々の部屋にねむって別々に夢をみるから僕らはうたう

怯えてるときにだけ全方向へ発してしまう光のせいだ

それなりの見え方になるようにして誤魔化している、ひとりっぽさを

恋人じゃなくなったから恋人になるまえに戻ったみたいな会話

すこしずつ疎遠になりつつあることは手に取るようにわかってました

宇宙から古い電波が戻ってきて昔のラジオ聴けてしまった



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