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自選七十首

だれかからもらった名前を聞き慣れて、言い慣れてうつくしい海岸

重ね着で踊ってた君/僕はまだ半袖だった そういう季節

可愛い絵のグラスを贈る 割れるまででいいから使ってほしいと思う

めんどくさいことはやめてもいいよって誰かが言ってくれたみたいで

夕方から巻き返したぜ プチトマトぷちぷちぷちぷち 今日はいい日だ

もういちど会いたくさせてよ弱いセリフなんか言ってたね忘れちゃったよ

一年で髪短いしタバコやめてるし痩せてるし  髪、似合ってるし

この風はもしや秋かも鴨せいろ一緒に食べた遠くでちかくで

水を差す、そう水を差す、晴れすぎて誰も来てない公園に来て

公園に公園に来て居ないけどそのころ私はもう居ないけど

さよならの数歩手前の約束をずっとしている喫茶しらはま

先客がいるとちょっぴり悲しくて朗らかすぎる男と暮らす

食べるのがもったいないと言いながら君が崩してゆくモンブラン

ティーバッグ持ち上げる指つめたくて君は死ぬまで夕焼けが好き

梅雨明けの夜風あまくて君とだけ共感できていればそれでいい

夏の夜の七時半とかそのくらい少し笑っている顔が好き

ローマ字で鶯谷と書いてありちょっと嬉しくなった真夏日

きみの愚痴を韻文にして曲つけて歌ってあげる桜の街で

宛名以外書き終えてあるラブレター小さな菫の絵が描いてある

枯れてゆくときの匂いだ 横暴なむかしのきみが好きだったのに

ベランダで花火みながら煙草すう 汗ばんでぺたぺたと鳴る腕

私には二人しかいないようなひとが十人ぐらいはいるのだろうな

髪の毛が緑色なのきれいだね、ところで一つ悩みがあるの

朝ごはんしっかり食べた 静かな日 スカイツリーがくっきり見える

声がして振り向いたけど みんないて 満たされたならまた歩き出す

十年ぶりに触った肌がなめらかでそこからはもう覚えていない

足がないと会いにいけない手がないと静かになぐさめてあげられない。

深夜に急に散歩に呼べるともだちが欲しいだなんてどうしたの俺。

カラオケが閉店しても光ってる。蒲田駅から歩いて帰る。

もよもよと水に溶けてくウイスキー、花見の季節、終わってゆくね

バリバリと音を鳴らして壊れてく黒いラジオが羨ましいな

ほら君がいちばんいいよ ほろよいでなんでも言える夜もたまには

ポケットのなかでこっそり繫いだらキーンと冷えたバニラの味だ

あいている窓から入ってくる風が私をこんな気持ちにさせる

イヤホンで直接ふるわす鼓膜って一人で暮らす田舎みたいだ

へんてこな虚勢を張っているきみを笑ってあげる 笑ってあげる

シャラララと歌ってみても走るのに適した靴が一足もない

笑い話になってからしか私には教えてくれないきみの毎日

休日の電話無視して水筒にジャスミンティーを入れて出掛ける

からだからぬるぬるとした液体がいらないものなりのひかりかた

香水の色を眺めて本来の心身なんてもうわからない

ふえすぎた約束のように輝きを湛えて海に二度目の冬は

パイ生地で桃を包んで焼き上げるその時間だけ無心になれる

夕立に濡れた毛布をそのままにしてたら翌朝には乾いてた

引き延ばしつづけてしまっていたことのひとつとしての秋がまた来る

連休の真ん中の夜 誰もいない道だから歌いながら帰る

興味ねえことでみんなが怒ってる 体を畳むように眠って

空調の効いた小部屋で機械的に十首つくってからねむる俺

あめのおと 濡れる右肘 コンビニに二回行ったらもう終わる今日

たまに来るぶんには丁度いいけれど住むには疲れそうな駅前

真実はそうじゃないのかもしれなくて何も買わないナチュラルローソン

単色だと思い込んでた! ひさしぶりに見たらめちゃグラデーションじゃんか

ハイボール作って飲んでることとかは言わないけれどいちおう知ってて

ベランダに椅子置きたいが雨の日にいちいち片付けるのはだるそう

なんでもいいからおんなじやつにしただけで深い意味などないのだけれど

魔法かと錯覚したよでもあれは君が持ってた水色のライター

秘密基地つくったりした公園の近くに今もまだ住んでいる

真剣に観ているきみの肩越しのドラマがぼくもちょっと気になる

まちなかで公衆電話を見つけたら試しにぼくに電話してみて

詰め込んだリュックはいつか破れるし何がこぼれたかが判りにくい

人生がすごろくだったら歩きやすい「一回休む」はご褒美だしね

歩くことが信仰になる ものすごく納得感のある多神教

早割と直前割で生きてゆく やりたいことをひとつずつやる

何度でもきかせてほしい 何度でもハモったねってよろこんであげる

この夏の終わりを言祝いでいたよね派手じゃないけど僕たちなりに

月の低い夜に口ずさんでいたのは君だったっけ僕だったっけ

わざとらしく残されていたぬいぐるみ、そういうところそういうところ。

どうしたのこんな夜中に春に会う約束をして電話を切るの?

すれ違う人の視界に映る俺 歩く瞑想みたいな初秋

ぼくはいつも置いてかないでって言いかけてそれを色々に言い換えている

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