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連作短歌

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#創作

連作短歌「快楽=風景(空間/時間)のために」

散りかたの一つ一つを記録して自分の番に備えて眠る 引っ張ると面積の増えたテーブルをずっとそのまま使い続ける 駅前の感じを今もおもいだす、似ていないけど似ているからだ

連作短歌「次善の策」

体内に熱源のあるわたくしが1Kの部屋に寝転んでいて 古着屋のにおいがすると褒めながら昨日散らかしたのを片づける カキオコは牡蠣入りお好み焼きのこと岡山県のご当地グルメ

連作短歌「酸性雨」

忘れるという現象が悲しくて憶えることを手放してゆく 傘がなく濡れて帰るという夜をほんとは経験したことがない 口を開け上を向いたら味がする九月になったらステーキたべる

連作短歌「依頼心」

集まりたい 商店街のお鮨屋でひとりでランチ食べてて思う 人生でいちばん長い電話をした せんぷうき直撃で寝ちゃった あくびした 空が白むの早すぎよ 磁石のちからで閉じるカーテン

連作短歌「ウォーターベッド」

初対面のひとのサンダルからでてるつまさき見てるみたいなきもち こんなにもかわいいあくびをみることはもうないのかなとか目借時 水槽のみなもに波はたたなくて思い出されるひとのやさしさ

連作短歌「個人的に好きです」

夏過ぎて秋来たっぽいあなたから急に手紙が届いたからね 前回をおぼえていないほど泣けてしらないひとの意見がひびく おとといにつくった麦茶をのんでたら拾った猫の名前ができた

連作短歌「最高な歌にであうとき」

知ってるよ 残る彼らに違和感をいだかせたくはなかったんだよね ひらめいたみたいな顔はたのしいのにすこしいさみしいときの顔でしょ 人生ではじめてホームランをみたしゅんかん、俯瞰の俺がうまれた

連作短歌「緊張するのがひさしぶり」

ランダムな柄のハンカチ買ってみてぜんぶ気に入る柄だった夏 去ったけどあのとき戻ってきてくれたこれで終わるの嫌だからって 台本は無いんだからさ一瞬に冷と熱とを巡らせるんだ

連作短歌「juice」

てのひらがべたべたしてて嗅がせればパイナップルのにおいと君は 甘すぎずゴクゴクいけると言い合って 好きなだけ輝け夏の風 あれは選挙の次の日だったから春と夏がクルン!と入れ替わった日

連作短歌「枇杷の夜」

キャスターの甘い匂いを塗り替えて川面を殴る黒い夕立 自販機の前に立ってる男の子がどれを押すのか予想してみる 結婚が始まる夜に全員で爪立てながら剥く枇杷の皮

連作短歌「挟み撃ちが嫌い」

立っているだけで糾弾されそうな狭い広場に雪は降りつつ 絶妙に近くて遠いパスタ屋へふたり歩くよ月に二、三度 思い出すときの軽さが不気味なの過去の愛情まぶしいほどの

連作短歌「ため息の行方」

人参のポタージュを飲みおわるまで戦争をはじめるのは待って それ以外なんも憶えていないんだ君の日傘がめっちゃ黄色で 大文字のAを逆さにしたようなグラスをすこし曇らせる息

連作短歌「にがてのまま」

ですますがプリンをゆらす 声は息 今日はなんとか外に出られた かくれんぼは苦手なんですいつもすぐに見つかりたいと思ってしまい 波のよう 図書館のよう 皮膚のよう 知らないことを思い出すとき