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連作短歌

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2022年5月の記事一覧

連作短歌「逃げ足」

やわらかな期待とともに釣り糸を垂らしてみるという逃避行 よくしゃべる手と足と薄い唇と眼鏡と宇宙飛行士の傘 いたら会うかもしれなくて数十分ぼーっと座っていてみたベンチ

連作短歌「深海」

痛いほど冷たいという新潟の友人が絵に描く常套句 文字起こしされているインタビュイーは本州のことを内地と呼んだ すみっこで体育座りしていると光るクラゲやイカがときどき

連作短歌「リポスミン」

右斜め前の男の心地よい貧乏ゆすりを見れてよかった 君じゃないひとと踊っているときのような軽さで喋れたらなあ 平成の初期が私の脳内に入ってくるとたまに眠れる

連作短歌「branching」

君の立つ森はいつでも雨降りの気配に満ちてソファを濡らす ほんとうに一生だったことなんてないくせにまた約束をして 一番上に表示されるよう2030年になっている記事

連作短歌「五反野」

右を見ても左を見ても知った顔なのよ許せないことをされたい お探しのページは、僕の許せない人々により、探されました。 泣いているのは許せないからじゃなく同姓同名になりたくて

連作短歌「池袋」

おにぎりの専門店でおにぎりを食べると決めて家を出た朝 間違えて乗った荒川線だけが唯一正解だった一日 その時のボクは非常ににやけててキモくなってただろうと思う

連作短歌「渋谷」

手に載せた頭がこんなに重いこと日記に書いて憶えておこう 何も作らないで生きる人間が羨ましいってたまに思える 汗ばんだ背中をさする手のひらに何万年も残る体温

連作短歌「浮気性」

忘れてたことさえずっと忘れてたままがよかったままがよかった ゆめのなかでは信じれた必然は起きたらぜんぶ消し飛んでいる 僕じゃなく「さが」が悪いと言い張りたければそのまま溺れていれば?

連作短歌「引力」

置き手紙ほど頼りない奥の手があれば風刺も満ち引きになる 八年のうちに起こるであろうこと僕にじゃなくてその周辺で ありがとうそのパワフルで煩雑なプランの外に居させてくれて

連作短歌「ストーカー」

わかります黙っていれば完全な朝日に光る横顔でしょう 叱り合うこともできちゃうパートナーですと短い動画みせられ 言外の要求を飲み、これ以上、気配も影も消し去りましょう

連作短歌「メッセージ」

はじめからぜんぶじぶんで組み立てることに慣れずに溜めてしまって 反対の立場だったらもうすこし試飲をしたり試聴をしたい 言葉より何万倍も強力な思惑という一本道だ

連作短歌「パトリ」

帰るとき、自信を持っていたいから少しだけ手をつないで離す 振り向いてみれば調子に乗っていたすっかり大人になってる顔で それはもう攻撃だから 引かれると思わず話す人が凛々しい

連作短歌「なんでやねん」

美しい仮面の裏に失恋のような気持ちですでに笑って 嵐でも考えなしに走り出すそれが勇気だとも思わずに 誰だって嫌われながら生きてゆく 叶わないから続いた努力

連作短歌「共有」

夜光る宮下パークの階段の前の横断歩道の体温 夜更かしを自由さみたいに言ってくるやつと結婚したらだめだよ 半袖で東横線へ消えてゆく夢から夢へ乗り継ぐように