マガジンのカバー画像

連作短歌

894
ふだんの短歌です
運営しているクリエイター

2021年12月の記事一覧

連作短歌「父を褒める」

死ぬまでに肩まで浸かって十秒を数えてみたい地中海沖 がむしゃらにやってる人を見てるのが正直しんどくなってきた俺 両親のましなところを探しつつダイジェストみたいな会話して

連作短歌「指が好き」

プディングをお裾分けする、お裾分け いわゆる優しさともちょっとちがう ぼくの花粉症は目がしょぼしょぼするだけ 春のわたしはげんげん元気 まじですか、これって方言だったんすか、の、ところを何遍も聴く

連作短歌「おとぎ」

感情の村のお城を〈幸せ〉が牛耳っていて、たぶん独身 豪邸のプールにお呼ばれ プール後は重くてねむくて ゆめのなかでも ゆめのなかでねむくなったらそこがチャンス なのにいつも朝が邪魔する

連作短歌「待つあいだ」

大きくて時間をお腹に溜めている感じに見えて、とても無口で 聞いたことない音感の甘いもん、言ってしまえばグレナデンパフ、夏の 信じてるフリして喋った三十分間をめためためたに褒められ

連作短歌「換気」

玄関をあけると吹いてくるぬるい風があなたのようであふれる よわそうにみえないひとがじつはよわい心で日記を書いているよる 目が腫れているような気がするけれど触れずにいつものようなさよなら

連作短歌「ミラージュ/明晰夢」

搔き消してしまった声をスクラップブックに挟んで燃やした温度 宇宙から古い電波が戻ってきて昔のラジオ聴けてしまった ラブミーテンダー 夢とわかってみる夢の話を聴かせてくれてうれしい

連作短歌「ことこと」

液体に持ち主がいてなぜこんなことをしなくちゃいけないんだろ 思い出すことは今後もないだろう忘れることができないのだし 褒めるほど有象無象にされてゆくことがいささか鼻につくのだ

連作短歌「屋上」

もしかしてこれは自分のことかもと思ったときのだいたい違う 十年前にもらった飴を舐めているみたいな舌で海に近づく 寒がりと暑がりですら分かり合えないのであれば諦めもつく

連作短歌「爽やかなダッシュ」

静岡で生まれたらしいそのひとはホットミルクの膜がだいすき 青春の歌を歌って旧交を温めながら食すのり弁 久しぶりな感じはなくて少しだけ時間の流れがゆっくりになる

連作短歌「似ています」

偶然の一致をうらむ いまにして思えば取るに足らないことの 途中まで良かった曲を最後まで聴かないままで止まったしるし 結局はどっちの味も知ることになるんだなあとしみじみ思う

連作短歌「凪」

苦しさを避ける術ならまかせてよ、それ以上なら他所へ行きなね 実家から送ってもらったCDのケースが空でそのまま走る もんじゃ焼きを食べながら再確認した趣味の話もただのハリボテ

連作短歌「ノットビコーズ」

あきらかに分岐していた住み方は、座れる場所の数で量れる 立ち寄った公園とかでの話し方も、履修済みって感じの呼吸 噓っぽいと切り捨てていた住み方や話し方とかが落ち着くらしい

連作短歌「フィラー」

イヤホンで自分の声を聴いてると、不純なものを愛するひとに 叱られるたびに笑ったあの頃を思い出させるその低い声 どうせまた売りにだすなら一つくらい譲ってくれてもよさそうなもの

連作短歌「箱のなかのコップ」

ヘッドホンで聴いてる歌にハモってるくちぶえだけが社会にとける 減り方のことを毎日考えていたのに「誤差」と切り捨てられた ずっといるひとにだけしかわからない、いかにみんながずっといないか