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連作短歌

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2021年11月の記事一覧

連作短歌「きっかけ」

両親が信じたものをこのひともわたしも信じているだけだった うしろから肩を叩かれたら終わるルールのなかでじわじわ生きる 実在しない星座の名前を言い合って遊んでいたらあるやつだった

連作短歌「テレポーテーション」

なつかしい体育館でひたすらに過ぎる時間を眺めた四月 とても似ていたので思わず乗り越したひと駅ぶんを孤独に歩く 一月の澄んだ空気のなかにいたピースの写真を壁紙にする

連作短歌「うるさい隣り」

あの人がいいと言ってたエッセイを読み返すのももう五度目だが 引っ越せばいいじゃないかと絶妙に心を揺らすことを言う人 結婚はしないと言われ突然にチャリの空気を入れたくなった

連作短歌「タオル」

しがらみが閾値を超えて指数関数的に増殖し始めている 湿ってるタオルがさらに潤って滴るほどの嬉しさだった 未知数の地雷がかなりあるようで自分のせいにする悪い癖

連作短歌「小銭で払う」

繊細な声の震えを鉛筆でトレースすれば飾れるレベル 誘導をされてることに気づかない上目遣いに緩む腕組み 当てられて取り繕えない表情のままマフラーを忘れて帰る

連作短歌「あかるいよる」

ちょっとした喧嘩で崩れてしまいそう熱海で買った皿の重なり オリジナルのハンドサインを向けられても伝わらないってわかりますよね 月蝕の写真を未読のままにして赤白交互に飲み続けるぞ

連作短歌「微塵」

お察しの通りぼくらはそういったカンケイですがお茶にしますか? きっとこの約束もまた破られて太陽系を出ていくでしょう ついでかよ、なんて私は思わない思わないってことでいきたい

連作短歌「さくらんぼのによい」

生活を知られてから気を許すのはなんだか手品みたいなもんだ 上手いとはいえないようなイラストに緊張感を与える血糊 幸せは穏やかのことノンブルに誤植があってそれがよかった

連作短歌「階段」

階段の途中で止まって見上げてる状態のまま告白してた たたたたた回想シーンを書いてたらたたたたたたた過去形だらけ ファミレスで黄緑色のフロートを飲みながら感想を話した

連作短歌「奥歯」

二十年住んでいるけどこの視座ははじめてだって感じる寝かた 誰にでも自分よりかは強者と思って話せばいいから楽だ 大江戸線の窓に映ると誰だってスタイル悪く見えるのが好き

連作短歌「蜂」

ちょっと違うんだけどなーとか思われてそう逆の立場の時もあるから 口を出すだけのやつって思われるポジショニングに早く成りたい 400倍の大きさだけど400倍の遠さ、とかって言われてみたい

連作短歌「ぴぽぴぽ」

靴下を選んでいるとコタツから気が変わったとこもった声が 一服をしようと通りに出てみると月の明るさ不自然なほど 羽織ってたリバーシブルのブルゾンが人混みの奥に持っていかれた

連作短歌「右岸」

否定語を無視して想像されてしまう月をぺろぺろ舐めないピカチュウ 助手席に人がいるのが初めてで保育園でのおもいで話 少しだけ多くもらっているけれど黙っておこう夢のあとさき

連作短歌「お下品」

ひんじゃくなこころとからだで放たれて息継ぎできずやめた小1 明らかにはげてきている感じだがだがだが言っててもしょうがない 収入がほとんどおなじ先輩の四十歳をお祝いしたよ